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風水師 ミネルヴァ

 ダグラスはピシャリと鞭を鳴らし、アレイスに言う。


「このダグラスに歯向かったこと、後悔させてやる」


 アレイスも強気の目線で、ダグラスを睨み付ける。


「理由は知らないが、弱き者に手を出す奴が一番嫌いなんだよ」


「気に入りませんね。その真っ直ぐな瞳。よろしい……私が直々に相手になりますよ。あとになって謝っても許しませんからね」


 アレイスと睦月は、鞘から剣を引き抜き構える。

 先手を取ったのは、ダグラスだ。自在に鞭を操り、睦月に足元に巻き付けた。睦月は冷静に鞭を切り裂き脱出した。


「ほう、思ったよりやりますね。なら、これならどうです?」


 ダグラスは予備に持っていたもう一つの鞭を持ち、再度襲い掛かる。その鞭はまるで、生きているかのようにうねりを上げた。


「こいつ、中々やるぞ」


「吠え面かくのも、今のうちです」


 生きているかのように見えた鞭は本当に生きていて、大蛇へと変化した。

幾重にも広がり毒を伴う鋭い牙が二人を襲う。


「鞭が大蛇に? アレイス……どうする?」


「慌てるな。そんなもん子供騙しだ」


 アレイスは恐れることなく大蛇になった鞭を切り裂いていく。首を刈り取られた大蛇は、うごめきながら地面に散乱した。


「大した技じゃないな。それが本気だとしたら、がっかりだ……」


 アレイスはダグラスを挑発した。ハッタリではない。既に戦いに飢えていたのである。

 ゴブリン達の戦いで自信をつけ、自分より強い者を本能的に求めていたのである。無論、傍にいた睦月も例外ではない。元々好戦的ではなかったが、睦月もまた自分の中で覚醒しようとしていたのだ。


「弱い者をいじめるのは、やめなよ。あたしは無駄な殺生はしたくない……」


 アレイス達は、ダグラスが自分達より遥かに格下と判断していた。


「我々の計画は、邪魔させません……。本当の力をお見せしましょう」


 ダグラスはタキシードを破り去り、本当の姿を現した。滑りのある輝く鱗に、鋭い牙。その姿は、差し詰め蛇人間と言ったところか。


「無駄だと言った筈だ。お前はどう頑張っても、僕達には勝てないよ……」


 アレイスは変身したダグラスに、溜め息混じりにそう言い放った。

 やれやれと、気の抜けたような攻撃をダグラスに喰らわす。ダグラスは避ける間もなく、右腕が刈り取られた。


「だから、言ったろ? 命が惜しかったら、観念するんだ」


「くっ……」


 ダグラスは片腕を失ったのを確認すると、止血もせず飛び掛かった。


「何?」


 ダグラスの飛び掛かった先は、先ほど助けたミネルヴァのところだった。

ダグラスは、大蛇の鞭をミネルヴァに巻き付ける。


「どうです? これでも抵抗しますか?」


 ダグラスの欺瞞的ぎまんてきな態度に、睦月はキレた。


「生きてる価値がないわ……もう、許せない……」


 睦月はゆっくりと、そこに駆け寄る。


「こ、こいつが、どうなってもいいのですか?」


「…………」


 慌てふためくダグラスに、返す言葉はない。

 更に睦月は近付き、ダグラスを睨み付ける。


「な、何ですか?」


――“キィン”と、軽い金属音がこだまする。


 睦月は剣に付着した血を拭うと、剣を鞘に納めた。


 約一秒ほど遅れて、ダグラスは頭から床に倒れ込んだ。

 ミネルヴァは、悲鳴を上げながらアレイス達のもとに駆け寄った。


「大丈夫だ。もうそいつは死体でしかない……」


「助けて頂いて、ありがとうございます。私は、ミネルヴァと申します。あの……お名前をお聞きしてよろしいですか?」


 ミネルヴァはブロンドの髪を気にしながら、アレイス達に聞いた。


「僕はアレイス。こっちは……」


「睦月だよ。よろしくね」


「皆さん、お強いのですね。あのダグラスを意図も簡単に……」


「大したことないよ。なぁ、睦月?」


「うん。それより、何で皆、魂を抜かれたように働いているの?」


 睦月は核心に迫る質問をした。


「お話しておくべきですね……あれは、嵐の夜の事でした…………」


 ミネルヴァは一度言葉を飲み込んだ後、話を始めた。


「あれは嵐の夜の事でした。私は、この炭鉱所から程近いシルキーベールの街にいました。窓を叩き付ける激しい雨。それに紛れて、何十もの騎馬隊が街を襲いました。彼らは言いました。“ここにも、ないか”と。その後、その騎馬隊は何の罪もない街の人々を殺して回りました。私の両親も、その騎馬隊に殺されました。私は運良く、ダグラスに気に入られ命は助かりました……」


 ミネルヴァは当時を思い出し、言葉を詰まらせる。


「ミネルヴァ……辛いなら、無理しなくていいんだよ」


 アレイスはミネルヴァを気遣い、肩に手を乗せた。


「すみません……大丈夫です……ダグラスより上の指揮官は言いました。“あの鉱山なら、見付かるかもしれんな”と。生き残った人間は皆、ダグラス達の奴隷としてここで働くことになったのです。その頃からです。この世界に太陽の光が差さなくなったのは……」


 ミネルヴァは話終えると、我慢していた涙を流した。


「泣いていいんだよ……辛かったね……」


 睦月は泣き崩れるミネルヴァを抱き締めた。


 アレイスは天を仰ぎ言う。


「後は、僕達に任せてくれ」


「私達が、その騎馬隊の悪者をやつけるからさ」


 睦月もアレイスに同調する。


「待って下さい。私も連れてって下さい。父と母の仇をとりたいのです」


 ミネルヴァは真っ直ぐな瞳で、訴えかけた。


「気持ちはわかるが、これは遊びじゃない……残念だが連れていくことは出来ない……」


 ミネルヴァを連れていってあげたい気持ちはあったが、のさばる魔物に対応出来るとは思えず、厳しい言葉を投げ掛けた。


「アレイス……」


 アレイスのキツい口調に憤りを感じた睦月だったが、ミネルヴァの命を保証出来る自信がなかった為、それ以上は口にしなかった。


「どうしても、駄目ですか?」


「駄目だ……」


 引き下がらないミネルヴァに、アレイスはキッパリと言った。


「ならば、認めてもらうまでです。私はこう見えても風水師。地の利をを活かした攻撃は誰にも負けません……」


 ミネルヴァはアレイス達と間合いを取り、両手を掲げる。


「ご無礼をお許し下さい! 風よ、吹き荒れろ!」


 突然、ミネルヴァの周りに風が輪を作り木の葉が舞う。


「行きます。木の葉乱舞――っ!」


 突風と共に木の葉が、アレイス達を巻き込む。木の葉はやがて刃となり、アレイス達の頬を斬り裂いた。


「ふぅ……どうですか? もう一度聞きます。私も連れてって下さい」


 突風が止むとミネルヴァは、頭を下げアレイス達に再度お願いした。アレイスは頬を流れる血をペロリと舐めるが、微動だにしない。


「ミネルヴァ、凄いよ……。アレイス、連れてってあげようよ」


「勝手にしろ……だが、一つだけ聞かせてくれ。何故、それほどの力を持ちながら戦おうとしなかった?」


「それは……私には戦おうとする勇気がありませんでした……。でも、アレイス達に助けられてわかりました。私にも何か出来るんじゃないかって……」


 その瞳はさっきまでのミネルヴァとは違った。正義に満ち溢れ、両親の仇とりたい――そして世界を救いたいと言っているようだった。

 それを聞いて、アレイスは、


「行くぞ」


と、だけ言い添えた。



 その後、解放された人々は皆抱き合い喜び、シルキーベールの街に戻って行った。


「ところで、ミネルヴァ。港街に行きたいんだが……わかるか?」


「港街は、ここから逆方向ですよ」


「何だと?」


 アレイス達は、自分達が歩んできた道が間違っていたことに初めて気付いた。


「心配しないで下さい。私が居れば、方向を間違うことはありません」


 ミネルヴァはアレイス達が道に迷ってここに辿り着いたことに気付き、そのお陰で解放されたのだなと、感謝していた。


「取り敢えず、私の住んでいたシルキーベールに行きましょう。何もないですが、寝泊まりくらいならできますから」


「その言葉に甘えるとしよう」


「うん」


 アレイス達はミネルヴァの好意に甘え、シルキーベールを目指した。


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