第七話「嵐の前の「運動会」」
阿久津は、煙草の煙をゆっくりと天井に向けて吐き出し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……ま、せいぜい今のうちに大口を叩いておくんだな。明日になれば、嫌でも自分の『場違いさ』を思い知ることになる」
「あ?」
達磨が眉をひそめると、阿久津はデスクの上の端末を叩き、学園全体に配信される明日のスケジュールを表示した。
「明日は、新入生および全学年合同の『編術師体力測定大会』だ。……もっとも、ただの徒競走や球技だと思うなよ。術式を併用した、事実上の『全力デバッグ演習』だ。S級からF級まで、文字通り全員参加だ」
「……体力測定?」
達磨はその言葉を聞いた瞬間、それまでのダルそうな表情を一変させ、パッと顔を輝かせた。
「なんだよ、それを早く言えよ! 座学以外なら最高だわ。ペン握るより、体動かす方が百倍マシだね」
「ほう、自信満々だな。……お前が言う『現場のノリ』が、九条院や氷室のような『洗練された暴力』にどこまで通用するか。……楽しみにしてるぜ、宇津志」
阿久津は、背を向けて部屋を出ようとする達磨の背中に、もう一度だけ声をかけた。
「……あぁ、言い忘れてた。その大会の結果次第じゃ、Fクラス(バグ)は即座に『デリート』される可能性もある。命を削って踊ることだな」
「へっ、上等だよ」
達磨は振り返りもせず、片手をひらひらと振って扉を閉めた。
カツ、カツ、と廊下に響く達磨の足音。
彼の頭の中には、すでに激しいブレイクビーツが鳴り響いていた。
「……体力測定、か。ようやく俺の『正解』を見せてやれる場所が来たな」
その頃、校舎の別の場所では、九条院が苛立ちを隠せずに壁を殴り、氷室は月明かりの下で静かに術式を練り上げていた。
理論、定数、そして計算外の変数がぶつかり合う、嵐の幕が上がろうとしていた。




