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叶わぬ恋……

 ウッディと暁が固唾を飲んで見守る中、辛うじて精神をコントロールしながらイシュケルは述べた。


「イセリナ……すまない。俺の……弱さ……だ」


 イシュケルの黒い瞳はみるみるうちに朱に染まり、嘆きの剣に精神を乗っ取られていった。

 理由はどうあれ、勇者に加担する行為を運命が許さなかったのだ。イセリナ達の優しさに触れ、短い間だったが心地の良い家族のような空間は悪くなかった。イシュケルは、それを思い出し涙を流した。


――魔王として初めての涙。


――許されない涙。


 イシュケルにとってその涙が唯一、嘆きの剣に対する抵抗だった。それを何となく肌で感じ取ったイセリナは、イシュケルに剣を向けた。


「イセリナ、正気かよ……。確かにイシュケルは魔王だけどよぉ、俺達の為に戦ってくれたじゃねぇか!」


 あれほどいがみ合ってウッディもイシュケルのことを思い、イセリナを止めようとした。所がイセリナは、強い口調でそれを押し返したのだ。


「ウッディ、暁……手出し無用よ。イシュケルは私がやるわ!」


「イセリナ……」


 イセリナもまたイシュケルを想い、涙を流していた。


「参ります。覚悟! 大魔王イシュケル!」


 イセリナは頬を伝う涙を拭い、剣を振り上げイシュケルを斬り付けた。


――イシュケルよ、どうした? 行け! 血が足りぬと言っている。


 虚ろな表情を浮かべながら、イシュケルは嘆きの剣で応戦する。何処かに迷いのあるイセリナは、攻撃に集中出来ず次第に押され始めていた。


「イセちゃん……」


 助けに入ろうと身を乗り出した暁を止め、ウッディは首を横に振った。


「イセリナを信じよう……」


 ウッディもどうにかしてやりたい気持ちはあった。だが、今は二人の戦いを見守ることしか出来なかったのである。


「イシュケル、目を覚まして。私はあなたと戦いたくない」


「…………」


 完全に嘆きの剣に洗脳されたイシュケルは、容赦なくイセリナを斬り付ける。


「キャァァァ!」


 イセリナの白い頬を剣がかすめ、涙と血が入り交じる。頬に開いた傷口を押さえながら、イセリナは天を仰いだ。


「イシュケル、わかったわ。私も本気を出させてもらうわ」


 剣を構えるイセリナから、眩くも麗しいオーラが溢れてきた。

 イセリナは軽やかなステップを切り、剣を左に右にと振り抜いた。その姿勢を見たイシュケルは、その身を投げ出すように心臓を差し出した。まるで、俺を殺してくれと言わんばかりに。


――イセリナは思った。イシュケルは洗脳されながらも、必死で自分と戦っているのだと……。


「イシュケル……本当はもっとあなたと一緒に居たかった。あなたともっと話がしたかった。そして……あなたと愛を語りたかった……。でも、それは叶わぬこと……。私はあなたを倒します。参ります! これで最後です。奥義五月雨斬り……」


 イセリナは、瞳から大粒の涙を溢しながらイシュケルを斬り付けた。イセリナは、今持っている最高の技を繰り出した。それがイシュケルに対する礼儀だと思ったからだ。

 五月雨斬りを喰らったら、例えイシュケルでも立ち上がるのは困難だろう。

 イセリナは全てが終わったかのように、剣に付着した血糊を振りきり背中の鞘に収めた。


「終わったわ……ウッディ、暁……地上に戻るわよ」


 その無惨な光景を目の当たりにしたウッディと暁は、言葉を発することが出来なかった。


「二人とも何してるのよ。行くわよ」


「あ、あぁ」


 再びイセリナに呼び掛けられ、ウッディと暁は歩き始めた。


――さよなら……イシュケル。


 イセリナは心の中で呟いた。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方魔王サイド


「何かとても、イヤな予感がしますね……仕方ありません。私、自ら人間界に赴きますか……」


 マデュラは魔界でイシュケルの危機を察知していた。


 


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