表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

血路を開け!

「サハンの奴……やはり連れて来れば良かったかな? 力は弱いが、アイツには秘められた能力を感じる……」


 流れ行く景色を眺めながら、ポツリとイシュケルは呟いた。


「魔王のカンてやつですか?」


「まぁ、そう言った所だ」


 イシュケルが呟くと、それを聞いていたウッディはそう言った。


「今回は仕方ねぇさ。次はサハンも連れていこうぜ」


 ドーガがそう言うと、ブリッジにサハンが駆け寄る。


「ドーガ、ごめん。僕、どうしても行きたくて」


「サハン……お前。あれほど駄目だって言ったのに……」


「いいじゃない……ドーガ。来ちゃったものは仕方ないわ。但し、危険は伴うわ。これは遊びじゃないのよ、サハン」


「ありがとう、お姉ちゃん」


 イセリナの言葉に安心したのか、サハンはエクボを出しながらニコっと笑って見せた。


 一行を乗せた船は、ルビデスパレスに向け一直線で飛んで行った。



「皆、ルビデスパレスまでは、あと三十分ほど掛かる。今のうち身体を休めておくんだな。船内には少しだが、食料とベッドも用意してある。好きなように使ってくれ」


 ドーガがそう言うと、それぞれ思い思いの場所に消えて行った。



 暁とウッディは……食堂で、肉を貪っていた。


「この肉うめぇぞ、暁も食ってみろよ」


「本当だ。久々だな……こんな旨い上等な肉にありつけたのは」


「だろ? 腹が減ってはなんたら……って、言うもんな。しっかり食っておこうぜ」


 暁とウッディは心いくまで肉を堪能した。



 ドーガとサハンは……操舵室にいた。



「サハン、お前も思い切ったことやるなぁ。ラックが生きていたら、ビックリしてるとこだぞ」


「僕だって男だ。今が大事な時だってことぐらいわかるよ。もう、逃げたりしない」


「よく言った。だがなサハン……逃げることは悪いことじゃねぇ。格好悪いことじゃねぇ。命がなければ何にもならねぇんだ。これだけは言っておく。どんなことがあっても、生きろ」


「わかったよ、ドーガ」


 ドーガはその後一言も発せずに、遠くを見つめた。サハンもその空気を読み取り、ドーガの横で静かに同じく遠くを見つめた。



 イシュケルとイセリナは……デッキに出ていた。


「イシュケル……ここにいたのね。隣……いいかしら?」


「構わん……」


 冷たい風が二人を吹き抜け、髪を揺らす。


「イシュケル……この戦いが終わったら……ん~ん、何でもない」


「何だ、急に。言い掛けたなら、最後まで言うのだ」


「だって……私のは……その……何でもない……」


「変な奴だな……。余計に気になるではないか」


「いいの。本当にいいの……。それより、風……気持ちいいわね」


「ああ……」


「人間と魔族が、争っているなんて、嘘みたい……」


「そうだな……争い事なんてなければいいのにな」


 イシュケルは自分でも気付かないうちに、魔王らしからぬ発言をしていた。そんなイシュケルを見てイセリナは、ますます惹かれていくのを感じていた。


 そして、瞬く間に時間は過ぎ、船はルビデスパレス上空に迫ってきていた。


「お~い、もうすぐルビデスパレスに着くぞ! お前ら準備しとけ!」


 ドーガのダミ声が船内に響き、メンバーは操舵室に集まってきた。


 ルビデスパレス上空にはコウモリの大群が群がり、黒い霧が立ち込める。

地上には獲物を狙うかのように、モンスターが雄叫びをあげている。それはこれから始まる壮絶な戦いを意味するかのようだった。


 魔導船は毒沼を避けるように、ルビデスパレス近くの湿地帯に停泊した。

 着陸したぬかるんだ大地は、辛うじて毒沼からの汚染は免れていたが、足元をすくわれる状態であった。


「この地は毒沼に汚染された箇所が多数ある。自信のない者は船に残ってもいいんだぞ」


 それは、イシュケルなりの配慮の仕方だった。皮肉混じりの言葉に、皆は臆することなくその地に降り立った。

 そして、ここルビデスパレスで、かつてない戦いが繰り広げられようとしていた。


 イシュケル達が湿地帯に足を着けると、数え切れないほどのモンスターが見境なく襲い掛かってきた。ぬかるんだ地面に足を取られながらも、それぞれ応戦する。


「コイツらどっから沸いてくんだよ! 面倒だ、僕に任せて! 行くよ、黒龍!」


「ギャァァォン」


 暁は黒龍の背中に股がり、意のままに操った。黒龍は咆哮を上げながら、鋭い爪でモンスター達をバッタバッタと切り裂く。更には、高熱のガスを伴う灼熱の炎を吐いた。辺りに立ち込める焼け焦げた匂い。しかし、モンスターを全滅させるまでには至らなかった。


「ワシにも、暴れさせてくれい!」


 暁と黒龍に負けじと、ドーガも背丈ほどあるバトルアックスを振り回し、生き残ったモンスター達を一網打尽になぎ倒す。あまりの破壊力にイシュケル達が呆気に取られていると、更に第二陣のモンスター達が襲い掛かってくる。

 休む間もなくイシュケル達は個々の能力を発揮する。

 ルビデスパレスは目の前に見えるが、ぬかるんだ地面と徐々に蝕む毒沼の所為で、思うようには進めなかった。


「こんな所で時間をくっている暇はない。このウッディ様が、お前らを一掃してやるぜっ!」


 ウッディは魔法学校で得たノウハウを活かすように、炎と氷の魔法を無詠唱で唱える。ウッディの放った魔法は、次々とモンスター達を襲い息の根を止めた。的確、かつ威力のある魔法を放ちながらも、ウッディは涼しい顔をしている。


「さぁ、次はどいつだ。かかってきやがれ」


 ウッディの声に一部のモンスター達は恐れをなし、背を向け逃げて行く。


「ウッディ、やるわね。私も負けてられないわ」


 イセリナもウッディに続けと言わんばかりに剣を振る。鮮やかに剣は弧を描き、モンスター達を確実に仕留めていく。

 そのイセリナの戦う延長線上には、スピードタイプにチェンジしたイシュケルがいた。


「俺に歯向かう奴は、誰だ!」


 モンスター達はイシュケルの怒号を聞き入れる間もなく、次々と死体になっていく。やがて、綺麗に一本道が開けた。


「血路は開けた。皆、行くぞ」


 もうイシュケル達に襲い掛かってくるモンスターはいない。極僅かに生き残ったモンスター達は、ただ呆然と立ち尽くしていた。


 やがて、ルビデスパレスの城門が見えてくる。城門には、黒光りした角をあしらえた門番らしきモンスターが一体。


――オーガだ。


「これは、これは裏切り者の、イシュケル様。勇者達とピクニックですか?」


「ほう。俺にそんな口を聞くとは大した度胸だな」


「今の俺の主はアルザス様だ。アルザス様は偉大なる力を手に入れられた。裏切り者のお前なぞ一捻りだ!」


「笑止!」


 先手を取ったのはイシュケルだった。素早くオーガの懐に入り、はらわたに重い一撃を喰らわす。オーガは流血しながらもこん棒を振り回し、イシュケルの肩にダメージを与えた。


「オーガよ、思ったよりやるようだな。だがな、戦いを舐めてもらっては困る。これで、終わりだ!」


 イシュケルは体勢を整え、再びオーガを斬り付ける。


「ぐはっ……こ、この程度」


「頭は悪いが、体力はあるようだな」


 次の瞬間だった。会話に夢中になっていたイシュケルを無視して、オーガは後方にいたサハンに向かって衝撃波を放った。


「しまった!」


 イシュケルが気付いた時には、もう既に衝撃波はサハンの目の前に来ていた。


「くっ、間に合わん」


 イシュケルは絶望にも似た言葉を発した。


「た、助けて――っ!」


 サハンは逃げることを忘れ、呆然としている。

 誰もが諦めかけた次の瞬間、何者かがサハンの前に立ち衝撃波を受け止めた。


「ぐふっ……。い、生きろって言っただろ……」


 サハンの前に立ち、衝撃波を受け止めたのはドーガだった。


「くっ、外した……か。ぐはっ」


 その様子を見届けると、オーガは息を引き取った。

 我に返ったサハンがドーガに駆け寄る。


「ドーガ、ごめんよ。僕の為に……」


 サハンは泣きながらドーガを抱き抱えた。


「お、男が泣くもんじゃねぇ……うぐっ……」


「ドーガ、今回復してやる! ヒール!」


「ウッディ、無駄だ……。皆に黙っていたが、ワシは死人。この世に未練を残した死人……。お前らを見てワシもようやく眠れるわい。未来を担うのは、お前らだ! 未来は託したぞ……ぐふっ」


「ドーガ……ドーガ――っ! 死んじゃイヤだよ。生きろって、僕に言ったじゃないか? ねぇ、目を覚ましてよ……ドーガ……」


 ドーガはにっこりとサハン笑いかけると、キラキラと輝きながら空に溶けていった。


「ドーガ――っ!」


 サハンの叫び声が辺り一面に響き渡る。


「ドーガよ、お前は大した男だ。その行為、尊敬に値する……」


 イシュケルは黒い霧が掛かった空を仰ぎながら、そう言った。


「ドーガ……」


「サハン……。ドーガの為にも頑張りましょう。私達は生きなきゃ駄目なの。未来を切り開くのよ。私達の手で」


「そうだね、お姉ちゃん。ドーガの為にも頑張らなくっちゃね。僕、もう泣かないよ」


「サハンよ、男は簡単に涙を見せるものではない……わかるな?」


「わかった、イシュケル。約束するよ」


 死人だったドーガの魂は、空からイシュケル達を見守るであろう。イシュケル達は未来を切り開くことをドーガに誓い、ルビデスパレスの城内に潜入した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ