第五話「二酸化炭素の転校生」
第五話公開中!
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
達磨が放った「拳一行」の解答により、演習場のホログラムは激しく明滅し、ついには『COMPLETE』の文字を映したままフリーズした。
静まり返る教室。
エリートたちの、プライドが砕ける音が聞こえてきそうな沈黙を破ったのは、教壇に立つエージェントの、乾いた指パッチンの音だった。
「……そこまで。試験終了だ」
その声で、ようやく止まっていた時間が動き出す。
「……バカな、ありえない! プロセスが白紙なんだぞ!?」
「あんなの、ただの暴行よ……術式への冒涜だわ……」
周囲の生徒たちが動揺し、騒ぎ始める。九条院は震える手で自分の端末を睨みつけ、氷室は冷徹な仮面を維持しながらも、その視線は蛇のように達磨を射抜いていた。
しかし、当の達磨はといえば、ジャージの裾で額の汗を拭いながら、あくび混じりにエージェントへ歩み寄る。
「おい。これで終わりか? 終わったら帰してくれよ。」
「宇津志達磨。君は帰宅を許可されていない。……来たまえ。君を『直接担当』する男。阿久津鋼が待っている」
エージェントは達磨を促し、騒然とする教室を後にした。
案内されたのは、校舎の最上階にある、およそ「学校」とは思えないほど煙草の臭いが染み付いた古びた執務室だった。
重い鉄扉を開けると、そこには書類の山に囲まれ、デスクに足を投げ出した一人の男がいた。
無精髭に、よれよれのネクタイ。指先には、今にも灰が落ちそうな一本の煙草。
彼こそが、このアカデミーの現場責任者、阿久津鋼である。
「……連れてきたか」
阿久津は顔も上げず、煙を吐き出した。
「宇津志達磨です。試験の結果、および適性については報告書通り——」
エージェントの言葉を遮るように、達磨が一歩前へ出る。
彼は阿久津の威圧感に怯むどころか、部屋の澱んだ空気を吸い込み、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「お疲れ様です。……酸素と二酸化炭素を取り替えて、この部屋を二酸化炭素だけにしに来ました」
一瞬の静寂。
エージェントが「何を言っているんだ、この男は」と眉をひそめたその時、阿久津が初めて顔を上げた。
「……ははっ」
阿久津の喉が鳴る。
「二酸化炭素、だと?」
「ああ。あんたらの小難しい『酸素(理屈)』は、俺には息苦しくてかなわねーんだよ。だったら、俺が吐き出すゴミ(ノイズ)で、部屋ごと窒息させてやろうと思ってな」
阿久津はゆっくりとデスクから足を下ろし、煙草を灰皿に押し付けた。その眼光は、達磨の「核」を見透かすように鋭く光る。
「面白い。お前、自分が何を持ち込んだか分かってねえな」
阿久津は立ち上がり、達磨の目の前まで歩いてくると、その肩を強く叩いた。
「ここは『正解』を書く場所だ。だが、お前がやったのは『解答用紙を燃やす』ことだ。……いいぜ、二酸化炭素。お前がこの学園の連中を全員酸欠に追い込むのか、それとも先に自分が消されるのか。……見届けさせろ」
阿久津はニヤリと笑い、デスクに置かれた真っ黒な身分証を達磨に放り投げた。
「歓迎するぜ。国立術式編纂専門学校、第Fクラス——『未定義のバグ』、宇津志達磨」




