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過去跳び  作者: 多摩五郎
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過去跳び

「この世の中は、ある種のシステムですよね。

例えばね、君達のようなね、バグ?ていうかそんなのがね、いちゃうとね、すぐに消しに来るの。もちろん「この世界で」合法的にね。

まあ、跳んだ君らも君らなんだけどね。」

 その男は、まるでこの「過去」の案内人のように言ってのけた。

《過去跳び》~第一話~


「人生をやり直してやる。」

 そう決心した18歳の1月。

 僕は、ディスプレイと向き合いながら、

 「過去跳び」の内容を確認していた。

 僕、安城謙介にこの大決心を強いたのは、

 言うまでもなく、一月の中旬に多くの高校生が経験する「アレ」である。

 

 二日目の試験の帰り道、僕は泣きたくて仕方がなかった。

 人生で初めて、得意科目であった数学において、

 頭の中が真っ白になるという経験をしてしまった。

 でも、帰りの電車内でもホームでも自転車でも泣くことは無かった。

 いや、正確には泣けなかった。

 怖くて。

 

 もちろん帰宅後、その結果を、

 父に母に、そして弟に告げる勇気はなかった。

 だから、家に帰っても僕はすこぶる笑顔で、仮面を被ったのだった。


 三年前、高校受験で、僕がこの地域で二番手の進学校に受かったとき、

 父も母もとても喜んでくれた。

 もともと、父も母もそこそこの高校の後、そこそこの私立組だったので、

 二番手と言えど、涙を流すほどに喜んでくれた。

 だけど、それは一年も続かなかった。 

 

 弟の存在である。

 僕の弟は、昔から器量のよい男であった。

 もともと、サッカー少年だった弟が、受験勉強に精を出すようになって、

 めきめきとその頭角を現し始めた。

 そう、彼は一番手の進学校に難なく受かってしまったのだ。


 その日から、家の中で僕の「居場所」は綺麗さっぱり無くなった。

 家族親戚一同は「安城謙介」という出来損ないの事など、

 目もくれず弟にかまい続けた。

 どこから知ったのか、友達からは、

 知らぬ間に「不良品」呼ばわりされる始末であった。


 そんな次第であったが、かといって、僕はあきらめてはいなかった。

 人生逆転とまでは行かなくも、もう少し家族に認識してもらえるように、

 高校生活の全てを勉学に捧げた。

 友達付き合い、学校の行事も何もかもを投げ打って、

 僕は逆転劇のシナリオをなんとか書き進めた。

 もともと、弟のような才能も無く、努力のみで繋いできたようなものだったが、

 僕は高校生活の全てを費やした甲斐もあり、成績はぐんぐん伸びていった。

 結果、三年の時には、先生からも地元旧帝医学部の太鼓判まで押してもらうまでになれた。

 そして、5日前の僕は、確固たる自信を持って、勝ち戦に赴いたのだった。

 



 それが、このざまだ。

 「何だ。これは。」

 不覚にも笑ってしまった。

 不審者扱いと引き換えに、家の前で赤バイクがやってくるのを、

 待っていて本当に良かった。

 こんな「E」と「D」だらけのセンターリサーチは、さすがに公開不可である。

 予想できていたはずなのに、この「E」の攻撃は、

 先日の試験で破壊された僕の心を、分子レベルで破壊してくださった。

(まあ、僕が人生で一度も、そんな結果をもらったことが無かったからなのだが。)

 

 だけど、この紙は僕に、「ある決心」をさせてくれもした。

 今思えば、この一枚の紙を僕が見た瞬間、多分「過去跳び」が決まったんだと思う。

 



 その夜。

 僕は、サイコロを振っていた。

 1の目が出たら、家出。

 2の目が出たら、自殺。

 3の目が出たら... と、まあこんな感じである。

 ここで、潔く死ぬか否かを決めれたら、それはそれは「漢」であるが、

 あいにくそんな肝玉は持ち合わせていない。

 (だから、受験を失敗したんだと言われたら、否定しようが無いのだが。)

 それでも、自分の人生のおそらく最大の分岐点を、サイコロに任せるあたり、

 やはり「ゆとり」だなぁーなんて事を感じながら、

 僕は、何のためらいも無くサイコロを振った。

 ためらい無く振れたのは、僕の精神が修復不可能なほどに、

 破壊されているからでもあるのだけど。

 サイコロは、そんな僕に愛想が尽きたように、

 カラカラと乾いた音を立てながら机の上を転がった。

 

 出た目は、4。

 

 「不吉な数字だよな。やっぱ、俺ツイてないわ。」

 なんて、事を口走りながら、おもむろに紙を確認すると、

 

 4番-過去に戻る。


 まあ、ようはタイムスリップして過去を変えてくるというものである。

 一般的な思考ができる健全な人なら、まず第一次選考落選レベルの選択肢である。

 しかし、センター失敗によって「あとは野となれ山となれ」な「おつむ」には、

 その判断力は残っていなかった。

 早速、某検索サイトにスマホで「過去に行く方法」を、打ち込んだのであった。

 

 「過去に行く方法」 約 84,300,000 件 (0.18 秒)

 「過去に戻る」 約 32,900,000 件 (0.35 秒)

 「時をかけるS女」 約 1,210,000 件 (0.18 秒)

 

 とまあ、こんな感じで2時間ほどサーフィンしていた。

 ネット上に公開されている様々な方法は、

 何だか多種多様で、信憑性に欠けるものばかりだった。

 (まるで、通販の※個人の感想です並に信じられなかった。) 

 そんな中、時計が3時を回った頃に、僕はそのページにたどり着いた。



   「過去跳び」

      確実に、過去に戻れる方法をお教えします。 

  もちろん、記憶は残ったままだから過去改変ももちろん可能です。

   やり方は、とても簡単なので誰でもすぐに実行できます。


 

 「どこのバイトの求人情報だよ。」

 と、突っ込んでしまいたくなる、その白背景に黒文字のとてもシンプルなページは、

 何だか異様な雰囲気をかもし出していた。

 

 そう。

 なんだか、そのページには、

 他のタイムスリップ系のページにあるべき「重み」が全くもって無かった。

 まるで、日帰り旅行に出かけるかの如く、「過去跳び」を紹介しているのだった。 

 ただ、最後の一行に、


 「※ただし、成功した場合は、連絡のほう、よろしくおねがいします。」


 と書いてあったのを見逃すことは無かった。



 そのページにあった「過去跳び」の方法は、簡単に説明するとこんな感じである。

 まず、あるメールアドレスに、戻りたい日時を書き込んで送る。

 そして、帰ってきたメールに添付された音声ファイルを聴きながら、

 メール本文の文字列を音読するというものである。

 

 「おいおい。こんなんで大丈夫なのかよ。」

 と愚痴りながらも、深く考えずに三年前の「今日」を本文に書き込み、

 メールを送信していた。

 

 すると10分ほどで、メールは返ってきた。

 文字列は、アルファベットと漢字と「ひらがな」が組み合わさったものであった。

 また、音声ファイルは、何か時報のように一定の電子音がなるものだった。

 

 イヤホンを耳にはめ、僕はその文字列を音読しはじめた。

 文字列は、漢字も小学校レベルのもので簡単に読めるには読めるが、なにぶん長い。

 

 20分ほどして、やっと読み終えると、何故か電子音のほうも、

 読み終えるとほぼ同時に終わった。

 個人的には読み終えると同時に、

 いきなりのタイムスリップ!

 なんて事を期待していたのだが、特には何も起きず、

 まあ、ある意味、期待通りであった。

 

 「まあ、そう簡単に戻れたらみんな戻ってるよな。明日の夜、またチャレンジすっか。」

 とかなんとか、独りごちりながら、僕はうとうととまどろんでいったのだった。

 

 たしか、時計は4時を回っていたと思う。



 

 どれほど寝ただろうか?

 結構、寝たはずなのに、まだ外は暗そうだった。

 常日頃から、起きたとき時計をチェックする癖がある僕は、ひとまず時計を確認した。

 バックライトに照らされた液晶には、

 

 0:01

 

 寝起きということもあってか、理解までに10秒ほどかかってしまった。

 ひとまず、電気をつけてベットに腰掛けた。

 

 まず、考えたのは、丸一日眠ってしまった可能性。

 でも、それは受験生の家庭ではありえないのですぐさま打ち消された。

 次に思い浮かんだのは、時計が壊れているというもの。

 されど、時計は確かにしっかり動いていた。

 様々な可能性を、ひたすら脳内で証明しようと試んでいた。


 しかし、そんなのは無意味だってことは、電気をつけた瞬間から百も承知だった。

 手から嫌な汗がふきだしてきた。

 僕は、気づいていたのだ。

 起きたその瞬間に、考え付いたその「答え」が全くもって正しいものであることを。

 なぜなら、僕の机には、「受験勉強」に関する教材が一切無かった。

 だって、あの頃の我が家には、三年前の我が家には、僕の居場所があったから。

 

 かくして、僕はなんとなくな気持ちで、超お手軽に「過去跳び(?)」を成し遂げてしまったのである。

 だけど、それから一週間、どれだけ探しても「過去跳び」のあのサイトは見つかる事は無かったんだ。



《第一話 過去跳び》

   終

 言葉の使いまわしなどにおかしな点も多数あると思いますが、楽しんで読んでいただけたら幸いです。

 一話は、前置きが長くなり、少し面白みに欠けますが、二話から少しずつストーリーも進展していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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