二話 もっと食べたい?
俺達がラーメンを食っていると指名手配犯だという男が店に居たようである。
「わかってます!!」
透き通るようなきれいな声が店に響くと彼女はラーメンを食っている男の手を掴むが男はそのまま掴んだ女を有り得ないことだがそのまま投げ飛ばしたのだ。
女性とはいえ大人を片手で投げ飛ばすことなど普通できない。
「まずい」
一瞬俺の脳裏に叩きつけられ血を流す彼女が浮かんだ。
気づけば俺はそのまま彼女を受け止める為飛び出していた。
「大丈夫ですか?」
空中から落下する彼女を受け止めるとそれは俗に言うお姫様抱っこになってしまった。
そしてやはり彼女か俺が先ほど世界とずれていると感じた彼女だ。受け止めた瞬間、柑橘系の香りが俺の鼻孔を擽る。
「‥‥‥もう大丈夫ですから下ろしてください‥‥‥」
彼女は少し顔を赤らめ言うので俺も少し恥ずかしくなる。とりあえず彼女を下ろす。
「ありがとうございます‥‥‥」
彼女は一瞬顔を赤らめるが次の瞬間にはラーメンをむさぼる男に向き直る。俺も彼女に釣られそちらを見る。ラーメンを異常なまでに喰らう男である。
ウガア・クトゥン・ユフ‥‥‥。
「え‥‥‥」
何かが俺の耳に何かが聞こえる。 なんだこれは一度意識すると耳元で何かがその言葉をつぶやきはじめる。
「く、なんだよこれ、いったい何なんだよ!!」
だが俺の耳の声は消えず俺はふと男の足元に視線を落とす。だが異常に気づく。男の足がなくなっているのだ。正確には徐々に身体にめり込んでいっているようである。
「なんだよ、あれ、足がなくなってる!!」
俺の言葉に目の前の女性が男の脚を見ると焦ったように男の後ろに周り込み男の首に周り込み締め上げる。
男がもがくが彼女の腕が完全に首に決まっているのかしばらくもがくと意識を失った。
「すげー、一瞬で落ちちまった」
おいおい、これで終わりだとでも思ってんのかよ。
「え‥‥‥」
何かが俺の耳元で囁くと同時に俺は走り出す。走り出すと同時に男の目が開かれ痙攣したかのように震え出す。
「離れろ!!出てくるぞ!!」
ああ、それでいい、そのまま走れ。
「え?」
俺はそのまま彼女を突き飛ばす。
「何を!?」
彼女の疑問は最もだが今はそんなことを聞いている暇はない。俺が彼女を突き飛ばすと同時に男の口から黒い影のようなものが飛び出し黒い影は彼女に向けて一目散に向かうと俺は彼女を庇うように抱きしめる。
「ちょっとあなた!!」
黒い影は俺の背中の当たらず消える。そして俺は意識を失った。
夢を見た、そこは森だった。霧がかった森、ここはどこだろう。
ただ何故だか懐かしい。夢の中の俺はそのまま森を歩き出す。まるで通い慣れた道のように歩きやがて奥に巨大な廃墟が現れる。
俺は廃墟の扉を開ける。入ってすぐのソファーに受付、どうやら病院のようだ。俺はそのまま歩き出しホールまえの廊下を進みそのまま階段を上がる。
いったい何があるというのだろうこの先にそして一体俺はどこに向かっているのだろう。それにここはどこなんだろう。
目の前に扉が現れ俺はそれを開ける。そこには仕事帰りなのかスーツを着た女性が二人縛られている。そして夢の中の俺の手にナイフが握られているとことに気づく。
何をする気だ。止めろ!!
そして俺は振り下ろす。
「止めろぉ!!」
俺はいやな夢に飛び起きる。呼吸が全身からいやな汗が吹き出し息が荒くなっているのがわかる。
「はぁはぁはぁはぁ」
ふといきなりドアの開く音がしそちらを見るとそこには銀髪の髪を下ろしシャツと綿パンを履いた女性何か驚いたように見ていた。
「目が覚めた様ですね」
女性がこちらに水のペットボトルを投げてくる。俺は危なげなくキャッチする。
「飲んでください、喉乾いているでしょう」
「ありがとうございます、えーと」
お礼を言おうとしてふと気づいたがこの人は確かあのラーメン屋にいたひとだった筈だ。というかここはどこだ。俺は確かラーメン屋に‥‥‥。
「ここは私の家ですよ、西園寺謙吾くん」
俺の表情から何か読み取ったのか彼女が答えてくる。
あれ?俺は彼女に自己紹介したか?
「どうぞ?」
彼女が俺の財布を差し出してくる。どうやら気絶している間に抜かれたようだ。中身を確認すると各種免許証に3万円がしっかり入っており何もなくなっていないようだ。
「どこの誰だかわからない方をお招きできないのでこちらで確認させていただきました」
「別にその程度で何も言いませんよ、別に知られて困るもんでもないですし」
まぁ唯一微妙なのは俺の名字だ、俺は一応西園寺家の長男だ、それにつけ込むような女には見えないが一応警戒する。
「起きたならついてきてください、話を聞きたいので」
俺は彼女についてベッドから立ち上がり部屋を出ると長い廊下に出る。作りからして古い洋館のようだ。
「大きいな‥‥‥」
「元々祖父の持ち物で使ってない部屋も多いのですけどね‥‥‥」
彼女が苦笑し部屋の一つに連れられる。部屋の作りはそれほど広くなく部屋の左端に暖炉に中央にソファーにテーブルがおかれている。
「どうぞ、座ってください」
女性に促され俺はソファーに座ると女性が正面に座る。
「単刀直入に聞きます、あなたは何者ですか?」
「あなたが自分で言ったでしょう?西園寺健吾ですよ」
俺は素直に答えると突き刺すような視線を彼女から受ける。彼女は俺をまるで親の仇でも見るような目で睨みつけてくる。
「なんですか……」
俺はいわれもない憎悪を受けながら言葉を絞り出す。
「いえ、自己紹介がまだでしたね、私はエリー、エリー・シュヴァルツ・エーレンヴルグです」
やたら長い名前だ、間違いなく日本人ではない。
「日本人の方ではないですね」
「ええ、祖父に預けられ幼少期に日本に来ましたが、れっきとしたドイツの生まれですよ」
なるほどドイツ人か見た目からアジアの人間ではないのはわかっていたがなるほどドイツ人か。
「丁寧な日本語ですね」
「言った通り祖父に預けられ日本に来たのでドイツより日本の方が長いですからね、当然必然的に喋れるようになりますよ」
さてどうするか少し鎌をかけてみるか……だが失敗したときのデメリットを考えれば得策じゃない。ここがまだどこかわかったわけじゃない。
「ここって家まで歩いて帰れますかね」
「心配しなくてもここは富裕区画ですよ」
予想はしていた。この規模の邸宅をこの街で用意できる土地は富裕区画か郊外の自然区画ぐらいだ。
だが油断はできない。なぜならカーテンが締め切られており外の様子が見えない。このまま外にでたら市外っと言う落ちもある。第一俺はどれくらい意識を失っていた。今は何時だ。
「ん・・・・・・!?」
「どうかしましたか?」
「いえ、なにも」
ち、携帯がなくなっている。確かに右のポケットに入れておいたはずなんだが目の前にいる女性がとったのか?いやだが何のために抜いた。こんなことすぐバレるだろう。足の着く行為に何の意味がある。
「西園寺謙吾君、ラーメン屋の出来事を覚えていますか?」
「あなたが華麗に首を絞めて男を落とした奴ですか
?プロでしたね、素晴らしい手際でしたよ?
そして同時に俺にあの関節技を決められたら知識のない俺では抜けられないつまり彼女と敵対した場合俺は勝てない。
「ありがとうございます、でも私が聞きたいのはそんなことじゃないんですよ」
「というと?」
「あなたなぜあれの正体を知っていたんですか」
あれの正体……あれ?何で俺は理解できた?あんなこの世の物とは思えない物をあんなにも冷静に理解しそして行動していた?俺はあの時なぜ?
「答えられませんか■■■■■?」
え?今彼女はなんと言った俺のことをなんと言った?
刹那、彼女が立ち上がり彼女の腕が俺の眼前に迫り掴まれ壁に投げつけられる。
「がは!!」
背中に走る衝撃で肺から空気が漏れる。更に床に落ちた衝撃で脳が揺れる。ち、冷静な思考ができない。目を見開くと彼女がこちらに歩を進めていっている。動かなきゃ殺される。
だよな?じゃあどうする?死にたくねーならやるこたぁ一つだぜ?
そうだ、死にたくない。死にたくなんかない。あれ?何のために?
「まったく、君は私が来るまで待っていることもできないのかね?」
部屋に響く女性の声に俺は入り口に視線を移すとそこには口にくわえ煙草のぐるぐるのいかにもな伊達眼鏡の緑色の髪の少女にその横には赤い髪のスーツを着た女性が佇んでいる。
「エリー、君は■■■がらみだと本当に冷静ではいられないのかい」
緑色の髪の少女がエリーをなだめるその言葉からは年期を感じる。
緑色の髪の少女の横に居た赤い髪の女性が背中をさすってくれる。
「ありがとうございます」
赤い髪の女性は肩を貸してくれる。投げ飛ばされた時にぶつけた身体が痛い。
「まぁ気持ちはわかるよ、でも彼は■■■じゃないよ、考えてみたまえ、もしも彼だとしたら以前彼が現れたのは5年前、早いよ、早すぎる彼がこちらに出てくるのならまだあと3年は必要だよ」
「ですが彼の異常な知識はどう説明するんですそれこそ■■■の証拠でしょう!!」
エリーの怒鳴り声が部屋に響き緑色の髪の少女が呆れているように溜め息をつくとこちらに視線を移す。
「まぁ、彼も普通ではないようだね、何か別の深淵と繋がっているようだ、私が保証しよう、彼は■■■ではない、なんなら誓約でもかけるかね?」
少女は意味の分からない言葉を言ったあとエリーを見る。
「わかりました、そこまで言うなら信じましょう、彼は■■■ではない、これでいいですか?」
エリーは納得したように部屋から出て行くとあとから入ってきた二人と俺だけが残される。
「おっとうちの所員が酷いことをしたね、わたしは洩船時式、洩船時探偵事務所の所長だ、こっちは所員の斎藤古町だよ」
自己紹介を受け俺はとりあえず頭を下げる。
「俺なんであの人に投げられたんですか?」
今日が初対面のはずだしむしろ攻撃される覚えはない。
「ああ、その前に君は幼い頃読むだけで吐き気や目眩を覚える本を読んだことはないかい?」
式さんの質問に俺は考えを巡らせるがそんなものの記憶はなかった。
「無いと思います」
「そうかい、ならいいんだ」
式さんが笑顔で答える。その笑顔が笑顔を貼り付けただけのものに見えて少し怖かった。
「う・・・・・・・」
いきなり吐き気がする。目眩もする。そして異常なまでの食欲が俺を襲う。
「なるほど、何か貰って来ているようだな」
式さんが俺を見下ろすと手を前に出す。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
式の言葉が理解できない。人間の言葉ではないような言語が紡がれると俺の異常が少しずつ収まる。
「うむ、やはり効いたか」
俺は立ち上がると式さんを見る、目の前の人は何者なのだろうか。
「あなたはいったい」
「もう一回自己紹介が欲しいのかい?洩船時探偵事務所、所長の洩船時式だ」
彼女はまるで可笑しそうに微笑む。
「お話は終わりましたか」
エリーが頭にバスタオルをかぶり部屋に入ってくる。どうやら風呂上がりのようだ。
「エリー、ちょうどいい、今日、彼を家に泊めなさい」
「「は?」」
まさかの提案に二人してハモる。
「ちょっと待ってくれ!!俺がここに泊まる理由がない、第一殺されかけたんだぞ、まともな神経で泊まると思うか!!」
こんな所で泊まったら命が無い。
「いや泊まるべきだよ」
洩船時が少し高圧的に告げる。
「所長、理由をお聞きしても?」
エリーがもっともなことを言う。当たり前だ彼女は何らかの理由で俺を殺そうとした。ならば一緒に置いておくのは危険だ。
「彼、中に何か居るぞ、何かあったら君が止めろ」
意味のわからない。だが今夜は帰れそうにはないようだ。