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魔王としての素質

◇◇◇◇◇◇




 ――一方魔王サイド


「マデュラよ、して訓練とは何をするのだ?」


 イシュケルは手に入れた力を試したくてうずうずしていた。


「イシュケル様、まずは三つのタイプのコントロールを極めてもらいたいと思います。一つ目は素早さは落ちますが、圧倒的破壊力を持つパワータイプ。二つ目は力は落ちますが、疾風のような素早さを誇るスピードタイプ。最後に力と素早さは並みですが、技を重視したテクニックタイプ。この三つを極めてもらいたいのです」


「俺に出来るか?」


 不安になったイシュケルはマデュラに聞いた。


「出来ます……とは断言出来ませんな。その素質がなければ、魔王といえど自ら命を絶ってもらわなくてはなりません。実際、過去にそのような魔王もいました」


「いましたって、アンタ何年生きてるんだ?」


「今年でちょうど四千歳になります。イシュケル様は第十五代魔王に当たります。歴代の魔王に仕えるのが我が定め、イシュケル様に素質がなけば新たな魔王の誕生を待たなくてはいけません……」


「つまらんジョークだ。それで、俺はどうすればいいんだ?」


「簡単なことです。我が城『イシュケル魔城』にある、無限回廊を突破していただければ結構です」


「わかった、無限回廊を突破すればいいんだな?」


「お待ち下さい。これを……」


 鍔にドクロがあしらわれ、紫色に光る長剣をイシュケルは受け取った。


「素晴らしい剣だ」


「これは“嘆きの剣”と申しまして、血を浴びれば浴びるほど威力が増す長剣です。しかし、血が足りなければ主の命を吸い続ける恐ろしい剣でもあります」


 イシュケルは会話の中で、ようやく事態が飲み込めた。つまり、嘆きの剣を使いこなす素質がなけば、自ら命を絶つ前に命を吸いとられるという寸法だ。

 イシュケルは背中に嘆きの剣を背負い、漆黒のマントを羽織った。


「マデュラよ、行ってくる」


「こ武運を……」




◇◇◇◇◇◇




 イシュケルには自信があった。商社マン時代に構築した、戦略を応用し無限回廊なぞ攻略してやると。しかし、一歩無限回廊へ足を踏み入れると、そんな考えは覆された。


 イシュケルの行く手を遮る幻影。


「私は歴代勇者の一人、ラックだ。これ以上先へは行かせん。大魔王イシュケル! 覚悟――っ!」


 なんと歴代勇者の幻影が、イシュケルを襲ってきたのである。


「面白い……まずはウォーミングアップと行こうか」


 イシュケルは嘆きの剣を鞘から抜き取り、歴代勇者であるラックを睨み付けながら構えた。ラックも負けじと剣を抜き取りイシュケルを威嚇する。双方に隙はない。

 最初に沈黙を破ったのはラックだった。鋭い剣さばき。実戦経験のないイシュケルは、それを受け止めるのがやっとだった。


「イシュケルよ。お前の実力はその程度か。魔王の名が聞いて呆れるぜ!」


 イシュケルは自分の中でもがいていた。この世界に来なければ、平和に過ごせたものを。さっきまでの自信は消え失せ、己の運命さえ疎ましく思えた。


――イシュケルよ……血だ。血が欲しい……。


 イシュケルの意識の中に、何者かが囁いてきた。


「誰だ? 俺を呼ぶのは……」


――我輩だ。嘆きの剣だ。イシュケルよ、自信を持て。憎き勇者を叩きのめすのだ。


「わ、わかった」


 イシュケルは柄を握り直し、漆黒のマントを翻した。


「ラック、待たせたな。俺の力を見せてやるぜ!」


 嘆きの剣と共にイシュケルは紫の霧に包まれ、髪の色が赤に変わった。これこそが、パワータイプへの転身。しかしまだ、イシュケルはそのことを知らなかった。

 イシュケルの背丈ほどに巨大化した嘆きの剣を、ラックの心臓目掛け貫いた。


「うぐっ。まさか、タイプを自由にコントロール出来るとは……」


 ラックが怯んだ隙に、イシュケルは次の一手を繰り出した。ラックの持っていたミスリルの盾は脆く弾け飛び、その欠片が鎧を貫いた。


――イシュケルよ。その調子だ。もっとだ、もっと血が欲しい……。怒りのまま止めを刺すのだ。


 しかし、イシュケルには迷いがあった。例え敵とは言え、限りある命。人間だった頃の良心が、イシュケルを邪魔した。


――イシュケルよ。何をしている。やらなきゃ、やられるのだぞ。敵はたかが幻影……良心なぞ捨てるのだ。それが真の魔王になるということだ。


「た、助けてくれ。私の負けだ……」


 命乞いするラックに、イシュケルは言い添えた。


「助けてやろう。今楽にしてやる」


 イシュケルは、無抵抗のラックを何度も斬りつけた。無惨に飛び散る血肉。返り血を浴びながら、イシュケルは口角を上げながら呟いた。


「これは遊びではない……。やらなきゃ、俺がやられるのだ」


 非情なまでにイシュケルは、事切れたラックを刻んだ。


――それでいい……それでいいのだ。


 イシュケルは葛藤の末、魔王としての素質を見出だし始めていた。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方勇者サイド


 イセリナとウッディは“伝説の武具”の噂を聞きつけ、とある港街に辿り着いていた。伝説の武具とは、かつて魔王軍を殲滅した勇者の武具であり、魔王を打ち破る唯一の武具である。

 無論、イシュケルらに取って脅威となる存在であろう。


「本当に、そこにあるのね?」


「だから姉ちゃん、この港街に伝わる伝説だって。伝説は伝説でしかねぇワケよ。そんなに言うなら自分の目で『キラーナの塔』に行って確かめて来な」


「イセリナ、行くしかないみたいだぜ。行ってみようぜ、その何とかっていう塔によぉ」


「そのようね。ウッディ、頼りにしてるわよ」


「りょ~かい」


イセリナ達は伝説の武具を手に入れる為、キラーナの塔に向かった。

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