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五百文字の小説

作者: 銭屋龍一

  何してるときが一番楽しいかな? 俺はごろうちゃんに訊く。


お絵かき! 即座にごろうちゃんが答える。

 なるほど、なるほど。 俺は言いながらうなずく。

 何がなるほどなのか自分自身にもわかってない。ただお絵かきが一番楽しいという言い分が理解できた、という意思表示でしかない。

 仕事がなくて、めしも喰えなく、困っていると、隣の部屋の安藤さんがやって来て、子供をちょっと見てくれないかな、と言った。

 子供を見て、なにか変わるのかと思ったけれど、じきに面倒を見てくれということだと分った。分るまでの時差に己の愚かさを改めて気づかされて、げんなりした。


 安藤さんは八丁堀のぼったくりバーのナンバーワンなのだけど、それは子供をつれて働きにいけるような職場ではなかった。ナンバーワンでも好き勝手できない職場っていうのも悲しいな、と俺は思った。思ったけれど、口には出さなかった。

 とりあえずお試しで、と、その夜、さっそく、ごろうちゃんを俺にあずけて安藤さんは出勤した。俺はごろうちゃんと二人きりになると、急に不思議なことに思い至った。


 ねぇ、昨日までって、ごろうちゃんはどこに居たの?


 昨日はママのとこ。 いかにもバカだなぁ、という調子でごろうちゃんが言った。


 ああ、そうだね。ごめん。その前だ。


 ビスケット・ママ


 ん? 俺がぽかんと口を開けていると、やれやれという風に首を振って、無認可の保育所だよ、とごろうちゃんが教えてくれた。

 なるほど、なるほど。何がなるほどなのか分らなかったけれど、俺は充分納得して、そのビスケット・ママと、こことでは、どっちが楽しいかな? と訊いた。ごろうちゃんは俺を睨み、いかにも馬鹿馬鹿しいという風に首を振ってから、それを言ったら、僕に選択権はあるわけ? と答えた。

 いやいや洗濯権があったとしても俺がごろうちゃんの衣服を洗うはずがないじゃないかと思ってから、それが選択権だと気づいた。


 ないね。


 だったら、訊くなよ、とごろうちゃんは言いたそうな目で俺を見てから、描いていた絵の太陽を真っ黒に塗りつぶした。


 それですべてがわかった。


 今では俺の部屋にくる子供は五人に増えていた。


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