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一か八か

 イセリナは瞬時に伝説の盾で防ごうとするが、アルザスの大剣の方が早かった。恐らく大剣の重みの分だろう。急所は外れたものの、イセリナの左腕からは流血が見られる。


「うぅ……」


「勇者と言っても、大したことはないな。死ね、死ね――!」


 アルザスは負傷したイセリナに追い打ちを掛けるように、二度、三度斬り付ける。イセリナは体勢を整えることなく、もはや虫の息だ。

 そこに、イシュケルが駆け寄る。


「やめろ――――っ! 貴様……、貴様許さんぞ!」


 慌ててイシュケルはイセリナを抱き抱えた。


「しっかりしろ! 目を開けるんだ! 死ぬな……ウッディ、回復だ。至急、イセリナの回復を頼む!」


 イシュケルは同様を隠しきれず、ウッディにイセリナの回復を頼んだ。


「わかってら。ヒール(回復魔法)!」


 しかし、時既に遅く、魔法は受け付けずイセリナを通過しウッディに跳ね返ってきた。


「くっ……間に合わなかったか……」


 ウッディが肩を落とすと、イシュケルの腕の中で、イセリナは行き絶え絶えに言った。


「いいの……もう……あとは任せたわ……」


「何を言っているんだ。こんな所で死ぬな! 俺はお前がいないと……」


 イシュケルは叫びにも似た言葉で、イセリナに呼び掛けた。


「イシュケル……私、あなたが……」


「イセリナ、サヨナラはなしだ。これを受け取ってくれ……俺の気持ちだ」


 イシュケルは涙を浮かべたイセリナに、唇を重ねた。


「これが俺の気持ちだ。だから、死ぬな!」


「イシュケル……あり……がと……う……」


「イセリナ――――っ!」


 イシュケルのイセリナを呼ぶ声が、ここルビデスパレスの謁見の間に響き渡った。


 イシュケルがイセリナの蘇生を試みるも、息を吹き返すことはなかった。

 イシュケルはイセリナの亡骸を安全な場所に置くと、アルザスに言い放つ。


「許さんぞ! 貴様だけは、絶対にな!」


「出来るものか。人間とは儚いものだな。あれしきの攻撃で……死ぬとは。イシュケル! 心配するな。お前もあの女の死体の横に並べてやるぞ!」


 アルザスとイシュケルが剣を交わす。イシュケルは怒りにまかせ、隙だらけの大振りになっていた。

 それに気付いたウッディと暁は、援護に回ろうとするも、イシュケルはそれを拒んだ。


「こいつは、俺がやる。そうでなければ気がおさまらん。イセリナの仇は俺が取る!」


「イシュケル……でもよぉ」


 ウッディの言葉を聞き入れず、イシュケルは再びアルザスと剣を交わした。

 イシュケルはバーストタイプにチェンジし、ほぼ全力に近い形になっていた。それにも拘わらず、戦況は徐々に劣勢をきわめ、イシュケル自身もピンチに陥っていた。


「どうした? イシュケル。さっきまでの勢いがまるでないな? まさか、これで全力とは言わないよな? もし、これが全力だとしたら、がっかりだ。私はもっと、戦闘を楽しみたい……」


「ふ、ふざけやがって……こいつは化け物か……」


 苦戦を強いられているイシュケルを見て、ウッディと暁は固唾を飲んで見守っていたがもはや限界だった。


「イシュケル、もう我慢出来ない。俺はもう仲間を失いたくないんだよ。駄目だと言っても、加勢するぜ!」


「イシュケル、僕もウッディと一緒だよ。加勢するね」


「ふん……勝手にしろ!」


 イシュケルは額を流れる血を拭いながら、僅かに微笑んで見せた。


 死んだイセリナに代わって、暁が前衛を努める。その間に、ウッディはイシュケルの回復をしていた。


「あまり、無茶はするな。イセリナの為にも……」


 ウッディはイシュケルの負傷した傷口に手を翳しながらがら言った。


「ウッディよ、わかっている。だがな、こんな状況を生み出したのは紛れもなくこの俺だ」


「イシュケル、誰もお前を責めちゃいない。イセリナだって。ほら、暁を見てみろよ。お前に回復させようと、必死でアルザスと戦ってるよ」


「暁…………ウッディよ。俺はようやく気付いた。俺はもう一人じゃない……大切な仲間がいる」


「そういうことだ。よし、これで回復した筈だ。とっとと、戦いを終らせようぜ!」


「あぁ。ウッディ、感謝する」


 回復が終わると、イシュケルは再び前線に駆け出して行った。


「世話の焼ける奴だ」


 ウッディは腕を組ながらその様子を眺めていた。


「あ、あの。ウッディさん? これはかなり低い確率だけど、イセリナお姉ちゃんを生き返らせることが出来るかも知れないよ」


 小声で言いながらサハンはウッディに駆け寄った。


「サハン、それは本当か?」


「うん。囚われた僕のおじいちゃんが言ってたんだ。その昔、死者を生き返らせたことがあるって。その死者が寿命でなく、あるアイテムがあればそれは可能だと……」


「雲を掴むような話だが、可能性はあるってワケか……よし、希望が出てきた。サハン、ありがとよ」


――イセリナを生き返らせることが可能かも知れない。


 そのことを知り、ウッディは歓喜をあげた。


 一方、イシュケルと暁は、暁の活躍もあり、若干だがアルザスを押し始めていた。


「こいつ――っ!」


 自由に黒龍を操りながら、宙を舞う暁。それは可憐に舞う、天女のようだった。


「ちょこまかと、動きよる……」


 暁の、“攻撃しては、逃げる”……所謂、ヒットアンドアウェイにアルザスは、苛立ちを覚え始めていた。


「竜騎士よ、そんな戦いでは一流にはなれんぞ!」


 アルザスはいよいよ暁が煙たがり、過度の挑発をしてきた。“早く終わらせたい”……何かそんな予感を感じさせるような発言をアルザスは繰り返した。


「くっ……」


「暁! 挑発に乗るな。頭を冷やせ!」


「イシュケル、ありがとう。でも、僕は頭に血が上ったりしないよ」


「それなら、いい。何やら奴の攻撃に焦りが見える。様子を見る必要がありそうだ」


「確かに……僕もそれは思ったよ。何かありそうだね」


 一瞬攻撃の手を休め、暁とイシュケルが話しているとアルザスは執拗に挑発を繰り返す。ふとその身体を見ると、腐りかけた肉体が更に腐食に拍車を掛けていてた。

 石造りの床に、無数に散らばる肉片。アルザスはズルズルと、腐敗した肉を落としながらも攻撃力はまだ衰えることはない。恐らく身に纏った伝説の鎧のお陰で形成が保たれているのだろう。

 イシュケルの剣と、暁の槍が交互にアルザスを痛め付ける。そのたびに、周囲にはアルザスの肉片と異臭が漂った。


「か、身体が崩れてきたか……だが、お前らを闇に葬ることぐらい容易い……」


 アルザスはだらしなく垂れ下がった肉を自ら引きちぎり、剣を構え直す。

 そんな中、イシュケルにウッディが駆け寄る。


「イシュケル、吉報だ。サハンの話によるとイセリナを生き返らせることが出来るかも知れねぇ」


「ウッディ、本当か?」


「あぁ。サハンのじいさんによると、あるアイテムがあれば蘇生出来るって話だ。兎に角、詳しい話は戦いの後だ」


「わかった」


 イシュケルはイセリナを生き返らせることが出来るかも知れないと知り、剣を持つ手に力が入った。


――イセリナ……必ず、生き返らせてやるぞ……その時はきっと……。


 イシュケルはイセリナへの想いを誓い、目を細めた。


「何をごちゃごちゃ話している。目障りなんだよ! 死ねぃ!」


 暁とイシュケルの間を、アルザスの剣先がすり抜ける。


「うるさい奴だ……今、料理してやるぞ」


 イシュケル、暁、ウッディは、アルザスを囲み睨み付けた。



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