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アレイス達の行方

「やはり、この世界に来ていたか……」


 イシュケルは嫌な予感が当たり、肩を落とした。


「悩んでる暇はない。二人を探そうぜ」


 気を落としていたイシュケルを宥めるように、ウッディは言う。

 気持ちは先走り、歩くペースも上がる。


 山々を望む山岳地帯へと足を踏み入れると、二手に別れた道が二人の前に現れた。


「イシュケル?」


「あぁ、まさかとは思うが……」


――左に行けば港街。右に行けば鉱山だ。


「ウッディ、念のため二手に別れるぞ。お前は鉱山方面に向かってくれ。私は港街を目指す」


「了解だ。見つけ次第、またここで落ち合おう」


 ウッディがそう言うとイシュケルは、静かに頷いた。そして、二人はお互いの背を向け歩き出した。




◇◇◇◇◇◇


 ――ウッディサイド。


「睦月……何処行っちまったんだよ……」


 漆黒の闇をウッディはひた歩いた。

目指すべき道は険しくなり、以前より年老いたウッディにはキツいものだった。だが、そんなことはお構いなしに、我が子の為にただひたすら道を歩いた。そこに我が子がいるという保証もないのに。


 やがて、アレイス達も訪れた炭鉱所に辿り着いた。人っ子一人いない、静寂に包まれた炭鉱所。


「誰かいないのか?」


 その静寂を打ち破るかのように、ウッディは声を張り上げる。その声は虚しく響き渡り、再び静寂がウッディを襲う。

 周囲にはアレイスと睦月が倒したダグラスの死体と、おびただしい数の大蛇の亡骸――。


「これは……睦月、まさかお前達が……」


 その光景を目の当たりにして、ウッディは微かな可能性を感じた。親としての、直感である。

 その後、二人を探して炭鉱所を探索するも、見付けることは出来なかった。


「既に、旅立った後か……でも、二人の身に何かが動き始めているのは確かだな」


 独り言を言うウッディは歩き疲れ、その場に座り込んだ。


――その時。


 誰もいない筈の炭鉱所に、僅かな音と共に気配を感じた。

 堪らずウッディは、


「誰だ? 居るのはわかっているぞ」


と、言い放った。

 そこに現れたのは、大木に悪魔が宿った人面樹の群れ、群れ! 片手に足りないくらいの群れだ。それは人面樹であった。


「やっと姿を現しやがったか。このウッディ様が、相手になるぜ!」


 ウッディはすかさず炎の塊を投げ付ける。人面樹は燃え盛りながらもウッディに襲い掛かる。


「危ねぇ、危ねぇ。トロいんだよ。お前達は」


 間髪入れず次の魔法を繰り出す。三体もの人面樹は、僅か一撃の魔法で火だるまになり断末魔を上げた。


「さ~て、次はどいつだ?」


 ウッディは更に連続で魔法を唱える。

 人面樹は刃物で引き裂かれたように真っ二つになり、今度は四体まとめて葬った。ここまで、かすり傷一つない。


――残る人面樹は三体。


 前方に二体と、後方に一体だ。人面樹達は危険を省みず同時に攻撃を仕掛ける。ウッディは後方の人面樹の攻撃を鮮やかに躱し、前方の人面樹二体に炎を投げ付けた。


「邪魔なんだよ」


 ウッディは魔法使いらしからぬ回し蹴りで、三体の人面樹の息の根を止めた。


「ふぅ……いい運動になったぜ!」


 あれほどいた人面樹の群れを、たった一人で片付け余裕の笑みを浮かべた。


「俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」


 その戦闘の後、ウッディは戦い疲れたのか、意識が遠退きその場に眠り込んでしまった。



――翌日。



「眠っちまったか……ていうか、何だこれは?」


 この時、ようやくウッディは気が付いた。この世界に朝が来ないことを。


「どうなってんだよ……」


 そう言いながら高台にある水場で顔を洗うと、あるはずもないものが目に飛び込んでくる。


――シルキーベールの街だ。


「あんな所に街なんかあったか? 何か匂うな……」


 ウッディは濡れた顔を拭うと、その街を目指して歩き出した。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、アレイスサイド。


 アレイス達は、シルキーベールにあるミネルヴァの家で暗黒の朝を迎えた。

 アレイス達は、イシュケルやウッディが自分達を追ってこの世界に来ているとは知るよしもない。


「眠れましたか?」


 ミネルヴァは朝食の準備をしながら、アレイス達を優しく起こす。

 手際よくテーブルに並べられたスープは、アレイス達の食欲をそそった。


「非常食しかなかったもので、こんなものしか作れませんでしたが、どうですか? お口に合うかわかりませんが……」


「美味しいよ。少ない食材で、ここまで作るなんて……」


「そんなことないです」


 二人の会話を傍で聞いていた睦月は、またも嫉妬していた。密かに睦月はアレイスに恋心を抱いていたのだ。

しかし、睦月はそれを悟られぬように、気持ちを圧し殺していた。


「ところで、ミネルヴァって何歳なんだ?」


「十五歳ですよ」


「なんだ、僕達と同い年か……」


「そうなんですか……」


「そろそろ、いかない?」


 二人の会話に睦月が割って入る。


「そうだな」


と、アレイスは返し、身なりを整える。

 身なりといっても、普段から身に付けている王子のマントを羽織るだけなのだが。

 アレイスは、このマントがないと気が引き締まらなかった。幼い頃からの習慣だったからである。

 ミネルヴァも慌てて奥に引っ込み着替えをしに行く。さすがに、みすぼらしい奴隷の服で旅するには心許ない。

 暫くして、着替えを終えたミネルヴァが姿を現す。


「亡くなった母の物なんですが、どうでしょう……」


 深い緑をベースに金糸で刺繍が施されており、色鮮やかな魔法石が装飾された魔法のローブだった。


「風水師だった母が、唯一生活が貧しくても手離さなかった魔法のローブです……私はこの形見のローブを着て、父と母の仇をとりたい……」


 アレイスと睦月は言葉を失った。

自分達にそこまでの覚悟があっただろうか?


――否。


 恵まれた環境で育った二人は、底辺の生活を知ることもなかった。知ろうともしなかった。だからこそ、ミネルヴァの素性に心を打たれたのだ。そして、今までの生き方を戒めるように恥じた。


「ミネルヴァ、よく似合っている……」


「本当ですか?」


 珍しく子供のように無邪気に微笑む。


「必ず……仇をとるぞ」


 アレイスがそう言うと、真剣な眼差しでミネルヴァは頷いた。

 そして、両親の遺骨が入った壺を抱え込むと家の扉を閉めた。家族の思い出を、封印するかのように。


 シルキーベールの街外れに、共同墓地があった。アレイス達はミネルヴァの両親の遺骨を弔い、暗闇でも咲く名もなき花を添え、両手を合わせた。


 決意を新たに、旅立つアレイス達。

ミネルヴァの両親や、シルキーベールに壊滅的被害をもたらした騎馬隊の情報を集めるべく、今度こそ港街に向かおうとするのであった。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、ウッディサイド


「なんだってんだよ。この険しい道は……」


 ウッディは途中で道を間違え、道なき道を突き進んでいた。シルキーベールまでの道を、遠回りしていたことに気付かずに。


「ふぅ、やっぱり街だ……。しかし、だいぶ荒れ果ててはいるな……あの更地だった場所にこんな街があったなんて……」


 茂みを掻き分け、辿り着いたシルキーベール。

 復興に勤しむ大工達に、ただ事ではない何かが起きていたのだと察知した。

 シルキーベールを探索するウッディだが、人々はあまりに無関心だ。その土地の者じゃないウッディが徘徊しようとも、目を合わせようともしない。

復興は進んでいるが、希望は感じられないと思った。


「……アレイス、行くわよ」


「ん? この声は?」


 聞き覚えのあるその声に、ウッディは反応した。次第に声は近くなり、その声の主が睦月だと肉眼でもわかる距離に近付いた。


「睦月――っ!」


 張り上げるウッディの声に答えるように睦月は、


「パパ――っ!」


と、言って駆け寄った。

 そして、ウッディと睦月は無言のまま、抱き締めあった。

 少し遅れて駆け寄るアレイスとミネルヴァ。

 ミネルヴァは、ウッディが睦月の父親だと知り名乗った。


「睦月のお父様ですね? 私、ミネルヴァと申します」


「おう、睦月が世話になったみたいだな。それより……」


 ウッディはバツが悪そうにしているアレイスを、微笑みながら睨んだ。

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