第八話「論理の加速」
翌朝。雲一つない青空の下、アカデミーの広大なグラウンドには多くの生徒が集結していた。
各々が最新のデバイスを手に術式の最終調整を行う中、一人だけ毛色の違う男がいた。
「おっ、九条院じゃん! おはよう。……お前、その髪型セットするのに何行のコード使ってんだ?」
ジャージの首元をパタパタさせながら、達磨が九条院に話しかける。
「……貴様。昨日の無礼、まだ忘れてはいないぞ。それと私の髪は天然だ、術式など使わん!」
九条院が顔を真っ赤にして怒鳴る横で、氷室が氷の視線を達磨に向けた。
「……宇津志達磨。昨日のは単なるシステムの隙を突いた運ゲーに過ぎないわ。今日こそ、あなたの『底』を数値で証明してあげる」
「へーへー、お手柔らかに。数値だかなんだか知らねーけど、俺は楽しく踊れりゃそれでいいわ」
達磨が鼻歌を歌いながらストレッチを始めたその時、朝礼台の上に阿久津がふらりと現れた。
「……おい、ガキ共。静かにしろ」
拡声器を通した阿久津の声がグラウンドに響く。彼は相変わらず気だるそうに頭を掻き、面倒くさそうに宣言した。
「これより編術師体力測定を開始する。種目は全部で三つ。……言っておくが、これは遊びじゃねえ。術式を身体能力にどれだけ『最適化』できるかを見る、実戦形式のデバッグだ。結果次第じゃ、ランクの降格……あるいは退学もあり得る。……じゃ、最初の種目だ」
阿久津が指を鳴らすと、グラウンド中央に一直線のレーンが出現した。
「第一種目は『100m走』。ただし、公平を期すために……計測は一人ずつ行う」
ざわっ、と生徒たちがどよめく。
「一人ずつだと……? 全員の視線に晒される中で走れと言うのか」
「プレッシャーによる演算ミスを誘発させるつもりか……」
生徒たちが戦慄する中、阿久津はニヤリと笑った。
「その通り。観客席の全員がお前の『編纂ログ』を見ていると思え。……最初の走者は、ランクA、九条院 凱。……行け」
「……フン、露払いには丁度いい」
九条院が優雅にスタートラインに立つ。
彼の周囲に、バチバチと青白い電位ノイズが走り始めた。
「術式展開——『雷霆編纂』。……加速、接続」
九条院の脚部に、幾何学的な雷の回路が展開される。
それは、空気抵抗を計算し、摩擦係数をゼロに近づけ、神経伝達速度を極限まで引き上げる「美しき加速の数式」だった。
「……位置について。用意……」
ドンッ!!
号砲と共に、九条院の体が「雷光」と化した。




