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バージンロードを血に染めて

 復興が始まって間もないこの街の家屋は、オークや、魔シン達の手によって瓦礫の山と化されていた。

 奴隷から解放された人々も残虐に殺され、血肉が散乱しているという有り様だ。多分、こうしてこの街は滅んでいったのだろう……。アレイスとミネルヴァは、思った。


「奴らに好き放題暴れさすほど僕はお人好しじゃない……この街も、睦月も助ける……」


 アレイスは鞘から剣を引き抜き、魔物達のいる正面で仁王立ちした。それは正に、三國志で語られた張飛の長坂での仁王立ちを髣髴ほうふつさせるかのようだった。

 オークや魔シンは、アレイスを見るや否や怒涛の攻撃を仕掛けてくる。

 プ~ンと香る果実酒の中、一人で何十体ものオークや魔シンを相手に無傷で潜り抜けた。もはや、誰もアレイスを止めることは出来ない。

 戦闘を重ねる度に備え持ったセンスに磨きをかけ、デスナイトとの戦いで落ち度があった箇所を修正し、ますます強くなっていた。


「どけっ! 雑魚に用はない! お前達の親玉は何処だ?」


 アレイスは叫びながら、迫りくる魔物達を薙ぎ払った。容赦ない破壊力と、疾風の如く振り回された剣に抵抗する者もいなくなり、道が開けた。

 後方で想像を絶するアレイスの働きに、イシュケル達は言葉を失いかけていた。


――先ほどの戦いといい、今の立ち振舞いといい、どれほど強くなるのだアレイスよ……。これが魔王と勇者の血筋だというのか……。


 既に自らを越え、限界突破をしようとしているアレイスに、イシュケルは魔王の座を受け渡す覚悟をした。


「アレイスよ。この漆黒のマントを受け取るがよい……」


「しかし、父上、これは……」


 アレイスは誰よりもこのマントの重要性を知っていた。


――マントを受け渡す=魔王の座の失脚。


 そんな図式が飛び込んでくる。


「父上……今はまだ、受け取れません……世界が平和になったら、慎んでお受け致します」


 アレイスはイシュケルの矜恃も考慮し、今はその時ではないと示唆した。

彼らしい尤もな意見であろう。

 そんなアレイスにイシュケルは頬が緩んだ。


――“立派な男になったな”と……。




◇◇◇◇◇◇




 シルキーベールの街の中心部である広場に辿り着くと、強面の魔物と共に一際異彩を放つ魔物がドンと腰を据える。それはまるで、アレイス達が来ることを予想しているかのようだった。

 そして、その魔物達の後方には赤い布で覆われた祭壇が作られていた。


「グハハハ。待っていたぞ、小僧。好き放題やってくれたようだな? おっと、名を名乗らなくてはな。ワシは騎馬四天王が一人、玄武げんぶだ」


「騎馬四天王だと? ふざけるな! この街と睦月を返せ!」


 アレイスは玄武と名乗る厳つい魔物に、煮えくり返る思いを露にした。


「まぁ、そう慌てるな。客人よ……。これを見よ!」


 玄武がそう言うと、側近らしき魔物達が祭壇に掛けられた赤い布を取り払った。

 何とそこには、シルクのウェディングドレスを纏った睦月が大木に縛り付けられていたのだ。


「グハハハ。これからワシとこいつの式を挙げる。シルキーベールで挙式を挙げるのがワシの夢だ。さぁ、宴の始まりだ」


 今度はアレイス達に向かって白い絨毯を敷いた。


「さぁ、お前達の血で、この絨毯を真紅に染めバーシンロードを作るのだ」


「ふざけたことを……俺の娘だぞ!」


 ウッディは身を乗り出し激怒した。

しかし、当の睦月は、遠い目をして玄武の愛を受け入れようとしていた。


「グハハハ。永遠の口付けだ……」


 玄武は睦月に近付き、顎を掴み自らの唇に近付けた。睦月は素直に受け入れ、抵抗する気はない。洗脳でもされているのだろうか……。


「このままで、いいの…………か?」


 アレイスの横でポツリとイシュケルは言った。思わずアレイスの握る拳の力が強くなる。


「やめろ……やめろ――――っ!」


 アレイスは感情を剥き出しにして叫んだ。


 傲慢な態度の玄武を許すはずもなく、無意識のうちに鞘から剣を素早く抜くアレイス。

 剣は水平に振り抜かれ、そこに飛び込んできたオークやら魔シンが、真っ二つになっていく。それはまるで、剣に吸い込まれ自ら自害しているかのようにも見えた。


 そして、雑魚敵を蹴散らし玄武の前にアレイスは立った。


「睦月……睦月、しっかりしろ!」


 玄武はこれから永遠の口付けだという時に、邪魔をされたから怒りが収まらない。

 睦月は依然として、魂が抜けたように虚ろな表情を浮かべいる。


「睦月……今助けるからな……」


 アレイスの声に睦月は反応せず、弱々しく呼吸を繰り返すだけだった。


「無駄だ……こいつはワシのモノだ」


 玄武は身を乗り出し、本来のあるべき姿を露にした。想像を絶するほど巨大化し、鋭利な爪を降り下ろす。一言で言うと、亀の化け物である。


「それで勝ったつもりか? お前は僕に勝てないよ……」


 巨体の割りに正確な攻撃をスルリと躱しながら、アレイスは言った。


「小僧……まぐれで避けたくらいでいい気になるなよ!」


 そう言いながら玄武は右手と左手の爪を交互に打ち付け、突進してくる。

 イシュケル達はその揺るがす大地に怯え、後退を余儀なくされた。

 しかし、アレイスだけは違った。避けもせずその場に立ったままだ。

 玄武は容赦なくアレイスの首筋を狙う。誰もが目を背けたその時、悲鳴を上げたのは玄武だった。


「どぁぁぁ……」


 開口された口元から真紅の血液が吐き出され、純白のバージンロードを染めた。

 見上げた玄武の首筋からは、骨まで見える生々しい傷痕が顔を出す。頑強な甲羅を避け、比較的柔軟な首筋に魔斬鉄を放っていたのだ。しかも、何の構えもなしに一瞬のうちにだ。

 致命傷とまではいかないが、アレイスはあれほどの技を通常攻撃の如く繰り出したのである。


「イシュケル……アレイスの奴、今何をやったんだ?」


 動揺を隠せずウッディはイシュケルに問いただしたが、イシュケル自信も何が起きたのか把握出来ないでいた。


「……魔斬鉄です……玄武の攻撃を避けながら、一瞬のうちに魔斬鉄で反撃したのです……」


「……えっ?」


 意外にもウッディの問いに答えたのはミネルヴァだった。


「ミネルヴァには、今のが見えたのか?」


「ええ……見えました」


 ミネルヴァもまた千里眼が開花し、覚醒しようとしていた。


「私も、何か役に立ちたい……指を加えて見てるのは、いやですわ……」


「お、おい。ミネルヴァ!」


 ミネルヴァは止めるウッディを払いのけ、アレイスの戦う前線に駆け出した。


「ウッディ……どうやら、我々の出る幕はなさそうだな……」


 ウッディの肩に手を乗せイシュケルが言う。それは満足げで、それでいて悲しげな目で……。


「アレイス、私にも手伝わせて下さい……」


「ミネルヴァ……よし、それじゃ風水と剣を融合させよう」


「わかったわ」


 技を融合させようとする二人に、玄武が咆哮をあげる。


「貴様ら、皆殺しだ――っ!」


 出血多量で意識が遠退いているのか、方向感覚を失いよろめきながら突進してくる。

 ふと、ミネルヴァに嫌な予感が過る。


「アレイス、逃げて――っ!」


 ミネルヴァの声も届かず、技の融合に向け準備を進めるアレイス。


「大丈夫だ、こんなモノ受け止めてやる」


 アレイスは融合の準備をやめ、剣を構える。


「駄目――――っ!」


 ミネルヴァは再度叫んだ。


「もう、遅いわ――っ! 死ね――っ!」


 玄武は脇見もせずアレイスだけを睨み付け突進した。


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