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魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
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それぞれの辿る道程

 玄武は飛び上がると、アレイスに全体重をかけのし掛かった。それと同時に、アレイスの両腕を掴み掛けた。

 玄武は無言のまま不敵な笑みを浮かべた。


「くっ、離せ――っ!」


「アレイス――っ!」


 ミネルヴァがそう叫ぶ頃には玄武は真っ赤に燃え上がり、およそ三倍ほどに膨れ上がった後、爆発し自爆した。


――漆黒の闇が、玄武を中心に一瞬明るくなる。その閃光は、遥か港街にまで届いたという。


 再び漆黒の闇に包まれると、焼けただれた皮膚の臭気が周囲に漏れた。

 爆風が去った後、木っ端微塵になった玄武の亡骸と瓦礫の下敷きになったアレイスの姿があった。


「アレイス――っ!」


 紙一重で爆風を逃れたミネルヴァが駆け寄る。後方にいたイシュケル達も駆け寄った。睦月はというと、かすり傷はあったものの特に目立ったダメージはない。恐らく玄武が睦月を気遣い、ダメージが及ばないように考慮したのであろう。玄武なりに、睦月を愛していたことがわかる。


 イシュケルとウッディは放心状態になった睦月を無事救出し、アレイスに駆け寄った。


「アレイス、アレイス……目を覚まして……ください」


 瓦礫の下敷きになり無惨に傷付いたアレイスに対し、ミネルヴァは必死に呼び掛けた。


「お願い……。お願いです」


 両手をついて泣き叫ぶミネルヴァの背中をイシュケルは擦った。


「残念だが、我が息子は……息絶えたようだ……こうなっては私とて蘇生出来ない……」


「そんな、そんな……」


 さすがにイシュケルもショックを隠しきれず、それ以上は何も言えなかった。


「どけ、俺が何とかやってみる。睦月を頼む」


 ウッディは抱き抱えていた睦月をイシュケルに渡すと、祈りを捧げ蘇生を試みた。


「アレイスの御霊よ、主に戻れ――っ!」


 幾度となく蘇生を試みるが、黒い霧の影響で魔力が満足にいかない。ここまで壮絶な死を遂げると、魔法だけでは困難なのもウッディは知っていた。

だが、諦めなかった。


「戻ってこい、戻ってこい!」


「ウッディ……すまない。もういい……」


「でも……」


「もういいと言っているのだ!」


 ウッディはイシュケルの怒号にびくつき、蘇生をやめた。

 イシュケルは再び睦月をウッディに託し、アレイスを両腕に抱え込んだ。


「イシュケル、どうする気だ?」


「元の世界に戻る……」


「元の世界? 待てよ、元の世界に戻るなら、サハンと俺の魔法でどうにかなるかも知れない……」


「それは、本当か?」


「確証はないがやるだけの価値はある。その役目、俺に任せてくれないか?」


「やむを得ん、ウッディ……お前に任せる。問題はどうやって戻るかだが……鏡さえあれば」


「あの……鏡になるかわかりませんが、風水で氷を鏡に見立てることは出来ますが……」


「本当か? ミネルヴァ! そいつは、スゲーや。イシュケル、戻れそうだぞ!」


「うむ、ではミネルヴァ。頼んだ」


「わかりました」


 ミネルヴァは涙を拭うと、気を集中し空気中の水分で氷の壁を作り出した。


「どうでしょうか?」


「問題ない……上出来だ。はっ――!」


 イシュケルはその氷の壁に魔界ゲート作成の要領で、異世界ゲートを作り出した。


「さすがに魔王だな。それじゃ、行ってくるわ」


 ウッディはアレイスを抱き抱え、元の世界に戻っていった。そして、異世界ゲートは何事もなかったかのように溶けていった。


「アレイス、大丈夫でしょうか?」


「ウッディがいれば心配はない。それより、アレイスが不在の間は私が指揮を取ろう」


「あ、はい」


「私では不服か?」


「あ、いえ、それより睦月が……」


 意識を失っていた睦月がようやく今、目を覚ました。


「ここは?」


「気が付いたか……」


 睦月を抱き抱えたイシュケルは、優しく微笑んだ。


「気が付いたようだな……」


「すみません……」


 抱き抱えるイシュケルから恥ずかしそうに睦月は離れた。


「皆、心配したんですよ」


 ミネルヴァも心配そうに、睦月の顔を覗きこむ。

 睦月は自分の意思で立ち上がり、話し始めた。


「あたしは何をしていたのでしょう……それより、パパとアレイスは?」


「覚えていないのか?」


 イシュケルとミネルヴァは、睦月が玄武に操られていたことに気付いた。


「拐われたとこまでは覚えているのですが……」


「そうか……幾つか伝えておくべき事実があるが、心の準備はいいか?」


 イシュケルはあるがままの真実を睦月に伝えるのが、役目だと思っていた。


「はい、覚悟は出来ています……」


 睦月は全てを受け入れる為、瞳を静かに閉じた。


「うむ……まず、睦月よ。お前は騎馬四天王“玄武”に拐われた。そして、玄武に操られ花嫁にされそうになった……。そこに我々が駆け付けた。アレイスが戦いを挑み、最終的に玄武は自爆した……」


 そこでイシュケルは言葉を詰まらせ、一旦天を仰いだ。


「問題はその後だ……。玄武はアレイスを巻き込み自爆したのだ……そう、アレイスも死んだ……」


「そ、そんな……」


 睦月は泣き崩れしゃがみこむ。ミネルヴァはそっと寄り添った。


「しかしだ。ウッディがアレイスを連れ元の世界に戻り、サハンの力を借り生き返らせようとしている……僅かな望みだが、我々はそれに賭けるしかすべはない」


「では……あたし達は」


 大粒の涙を拭い、睦月は目を見開いた。そこに、“希望”を感じたかのように。


「心配するな……アレイスは必ず生き返る……少なくても私はそう信じている。それまで我々は残りの騎馬四天王を討とうと思う……着いてきてくれるな?」


「はい」


 睦月とミネルヴァはイシュケルの意見に賛同した。そして、一行はシルキーベールに散らばる魔物達の亡骸を片付け、人々が戻って来れるようにした。


――数日後。


「よし、では旅立つとしよう。まずは、港街を目指すぞ」


 睦月は僅かだが、希望を取り戻しつつあった。装備も街で見付けたプラチナの装備に替え、やる気は十分だ。


 こうして、イシュケル、睦月、ミネルヴァの旅は始まった。


 一方、先の戦闘で撤退したデスナイトは、山奥に静かに身を潜め魔シン族の残党と徒党を組んでいた。


 デスナイトが魔シン族の長になり、後に呪いの館でイシュケルとイセリナに倒されるのは、まだまだ先のこと。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、アレイスサイド。


――ここは、異界。死んだ者がさまよう場所。


 死んだアレイスはそこに来ていた。


「ここは何処だ? 僕は死んだのか?」


 モノクロの世界にひっそりと佇む宮殿だけが、アレイスの前に姿を現す。

 アレイスは導かれるように、白を基調とした石造りの宮殿に足を踏み入れた。


「誰か、居ませんか?」


――耳鳴りがするほど無の世界。自分の声に驚くほどの無。


「誰ですか? 騒々しい……」


 そこには白い布一枚だけを羽織り、透き通るような肌の美しい女性がいた。床まである赤い長い髪が印象的で、瞳は空のように青い。あまりの露出度の高さに、アレイスは目を背けた。


「ア、アレイスと申します。どうやら死んでしまったらしいのですが、道に迷ってしまって……」


 その女性は、まじまじとアレイスを見つめる。


「貴方は人間ではありませんね? ここは、人間の来れるような場所ではありません」


「確かに……ハーフと言うか……魔王と勇者の子です」


「そうですか……」


 その女性は上品な笑みを浮かべると続けて、


「ここは、運命を背負いし強き者が集まる神殿、レチュール宮殿です。そして、私はその導かれし者を案内する“マナ”という者です。ここにいると言うことは、貴方も運命を背負いし者なのでしょう。何より、肉体が実体化しているのがその証拠です」


「でも、マナ様……」


「マナでいいです」


「マナ、僕は死んでしまったんです……」


 マナはクスクスと笑った。


「何が可笑しいのですか?」


「さっきも言いましたが、貴方の肉体は滅んでいません。運命ならば、誰かが魂を呼び起こすはずです。その時こそが、貴方の成すべき道が開けた時……」


 マナはそう言うと、アレイスに背を向けた。


「魂が戻るその時まで、私が貴方の手解きを致します。イヤとは言わせませんよ」


 アレイスは希望に満ち溢れ、力強く頷いた。


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