第六話「理の階層構造」
達磨は放り投げられた黒いカードを空中で受け止め、その表面に刻まれた文字をじっと見つめた。
「……『F』? なんだこれ。全国模試の結果でも返ってきたのか?」
「いや、そいつはお前の『価値』だ。宇津志」
阿久津はデスクの椅子に深く沈み込み、壁一面の巨大なモニターを起動させた。そこには、複雑な回路図のようなものがピラミッド状に重なり、その頂点に「S」、底辺に「D」や「E」、そして枠外に「F」の文字が浮かんでいた。
「いいか、よく聞け。この学校……いや、この世界には『編纂能力(処理能力)』による明確な格付けがある」
阿久津が指を鳴らすと、モニターに階級の説明が表示される。
S級(System-Admin): 世界の理を書き換える「神の指先」。
A級(Advanced): 氷室や九条院のような、一分の隙もない精鋭。
B〜E級: その他大勢の「歯車」。
F級(Fatal-Error): 『致命的な欠陥』。 測定不能、あるいは組織にとって有害なバグ持ち。
「お前は、さっきの試験で『計算過程をすべて飛ばして正解だけ出す』という、システム的にあり得ないバグを叩き出した。だからランク外……『F』だ。誇れよ、お前は存在自体がエラーなんだ」
達磨は鼻で笑い、身分証を指先で回した。
「へえ、計算しないだけで欠陥品扱いか。エリート様方の度量の狭さが知れるな」
「まあ待て、二酸化炭素。お前を窒息させるための知識をもう一つ教えてやる」
阿久津はモニターの表示を切り替えた。今度は三つの円が重なり合う図が表示される。
「術式には、大きく分けて三つの『書き方』がある」
記述系:
「九条院」がこれだ。緻密なコードを積み上げ、雷を『記述』する。もっとも一般的で、もっとも美しいとされる王道。
定数系:
「氷室」の系統だ。空間の温度や速度に『0』という絶対的な数字を上書きし、固定する。一分の狂いも許されない。
変体系:
「お前」だ。既存のルールを破壊し、自分勝手なリズムで世界を強制的に上書きする異端。
「お前の『桜花連鎖乱舞』は、この変体系の中でも特にタチが悪い。ダンスのステップで物理的にコンパイルをねじ伏せるなんて、教科書には一行も載ってねえ」
「……ふーん。要するに、あいつらは『マニュアル人間』で、俺は『現場のノリ』ってことだろ?」
「言葉が軽すぎるが、本質は合ってる」
阿久津は新しい煙草に火をつけた。
「いいか、宇津志。このアカデミーは世界を『修正』する場所だ。だが、お前の力は『破壊』に近い。……お前がそのステップで、このガチガチに固まった世界の理をどこまで踊らせられるか。……せいぜい、酸欠にならない程度に暴れてみせろ」
達磨は「F」と書かれたカードをジャージのポケットに突っ込み、不敵に口角を上げた。
「……言われるまでもねーよ。マニュアル通りじゃ、いいダンスは踊れねーからな」




