第二十六話「重力とサムネとヒップアップ」
「……3.00……2.00……」
達磨を「不動の軸」としていた猛烈な嵐が止む。
敵は全てノイズとなって消え、仮想市街地には静寂が戻る。……はずだった。
「……1.00。……あ、終わった(三回目)」
空中、地上数メートルの高さ。首が90度に曲がり、全身が鉄クズのように固まった達磨が、重力のままに落下を開始する。
(待てよ。このままもう一回頭から落ちたら、逆方向にグキッといって首が元に戻るか……あるいは、左右270度自由に回るフクロウになれるんじゃねーか?)
落下する数秒の間、達磨の脳内はフル回転していた。
(フクロウ人間。これだ。YouTubeの『重大発表』ってサムネで、真顔で首を一回転させる動画。しょうもない報告で釣るサムネ詐欺に比べたら、俺のはマジで人類の進化、ガチの重大発表だわ……世界獲ったわ……)
「宇津志ぃぃ!! 受け身を取れ!!」
九条院の悲痛な叫びが響く。
しかし、物理固定状態の達磨にそんな器用な真似ができるはずもない。
彼はフクロウになる覚悟を決め、目を閉じた。
ドォォォォォン!!
鈍い衝撃。
だが、痛みが走ったのは「首」ではなく「腰」の下だった。
運が良いのか悪いのか、達磨の体は空中でわずかに回転し、地面に対して水平に近い角度――正確には、お尻から着地したのだ。
「……3.00。……ぷはっ! 動ける!」
フリーズが解け、達磨はバネのように飛び起きた。
九条院と氷室が、冷や汗を流しながら駆け寄ってくる。
「宇津志! 無事か!? 首は……首はどうなった!」
「……あ。いや、首は相変わらず90度だわ。フクロウへの進化は失敗した」
達磨は少し残念そうに首をさすり、それから自分のお尻の感触を確かめるようにパンパンと叩いた。
「……でもよ、今の着地で確信したわ。めちゃくちゃお尻に効いた。これ、確実にヒップアップしちまったな。……見てくれよ、このライン。アスリートを超えて、もはやセクシー路線のアイドルとしても売れるんじゃねーか?」
「…………」
九条院は口を半開きにし、氷室は手に持っていた氷の剣を無言で地面に突き刺した。
「……死ねばよかったのに。宇津志達磨、あなたという人間は、世界で一番死が似合わないわ」
氷室の絶対零度の蔑みを受けながら、達磨は「ヒップアップ、ヒップアップ♪」と小躍りして喜ぶのだった。




