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残酷な選択肢

 マインドフレイムは伝説の盾を装備したイセリナにおののき、後退りする。


「覚悟しなさい。あなたの炎なんて、この盾で弾き返してあげるわ!」


 イセリナは危険を省みずマインドフレイムの懐に飛び込んだ。その剣は、マインドフレイムのはらわたを鋭く抉る。


「うぎぎっ……」


 マインドフレイムは苦しみながらも反撃にでる。深く息を吸い込み、灼熱の炎を吐いた。これがマインドフレイムの誤算だった。

 伝説の盾の前に炎は無力と知りながらも本能的に、灼熱の炎を吐いてしまったのだ。案の定、伝説の盾に跳ね返され、灼熱の炎は何十倍にも膨れ上がりマインドフレイムを襲った。炎自体を焼き尽くすほどの炎だ。

 元々炎に包まれたマインドフレイムは、更に高温の炎に包まれ火だるま状態になった。


「……」


 マインドフレイムは、一言も発することなくマグマの中に落ちて行き、やがてマグマに吸収され溶けていった。


「ふぅ。何とかなったわね……。イシュケル! 次はあなたの番よ」


 イセリナの本音としてはイシュケルと戦いたくはなかったが、そう発した。


「どいつも、こいつも使えん。ならば、俺が自ら相手になろう」


「へっ、お前の手の内はデスナイトとの共闘で、お見通しだっつうの!」


 ウッディはイシュケルの真意を知る為、あえて挑発した。


「デスナイト? 何の事だ?」


「忘れちまったのか? それとも、その剣に洗脳されちまったのか?」


 ウッディは、更に軽薄な言葉を投げ掛ける。


「この俺が、お前達と共闘だと? つまらんジョークだ」


「イシュケル、本当よ。目を覚まして。本当のあなたは、優しくて、勇気があったわ」


 イシュケルの言葉にイセリナが付け加える。


「認めん……認めんぞ! お前らに、俺の本当の恐ろしさを教えてやる」


 イシュケルは怒りに満ち溢れ、衝撃波を放った。イシュケルの放った衝撃波は、周囲の頑強な岩を砕いた。


「これ以上、話をしても無駄のようね……」


 イセリナは自分の感情を押し殺し、剣先をイシュケルに向けた。


「ほう……その未熟な剣術で俺とやり合うつもりか。相手になってやる!」


 イシュケルは嘆きの剣を構え、パワータイプにチェンジした。それと同時に嘆きの剣が大剣へと変化した。


――イシュケルよ、血だ。あの女の血が欲しい。


「慌てるな、嘆きの剣よ。言われなくても、たっぷり血を吸わせてやる」


 イシュケルは漆黒のマントを翻すと、一目散にイセリナ目掛け駆け出した。


「イシュケル……私達、もう二度とわかり合えないの?」


 イセリナがそう問いかけてもイシュケルは聞く耳を持たず、剣を振り上げる。


「いやぁぁ……」


 そのうちの一撃が、イセリナの爛れた右腕にヒットした。その右腕からは、ドクドクと血が流れる。


――うまい血だ。もっと、もっとだ。


 イシュケルはイセリナの流血した右腕を徹底的に狙った。


「ウッディ、ボーっとしてないで! イセちゃんの援護するよ!」


「りょ、了解」


 ようやく、暁とウッディも援護に回る。だが、暁は左足が焼け爛れ、ウッディの魔力も底をついていた。


 尚も、イシュケルのイセリナに対する執拗な攻撃は続いた。

 イセリナもまた限界に近付いていた。利き腕である右手は握力を失い、剣を握るのがやっとの状態だった。


「私は……私は負けない。あなたが“悪”なのであれば……」


 イセリナは伝説の盾を放り投げ、左手に剣を持ち替えた。

 盾を持たず、利き手じゃない手に剣。誰が見ても、結果は見えていた。


「あ、暁……。盾をお願い……」


 イセリナは、力なく暁に伝説の盾を託した。暁は素早く伝説の盾を拾い上げ、左手に構える。

 普段、盾を装備しない暁に取って、お荷物以外の何物でもない。暁は焼け爛れた右足を庇いながら、槍を構える。

 ウッディはというと、道具袋から特製の薬草を引っ張り出していた。

 イセリナにしても、暁にしても、もはや薬草で直せるレベルではなかったが、ウッディは少しでも回復出来ればと思い、二人を気遣い準備に取り掛かっていた。


「死ぬ覚悟は、出来たか?」


 イシュケルは肩に嘆きの剣を抱え、イセリナに問う。対してイセリナは、イシュケルにこう返す。


「残念だわ……こんな形になるなんて……」


 イセリナは諦めにも似た、言葉を述べながら涙を浮かべた。剣を握り締めた左手は震えが止まらず、爛れた右手からは血が滲んでいた。

 やがて、イシュケルに向けていた剣先は、吸い付くように地面に向けられた。


「イセちゃん、駄目だよ! 死ぬなんて僕が許すわけないだろ! 構えろよ! 可能性はゼロじゃないんだ! 諦めんなよ!」


「暁……もういいの。もういいのよ……私の負けよ……」


「そ、そんな……そんなの悲し過ぎるよ。僕は、そんなイセちゃん何かキライだ~!」


 イセリナは暁の言葉に何も返さず、ただニッコリと笑って見せた。


「戯れ言は終わりか? ならば、行くぞ! 死ねぃ!」


 イシュケルは目を血走らせながら、イセリナの頭上目掛け剣を降り下ろした。



――刹那。



 砕けるよな鈍い音が、辺りに溶け込む。


「……かはっ!」


 イセリナの前にウッディは身を投げ出し、嘆きの剣の犠牲になったのだ。


「ウッディ――っ!」


「死ぬのは……俺……一人で……いい……諦めん……なよ」


「目を開けて、ウッディ……ウッディ!」


「ウッディ……」


 暁はその光景を目の当たりにし、その場にしゃがみこんだ。

 ウッディはイセリナに薬草を渡すと、静かに息を引き取った。


「ウッディ……私が間違っていたわ。暁の言う通りゼロではない。例え限りなくゼロに近くても、可能性があるなら……私、やるわ」


 イセリナはウッディから受け取った薬草を右手に塗り込むと、右手に剣を握り締めた。


「……うぐっ……うぐっ……イセちゃん、これを」


 悲しみのあまり嗚咽した暁は、全てをイセリナに託し伝説の盾を返した。


「暁、ウッディをお願い……亡骸を傷付けたくないわ」


「う、うん……」


 暁は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ウッディを抱え下がった。


「おい、おい。そんな汚い死体どうするのだ? ザコが一人死んだからと言って何になる?」


「見損なったわ……もう、過去の記憶に縛られないわ。……やはり、私達にとって貴方は敵。それ以上でも、それ以下でもないわ……。イシュケル……正義の刃を受け取りなさい! ……イセリナ、参ります!」


 イセリナは地塗られた剣を、振りかざしイシュケルに向けて走り出した。イシュケルも、それに答えるように嘆きの剣を振りかざす。


 激突する二つの金属音。


「やるではないか!」


「そっちこそ!」


 イセリナとイシュケルの本気のバトルが今始まった。

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