死闘の始まり
「どうした? もう終わりか?」
傷付いたイセリナに剣先を向け、ラックは言った。暫くすると、瓦礫の山からイセリナが這い出て来た。
「凄い破壊力ね。正直、もう駄目かと思ったわ。でも、真・天地壮烈斬をまともに受けた甲斐があって、弱点も見つけたわ」
イセリナは砂ぼこりを祓いながらそう言うと立ち上がった。
「ほう、今ので見切ったと? ならば、それを証明してみよ! 真・天地壮烈斬!」
ラックは再度、真・天地壮烈斬を放った。イセリナは待ってましたと言わんばかりに、地面を蹴りあげ飛び上がるとラックの背後に回った。
「何!」
ラックは技の制御が効かず、壁に向かって突進していく。それを見届けたイセリナは、背後に鋭い一撃を喰らわした。
「ぐはっ。み、見事だ。よくぞ、この技の弱点を見抜いた」
真・天地壮烈斬は強烈な破壊力を持つが、直線的な攻撃故に背中がお留守になるのだ。
「イセリナ……この技を見切ったお前は、真・天地壮烈斬を使いこなせる筈だ。ただ、弱点を悟られてはならない。わかったな?」
「えぇ、わかったわ」
イセリナは深く頷いた。
「ドーガ、例のやつをイセリナに!」
「あいよ。ほら、イセリナ。伝説の剣だ。大事にしろよ」
ドーガは再びきらびやかな伝説の剣を取り出し、イセリナへ手渡した。
「どうだ? イセリナ。その伝説の剣で真・天地壮烈斬を放てば、私がお前に放った威力の何十倍にもなる筈だ。これで、ジュラリスを倒すのだ」
「私、倒します。必ず」
イセリナは受け取った伝説の剣を鞘に納め、決意を新たにした。
「さて、ラック。ワシ達の出番はこれで終わりだ。そろそろ帰るとするか?」
「そうだな。未来はお前達に託した。では、さらばだ!」
ラックとドーガはニッコリと微笑むと、煙のように消えていった。
「さぁ、我らも行くぞ! 敵はすぐ目の前だ」
イシュケル達は処刑所を離れ、更に奥の部屋へと進む。どうやらここで行き止まりらしい。一段低くなった床に、忌々しい魔物がイビキをかいて眠っている。
「グゴゴゴ……」
眠っているにも拘わらず、物凄い殺気だ。
「どうやら、こいつがジュラリスのようだな」
イシュケルはその魔物の顔を覗き込
む。
「奴が眠っている今がチャンスだ。皆、全力でいくぞ」
イシュケルがそう言った瞬間イセリナが言う。
「イシュケル! 危ない!」
何が起きたかわからないうちに、イシュケルは壁に叩き付けられていた。
「我が名は、ジュラリス……破壊の王。我の眠りを妨げる者よ。何故に邪魔をする……」
イシュケルを吹き飛ばしたのは、他でもないジュラリスだった。
イセリナ達は言葉を失っていた。イシュケルは壁に叩き付けられたまま、まだ起き上がれない。
「答えよ! 答えぬのなら、我が生け贄になるがよい……」
ジュラリスはそう言うとゆっくりと立ち上がった。牢獄の天井は比較的高いほうだが、その背丈は見上げるほど高い。更にはゴツゴツとした竜の鱗のような身体に、巨大な爪。頭には二本の厳つい角がついていた。
「さて、どいつから料理してやろうか? 我の生け贄になるのだ。嬉しいかろう?」
ジュラリスが巨大な両足で足踏みすると、立っていられないくらいの地震が起きた。天井からは砂埃が、舞い降りる。
一方、イシュケルはまだ気を失っていた。イシュケルほどの実力者が、一撃で気を失う程のジュラリスの攻撃。
その圧倒的力の前に、イセリナ達は未だ動くことが出来ないでいた。
「小わっぱどもが!大人しく我にひれ伏せよ。それとも、地獄を見たいか?」
ジュラリスはその巨体を震わせ、灼熱の炎を吐き出した。辺りは閃光と共に炎に包まれた。しかし、イセリナ達はジュラリスの放った炎が身体を捉えるより一瞬早く、地面を蹴り上げ跳躍し最悪の事態を免れた。
すかざずウッディは水の魔法を放ち、炎は何もなかったかのように鎮火した。
ジュラリスは欺瞞に満ちた態度で鋭い眼光を浴びせ、続けて巨大な爪を降り下ろした。巨体のわりにスピードがあり、イセリナ達は多少なり傷を負った。
そんな時、ようやくイシュケルが復帰した。
「舐めやがって! きっちり返してやるぞ!」
「さっきから、おかしいと思ってはいたが、お前は影武者だな? 何故、我の生け贄にならん?」
「知れたことだ。俺の生き方は、俺が決める!」
「笑止! たかが生け贄の分際で、我に楯突くとは許せぬ!」
イシュケルは嘆きの剣を構え、ジュラリスを見上げる。ジュラリスは邪悪な笑みを浮かべ、イシュケルの攻撃を迎え撃つ。
イシュケルはジュラリスの胸目掛けて飛び上がると、一気に剣を振り抜いた。ジュラリスは攻撃を受けながらも、着地するイシュケルを両手で鷲掴みにした。
「ぐはっ! なんて、力だ……」
イシュケルを形成する骨格がメキメキと音を立て、悲鳴を上げる。イセリナが援護に回ろうとするも、ジュラリスは体内から黒い鋭利な刃物を放出し、寄せ付けない。
刃物は形を円形に変え、ダメージを然程与えることなくイシュケルの体内に吸収されていく。その後、イセリナの振り抜いた剣が、ジュラリスの腕を斬り付け、イシュケルは開放された。
「イシュケル、大丈夫?」
「あぁ。あんなもの、大したことない技だ」
イシュケルとイセリナは、間合いをとり構え直す。
「今のが大したことない技だと? ほざけ!」
ジュラリスは両手を交差させる仕草を見せると、巨大な衝撃波の塊を作り出しイセリナに向けて放った。
イセリナは盾で防ぐも、頬に新たに出来た傷口から流血していた。
「イセリナ、大丈夫か? 今、回復してやる」
ウッディはすかざず、イセリナの回復に回る。
「ありがとうウッディ。頼りになるわね」
「イセリナ、礼を言うのはそいつを倒してからにしな!」
「そうね」
イセリナは一呼吸すると、剣を縦に構えた。その伝説の剣は、黄金に煌めく。類い稀な強度を誇り、多少の攻撃なら弾き返す伝説の剣を信じ様子を伺う。
その間、攻撃の手を休めないジュラリスに対応していたのは、暁だった。
その戦いぶりは互角に見えたが、暁には息継ぎをする暇もないくらい余裕がなかった。
「暁お姉ちゃん……」
遥か後方で、ただ怯えるだけのサハン。力になりたい気持ちはあったが、レベルの違いすぎる戦闘に足の震えが止まらなかった。
「イセリナよ、あの技を出すしか勝ち目はないのではないか?」
イシュケルはイセリナにそう言ったが、イセリナ自体も攻撃を回避するので手一杯だった。
「くっ、せっかくの技があっても、放つことが出来ぬのでは意味がない……。俺がやるしかないか……」
イシュケルはバーストタイプにチェンジすると、ジュラリスを罵るように挑発した。
「デカイ図体しやがって、破壊の王だと? 笑わせるな! 俺こそが、王に相応しい!」
「まだ、生きていたのか? 望み通り今すぐ息の根を止めてやるぞ」
ジュラリスは視線をイシュケルに向けた後、両手を掲げ力を開放する。ただ一点イシュケルだけを睨み付け、鋭い爪を何度も降り下ろした。
「うぐっ……」
その爪を喰らう度に、イシュケルの身体から大量の血が吹き出た。
「イセリナ……何をしている。早く……真・天地壮烈斬を放て! いくら俺でもこれ以上は無理だ!」
イシュケルは自らのプライドを捨て、全てをイセリナに託した。




