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ガルラ牢獄の封印を解け

 魔界ゲートを抜け、イシュケル達は魔界へとやって来た。

 一年中、日が差すことがない魔界は、クレセント(三日月)の明かりだけが頼りだ。

 深い霧がかった森を越えると、イシュケル魔城が姿を現す。


「ここが、我が城だ。ジュラリスとの決戦を前に、各々身体を休めるがいい」


 イシュケル魔城手前に魔導船を停泊させると、イシュケルに先導され城内へと入った。

 暫く留守にしていた所為もあり、空気は淀み埃がたまっていた。


「すまない……少し汚れているが好きな部屋を使ってくれ。暫く休んだら食事にしよう」


 イシュケルがそう言うと、それぞれ戦いの疲れを癒すため身体を休めた。


 それから数時間が過ぎ、女性陣は厨房に立ち夕食の準備に取り掛かっていた。


「腹へったなぁ、今何時だ?」


 腹を空かせたウッディが、匂いに釣られて厨房に駆け寄る。腹を空かせるのも無理はない。人間界でいう午後の八時を、とうに過ぎていたのである。

 ここ魔界は闇に包まれていることもあり、時間の概念が薄れているのだ。

 夕食を待ちきれないウッディは、テーブルに食事を並べる役をかってでた。


「少ない食材だったから満足いくかわからないけど、皆さん頂きましょう」


 イセリナは謙遜したが、テーブルには食べきれないほどの豪華な料理で埋め尽くされていた。

 ありったけの食事を貪り、最後の戦いに向けそれぞれがそれぞれの思いを語り、夜は更けていった。




――そして……




 眠りにつけないイセリナは、バルコニーで風に吹かれていた。


「眠れないのか?」


 イセリナに気付いたイシュケルが、隣に身を寄せる。


「えぇ……これで、全てが終わってしまうと思うと、なかなか寝付けなくって……」


 イセリナは髪をかき上げた後、続けて、


「ねぇ、戦いが終わったら、私達どうなるの?」


「俺にもわからない。だが、俺は願いたい。人間と魔族が共存出来る世界を……」


「それを聞いて安心したわ……イシュケル、あなたと出逢えて良かったわ」


「突然、何を言うのだ」


「あなたには、運命を感じるの……」


「…………」


 イシュケルは想いを伝えようとしたが、それを言うことは出来ず口を紡いだ。今ここで伝えたとして、それはどうにもならないと思ったからだ。

 イセリナ自身もそれを薄々感じ、“運命”という言葉を選んだのかも知れない。そう思うと、イシュケルはより一層胸が痛んだ。


 それ以上、二人は言葉を交わすことなく朝を迎えた。




◇◇◇◇◇◇




「いよいよ、ジュラリスの眠るガルラ牢獄へ向かう。ガルラ牢獄はダメージ性のある結界に守られている。魔導船が何処まで耐えれるかはわからないが、それなりの覚悟はしていてくれ」


 イシュケルは経験をもとに、仲間達に注意を呼び掛けた。そして、一人……また一人と魔導船に乗り込む。

 サハンは船のエンジンを掛け終え操舵室に向かい、イシュケル達はデッキに集まった。


「皆、約束して。必ず生きて帰りましょう。生きて帰らなきゃ意味がないわ」


 イセリナがそう言った後、イシュケルもこう付け加える。


「ジュラリスという奴は、どれ程の奴か俺も検討が付かない。まずはイセリナの伝説の剣を探し出し、その後奴を叩く! 目指すは、ガルラ牢獄! 皆、行くぞ!」


 イセリナとイシュケルの言葉をそれぞれ刻み、船は決戦の地であるガルラ牢獄へと向かった。

 ガルラ牢獄を目前にすると、例の結界がイシュケル達を襲う。


――気が狂いそうなほどの痛み。


 この痛みを再度味わったイシュケルは、他の仲間を気遣いながら結界を越えるのをじっと待った。

 やがて、魔導船は結界を抜け、ガルラ牢獄目前で不時着した。

 魔導船はダメージ性の結界に何とか耐えたものの、多大なる負荷が掛かりエンジンが焼き付いていた。恐らくこの船で引き返すのは無理だろう。進むことも、引き返すことも出来なくなった魔導船を見つめながら、イシュケル達は船を降りた。

 目の前には、あの忌々しいガルラ牢獄の門。イシュケルは改めて門の横に書かれた言葉を読み上げた。



“光と闇が合わさりし時、道は開かれるであろう”


 イシュケルが読み終えると、イセリナがまず反応した。


「これが、以前言っていた封印……」


「イセリナ……。わかっているな? これは、我々二人が力を合わせねば解けぬ封印。光は勇者……つまりイセリナを指し、闇は魔王の俺を指す。本来なら、交わることのない二人が力を合わせねば解けぬ封印だ。それほどまでに、ジュラリスの力は我々に取って脅威と言うことだ。ラックの野郎も手のこんだ封印を施しやがる……」


「ちょっと、待てよ。だったら封印を解かずにこのままにしていたらいいんじゃないのか?」


 間髪入れずウッディが駆け寄る。


「以前、俺もそう思った。しかし、どの道ジュラリスは復活し、この封印を解き、人間界も魔界も恐怖に陥れるであろう。だから、叩くのは復活する前の今しかないのだ。ジュラリスは歴代の魔王を影武者イシュケルとして育て、そいつらを生け贄にすることで力を蓄えてきた。先の戦い……即ち、ラック達が封印した時から数えると、恐らく四人ほどジュラリスの生け贄になっているだろう……ウッディよ、俺の言いたいことがわかるか?」


 ウッディを初め、イセリナ達はイシュケル自体も生け贄の対象だったことを初めて知った。


「やろうよ、僕らでやってやろうよ」


 暁は皆を鼓舞するかのように力強く言うと、皆それに同調した。


「そうだな……それしかなさそうだしな。皆死ぬなよ」


 ウッディは決戦を前に明るく振る舞った。


「では、封印を解くぞ。イセリナ頼む」


「えぇ、わかったわ」


 イシュケルが門に描かれた闇の紋章に触れると、紋章は光輝いた。続けてイセリナも光の紋章に触れると紋章は光輝き、闇と光の紋章が一つに重なった。

 闇に包まれた魔界が一瞬眩い光に包まれ周囲を照らす。


「どうだ? これで、門は開く筈だが……」


 イシュケル達は門に目を奪われ、固唾を飲んだ。


「お願い、開いて……」


 イセリナがそう言うと、イシュケルも同じ気持ちで祈った。すると、何かがパリーンと音を立て崩れ落ち、強固な門は犇めきながら開かれていった。


「やったぜっ!」


 ウッディが喜びを隠せず飛び上がると、イシュケルはそれを抑止した。


「喜ぶのはまだ早い。何があるかわからん……慎重に進むのだ。それに伝説の剣も見付けなくてはならないからな」


 ウッディは素直にイシュケルの言葉を聞き入れ、警戒しやすい陣形を暁と共に取った。バックアタックされた時の為の予防的なものだ。

 普段陣形など気にしなかったが、昨夜の話し合いで万全を尽くすと決め、今回新たに導入することに踏み切ったのだ。



――ガルラ牢獄の内部。



 長い間、誰も踏み入れなかった筈なのに、生物の気配が感じられる。しかも、生臭い獣臭のようなものが鼻を付く。

 誰もが“何かいるな”と感じとったその時、イシュケル達の行く手を阻む者が目の前に現れた。


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