明かされた真実
◇◇◇◇◇◇
――一方魔王サイド
「くっ、術が解けてしまいましたか……もうすぐイシュケル様が、ルビデスパレスに戻る頃。私も人間界に赴きますか……」
マデュラはイシュケルの敗北と帰還を感じ取り、人間界に構えたルビデスパレスに向かった。
一方、イシュケルはというと、瀕死の重症を負いながらもルビデスパレスに帰還していた。
「うぐっ……ぐぁ……」
謁見の間まで連なる床の血糊。朦朧とする意識の中、王座までの道程を這いつくばるように進む。
「はぁ……はぁ……うぐっ」
イシュケルは何とか王座に凭れかかり、マデュラから以前もらった奇妙な液体――紫色をして異臭を放つ、あの薬草スープを口にした。
「うぐ、うぐ、はぁ……しかし、不味いものだ」
イシュケルは薬草スープを飲み干すと、王座から立ち上がり傷の具合を確認した。完全とまでは言えないが、傷はだいぶ塞がり吐血も治まった。
イシュケルは改めて、イセリナとの実力の差を感じた。恐らく自然治癒を促す、漆黒のマントがなかったら今頃死んでいただろう。
「……イセリナ」
イシュケルに取って、忘れられないバトルだった。記憶を取り戻し、イセリナへの想いを思い出し、それでも戦わなくてはいけないこと。戦う理由を操られている気がして、イシュケルは納得がいかなかった。
そこへ、あの男が現れた。
――マデュラだ。
「イシュケル様。大変な戦いでしたな。お怪我は大丈夫ですか?」
「あぁ。以前、お前からもらった薬草スープを飲んだからな。マデュラよ、聞きたいことがある」
イシュケルは目を細めマデュラに耳打ちした。
「何ですかな? 私に答えれることであれば」
「勇者イセリナ達と、どうしても戦わなくてはいけないのか? 共存は出来ないのか?」
イシュケルがそう言うと、マデュラは表情を荒げながら返した。
「当然です。勇者は、我々魔族を脅かす存在。それに共存なんて、無理にもほどがあります。イシュケル様? まさか、怖じ気付いたのですか?」
「そうではないが……」
イシュケルは憂いを隠せずにいた。
「イシュケル様、以前から、おかしいおかしいと思ってはいましたが、まさかあの女に……」
マデュラが話を続けようとしたその時、イシュケルは睨みを利かせながらマデュラの胸ぐらを掴んだ。
「貴様……。今ようやくわかった。あの時、俺の見張りにシャドウを付けたのも貴様だな? そして、俺に変な術を掛け記憶をすり替えたのも……」
「今頃お気付きですか……ほっほっほっ。わかりました。全てを話しましょう。その前にこの手を離して頂けますか?」
「貴様……」
「離せと言っている!」
マデュラは今までと形相が変わり、イシュケルを怒鳴り付けた。イシュケルはあまりの威圧感に、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「どうせ、そのうち分かることだ。教えてやろう。まず一つ、お前は魔王などではない!」
マデュラは今までと違うハッキリとした口調で、イシュケルに言った。
「何! どういうことだ? 俺が魔王ではないだと……?」
「そう……全てはあの御方の為。偶然トリップしてきたお前を魔王にしたてあげたのだ。……影武者としてな」
「影武者?」
「お前に魔王の力を付けさせ、最後には生け贄として、あの御方に捧げるのだ」
「貴様……」
イシュケルはマデュラに踊らされていたことに気付き、剣先を向けた。
「ほう、この私に刃を向けるか? よろしい、相手になってやろう」
マデュラはそう言うと、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。初めて見るその姿は、体半分が腐りかけ骨が突出していた。イシュケルはその姿を見て、驚きのあまり声を失った。
「どれくらい振りだろう……。この醜い姿を、さらけ出したのは」
マデュラは、一瞬天を仰ぎ続けた。
「残念だ……そのまま力を蓄え、大人しくあの御方の生け贄になれば良いものを……仕方ない。こうなれば、腕ずくでも生け贄になってもらうしかないようだな」
マデュラは鋭くその目を光らせると、禍々しい杖を握り締めた。事態をようやく把握したイシュケルは、再び剣を構え直す。
――良いのか? イシュケルよ。後には退けんぞ!
嘆きの剣が問い掛けると、イシュケルはこう答えた。
「構わん。これは、俺の意思だ。ついて来てくれるな? 嘆きの剣よ」
――承知した。イシュケルよ。テクニックタイプにチェンジするのだ。魔斬鉄を使うしかないだろう?
嘆きの剣はイシュケルの意思を確認すると、テクニックタイプにチェンジするように促した。
「魔斬鉄か……」
イシュケルは嘆きの剣の意見を聞き入れ、テクニックタイプにチェンジした。金色の髪をかきあげると同時に、マデュラを斬り付ける。
意図も簡単に、イシュケルはマデュラを捉えた。
「ん? 確かに斬り付け筈だが、手応えがない」
「何処を狙っているのだ? 私はここだ」
斬り付けたはずのマデュラがイシュケルの背後から語りかけ、杖を降り下ろす。イシュケルは、額ギリギリの所で剣を水平に構え受け止めた。
「ほう、少しは成長したようだな。だが、これならどうだ?」
マデュラはこの至近距離から、燃えさかる炎の魔法を繰り出した。イシュケルは素早く反応するも、左肩に炎を浴びた。
「くっ、死にぞこないが……」
「いつまで、強がっていられるかな?」
マデュラは両手から次々と炎を生み出す。無詠唱のその魔法に、隙はない。
――イシュケルよ、何を焦っている。よく見ろ、捉えられん相手じゃなかろう?
嘆きの剣の言う通り、焦りのあまりイシュケルは無駄な動きが多く、冷静に立ち回れないでいた。
「嘆きの剣よ、お前の言う通りだ」
イシュケルは冷静さを取り戻し、マデュラの放つ炎の魔法を一つひとつ確実に躱していった。
「逃げるばかりでは、私を倒せんぞ!」
マデュラは執拗に、炎の魔法を放つ。イシュケルはマデュラの挑発には乗らず、反撃のチャンスを伺う。
――無詠唱とは言え、必ず何処かに隙がある筈だ。
イシュケルは目を凝らし、マデュラの放つ炎のタイミングを見計らった。
――見えた……奴が魔法を放つタイミングには法則クセがある。右手、左手と交互に放つその法則クセ、……見切った!
イシュケルは動きを最小限に抑え、マデュラに接近する。しかし、見切ったとはいえ、炎の魔法は絶え間なく放たれる。
――イシュケルよ……スピードタイプで、懐に飛び込んだ所で、テクニックタイプにチェンジすることは出来ないか?
嘆きの剣は、次の一手をイシュケルに薦めた。
「なるほど……素早さをあげ、懐に飛び込んだ所でテクニックタイプにチェンジし魔斬鉄……か。出来るかわからんが、やってみる価値はありそうだな」
イシュケルはテクニックタイプを解き、スピードタイプにチェンジした。




