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巨大都市アルタイトでの誘惑

 それはイセリナ達がアルタイトに着く直前のことだった。

 イシュケルは、真新しい魔界ゲートから切れ長の目つきをした“セイレーン”を呼び出すことに成功していた。


「お呼び頂いて光栄ですわ。イシュケル様。セイレーンと申します」


「ほう、セイレーンか……」


 容姿端麗――その言葉がピッタリ当てはまる。そのくらいセイレーンの姿は、イセリナに匹敵する程美しかった。モンスターにしておくのは勿体ないくらいだ。

 暫し見惚れた後イシュケルは、セイレーンに尋ねた。


「……実に美しい。セイレーンよ、お前の特技はなんだ?」


「ありがとうございます。イシュケル様。私の特技は、“誘惑”“幻覚”にございます。力はありませんが、人間の奥底に眠った汚い心を引き出しながら、陥れるのが得意です」


「ほう、興味深いな」


「これで、どうでしょう?」


 そう言うとセイレーンは、暁そっくりの姿に変えた。


「な、何と!」


「本人よりやや美しいのが難点ですが、暁の妹ということで勇者イセリナ達に近付いてみようと思います」


「良い作戦だ。セイレーンよ、この作戦……お前に任せる。名前はそうだな……如月きさらぎにしよう」


「わかりました。私は今から、如月という女として勇者どもの記憶、精神を操り陥れてみせますわ。では、行ってまいります」


 暁の妹――如月に扮したセイレーンは、マデュラの手によってイセリナ達が待つアルタイトへと転送された。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方勇者サイド


 イセリナ達を乗せた定期船は、ようやくアルタイトに到着した。

 下船し改めて傷付いた船の外観を見ると、如何にシードラゴンとの戦いが壮絶だったのかがわかる。


 アルタイトの街は、モンスターからの攻撃を食い止める為、外壁に囲まれた鉄壁の街だ。ちょっとや、そっとじゃ、モンスター達は侵入出来ないだろう。尤も、船着き場が手薄なのは否定出来ないが。


 さて、アルタイトの街だが、大きく分けて四つの区域に別れている。

 主に、武具などを製造する製造区域。それを売買することを目的とした商業区域。カジノなどの娯楽が楽しめる娯楽区域。そして、人々が生活する住宅区域だ。

 その中央に位置する、この街のシンボルとも言うべき噴水の前にイセリナ達はやって来た。


「しかし、デカい街だよな~。初めて来たぜ」


 ウッディは田舎者丸出しと言わんばかりに、周囲をキョロキョロ見渡しては驚いていた。


「ウッディ……恥ずかしいから、やめてくれない?」


「暁、おい! 言い過ぎだろ? って、お前いつの間に着替えたんだ?」


 そうウッディに罵声を浴びせたのは鎧を身に纏った暁ではなく、気品漂う衣に身を包んだ暁だった。

 しかし、間髪入れずウッディの横から見慣れた鎧を身に纏った暁がそれを否定した。


「ウッディ、僕ならここにいるよ」


「へっ? まさか? 如月?」


 この時点で暁とウッディは、セイレーンの術にはまり記憶をすり替えられていたのだ。

 セイレーンは二人に術が効いたのを確認すると、


「やっと、わかったの? お姉ちゃんより、胸が大きいからすぐわかると思ったんだけど……久しぶりだからわからなかった?」


と、暁を見下すような口調で言うことで、ウッディをより激しく洗脳した。

 胸のことを触れられ、暁はムッとしている。これもセイレーンの作戦……順調に事は進んでいた。

 イセリナは二人の会話の中から、如月は暁の妹だと理解し、同時にセイレーンの術はイセリナまで及んでいた。


「如月、色っぽくなったな。胸も前より大きくなったんじゃないか?」


 ストレートに思ったことを言ってしまうウッディに、セイレーンは笑顔で『そうかな?』と答えたが、暁はさっきより不満さが顔に出ていた。


「デリカシーがないんだよ!」


 遂に暁の怒りは爆発し、頬を膨らましながらカジノのある娯楽区域へ行ってしまった。


「ウッディ、暁に、謝らなくていいの?」


と、イセリナは心配したが、完全に洗脳された当のウッディは、セイレーンとの会話に夢中だ。

 イセリナはやむを得ず、ウッディと如月扮するセイレーンを置いて暁を追った。


「暁、待ってよ」


「……」


 暁の機嫌は収まるどころか、更にヒートアップしていた。セイレーンはしめしめと思わず不気味な笑みを浮かべた。


「僕……そんなに胸ぺったんこかな?」


「ん……」


 イセリナもフォローするつもりではいたが、正直過ぎて『そんなことないよ』とは言えなかった。


「イセちゃんは、正直だね」


 さっきより怒りが収まったのか、それとも怒りを飲み込んだのか、そこからは普段の暁に戻っていた。


「そうだ、暁。せっかく娯楽区域に来たんだし、カジノでも行こうよ」


「いいね~。じゃんしゃん、稼いじゃおうぜ」


 イセリナと暁は数あるカジノのうち、老舗のカジノに入店した。


 店内は趣があり、独特の雰囲気が漂っていた。客は疎らだが、時間帯を考えれば十分な程だ。


「何をやる?」


 イセリナは暁の機嫌を取るべくに問いかけた。

 ルーレットにポーカー、ブラックジャック、それにスロット。どれも魅力的だ。


「僕、これがいいな」


 暁が選択したのは、巨大なドラムに龍の役物があしらわれたスロットだった。


「面白そうね」


 イセリナと暁はお金をメダルに替えると、二人並んでスロットの前に腰を据えた。

 メダルを入れレバーを叩くと、けたたましい音を奏でながらドラムが勢いよく回転する。単純に同じ図柄が横一列に並べば良いのだが、これがなかなか揃わない。

 二人は白熱するあまり、あっという間にメダルを使い切ってしまった。


「もうちょっとだけ、もうちょっと」


 珍しく暁に頭を下げるイセリナに気分良くし、暁はつい『いいよ』と言ってしまった。

 しっかりとした性格のイセリナをここまで豹変させたのは、セイレーンに洗脳された所為である。

 メダルに両替したお金は、旅に必要なお金だ。それがないと、旅が続けられなくなるかも知れない。多少なり躊躇いはあったが、セイレーンの術に犯された二人は全てのお金をメダルに替えてしまった。


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