恐怖を誘う魔シン
呪いの館の扉のノブにイシュケルは手を掛けた。そのノブは埃が被り、ベタついていた。扉は悲鳴を上げながらゆっくりと開き、中からはカビ臭い臭気がどっと押し寄せる。
薄暗い館内を手探りで、進むとイセリナは何かを踏みつけたことに気付いた。イセリナが慌て足を退かすと、そこには朽ち果てた戦士の亡骸が転がっていた。彼もまた、レインチェリーを救おうとした一人なのか? そう思思ったイセリナは、彼の為にも絶対に街を救おうと胸に誓いイセリナは両手を合わせ敬意を払うのであった。
名も知らぬ戦士の冥福を涙を浮かべながら祈るイセリナ姿に、ウッディと暁は心を打たれた。真の強さとは力ではない、その生き方だと再確認した出来事でもあった。
「お前達、油断はするな。何時なんどき魔シン族が襲ってくるとも限らん。用心するんだな」
イセリナ達に注意を呼び掛けるイシュケルに、ウッディが噛み付いた。
「人の心配する前に、自分の心配をしたらどうなんだ?」
この二人だけは、どうもウマが合わないようだ。
そうこうしていると、薄暗さに目が慣れ始め周囲を把握出来るまでになった。
館の奥に進もうとした瞬間、無数の矢がイセリナ達を襲った。いち早くそれに気付いたイシュケルは、イセリナ達の前に立ち漆黒のマントでそれを防いだ。
「だから、油断するなと言っただろう? どうやら、魔シンが現れたようだ。お前ら、俺の足を引っ張るなよ」
「イシュケル、すまない。どうやら俺はお前を誤解していたようだ」
ピンチを救ったイシュケルに珍しくウッディは礼を述べた。
「礼など言っている暇があったら、魔法の一つでも詠唱でもするんだな。行くぞ!」
イシュケルが駆け出した方向には、赤い一つ目の物体がいた。恐らくこの物体が矢を放った張本人、そしてこの物体こそが魔シン。
――心を持たない種族。
イセリナ達は、その魔シンに驚いていた。人とは違う無機質な、生命のある鉄の塊。だか、一人だけ驚きもせず、眉一つ動かさぬ人物がいた。
イシュケルだ。
現実の世界では、この程度の機械などゴロゴロしている。
「なるほど、魔シンとは機械のことか……ならば必ず動力があるはず……」
イシュケルが冷静に分析をする横で、イセリナ達は腰を抜かし、遂には床にへたれ込んでしまった。
機械など見たことのないイセリナ達に取っては、鉄の塊が動いているようにしか見えなかった。
「鉄の塊が……う、動いているわ……」
イセリナは呼吸を忘れる程、怯えていた。
「イセリナよ! 剣を持て! こいつらは機械といって、何らかを動力にして動いているのだ。その動力を断ち切れば、こいつらの動きは止まる!」
イシュケルの言葉を信じたのかイセリナは我に返り立ち上がり、剣を構えた。続けてウッディも立ち上がり、暁も立ち上がった。
「世話を焼かせる! 勇者の名折れだな」
イシュケルに渇を入れられ、三人は冷静さを取り戻した。
「フッ。まぁ、いい……。行くぞ!」
魔シンは赤い一つ目を再び光らせ、イセリナ達に襲い掛かって来た。
「シンニュウシャ、シンニュウシャ、マッサツセヨ」
「私が相手になりますわ」
イセリナは先陣を切って、剣を振り上げた。




