竜騎士 暁
イセリナは低い態勢からその剣を水平に振り抜き、キマイラブレインの首を素早く切り裂いた。その隙に暁は、空を駆け抜け尻尾目掛けて槍を突き刺した。
初めてとは思えない、イセリナと暁のコンビネーション。その戦いぶりを見て、ウッディはうっとりと見とれていた。
「ウッディ! 何してんだよ」
「あ、悪い、悪い。俺も行くぜ!」
「ぐぉぉん、……舐めるな、舐めるな! ガキどもが。血祭りにしてくれるわ」
痛みに耐えながらも、キマイラブレインは反撃に移ろうとしていた。
「余所見をするな。相手はこの僕だよ」
再び地面を蹴りあげ、暁は空高く舞い上がった。
「くわっ」
空高く舞い上がった暁に向け、キマイラブレインは閃光を放った。逃げる暁に、何処までも追い掛ける閃光――。
「舐めるなと言ったろ?」
「痛てて……」
暁は閃光を胸に直撃され、地面に叩き付けられた。
「暁――っ!」
「ウッディ……大丈夫。僕を見くびらないで。イセちゃん、挟み撃ちだ」
「い、イセちゃん? わかったわ、暁」
イセリナが正面から斬り込み、素早く暁は後ろに回り込んだ。
「参ります!」
「行けぇぇぇ」
剣と槍が、キマイラブレインを前後から挟み込む。
「二人とも離れて。俺が止めを刺してやるぜ!」
ようやく詠唱の終わったウッディが、稲妻の魔法を放つ。いくつもの稲光が、轟音立てながらキマイラブレイン目掛けて突き刺さる。キマイラブレインは白目を向き、その場に横たわった。
「やったぜ!」
「危ないところだったわ……。ありがとう、暁」
「いえいえ、これくらい朝飯前だよ」
暁は安堵の表情を浮かべると、装備していた兜を外した。
「ふぅ。暑い、暑い……」
兜を取ると、暁は肩まであるその黒い髪を靡かせた。
「お、女の子?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 暁は女だ。胸はペッタンコだけどな」
「私、てっきり……男かと」
「よくあることだ。な?」
「何だって? おりゃ!」
暁はウッディの鳩尾に、重くのし掛かるパンチを繰り出した。
「な? じゃねぇよ。失礼な」
「仲がいいのね。二人は……」
「一応、幼馴染みだからな」
イセリナの言葉に少々照れながら、ウッディは言った。
「所で、僕の家メチャメチャじゃないか……」
「ごめんなさい……」
「ま、いっか」
意外と楽天家な暁は、住む家を失っても笑顔でいた。
「そう言えば暁、ヤボ用ってなんだ?」
「そうそう実は……この通りレインチェリーの街は、この所ずっと雨が止まないんだ。それで、その原因を突き止める為に調査してたんだよ」
「原因はわかったのかよ」
「あぁ。何とかね。この街の先に“呪いの館”ってのがあってね、どうやらその主が雨を降らせているらしいんだ。その主ってのが厄介で、館に入る者を呪いに掛けてくるんだ。僕も一度は行ったんだけど、さすがに一人では無理で戻って来たってワケさ。ねぇ、ウッディ君、イセちゃん。僕の言いたいことわかるよね?」
「全然わかんねぇ。イセリナ行くぞ」
「ちょっと待てよ――っ! 助けてやって、おまけに家ぶっ壊しといてそりゃないだろ?」
「ウッディ、力になりましょうよ。どのみち暁の力も必要になるんだから」
「さすがイセちゃん話がわかる~大好き! キスしちゃう」
――チュ……。
「な……。と、とにかく力になるわ」
「イセリナがそう言うなら……」
イセリナ達は暁の願いに答えるべく、呪いの館に向かうのであった。
後方でそれを見届けたイシュケルは胸を撫で下ろし、封印を解いた。
――イセリナ……死ぬなよ。生きろ、生きて…………。
「……さて、俺は戻るとするか。その前に……俺が気付かないとでも思ったか? 姿を現せ」
「さすがはイシュケル様……」
イシュケルは、尾行していたシャドウの胸ぐらを掴み上げた。
「何のマネだ?」
「それは……」
イシュケルの掴む腕に力が入る。
「もう一度聞く。何のまねだ?」
「ケホッ、ケホッ。マデュラ様に、イシュケル様の尾行を……」
「ふん。マデュラの奴め。おい、お前!」
「な、何か……」
「消えろ! ふん!」
イシュケルは腕を振り抜き、一撃でシャドウを真っ二つにした。
「マデュラめ……」
イシュケルは怒りを堪えながら、魔界へと戻った。




