第二十五話「不動の軸、連鎖する「嵐」の演出」
「……ったく、理屈じゃねーんだよ。ダンスも術式も、大事なのは『どう見せるか』だろ?」
達磨は首が90度に曲がったまま、異様な集中力で地面を睨みつけた。
彼の脳内では、九条院の「雷」と氷室の「氷」が、バラバラに飛び交うノイズとして処理されている。
(九条院の雷は『直線』、氷室の氷は『面』。……なら、その真ん中に俺が『渦』を作れば、全部まとめて俺のリズムに巻き込めるんじゃねーか?)
普通なら、他人の術式に干渉するのは自殺行為だ。演算が衝突し、暴走を引き起こすからだ。しかし、達磨の『桜花連鎖乱舞』は「変体系」。既存の論理に従う必要などない。
「……設定変更。術式対象を『自分自身の回転慣性』に固定。打撃判定を『遠心力による空間への衝撃』へ移行しろ!」
『――了解。プロトコル再定義。……軸を固定し、出力(BPM)を最大まで引き上げます』
脳内の無機質な声と共に、達磨の足元からピンク色の桜が、かつてないほど濃密な螺旋を描いて立ち上った。
「おい、W九条院! 飛ばされないように、しっかりバックダンサーやってろよ!」
「なっ……何をするつもりだ、宇津志!」
九条院が驚愕して振り返る。
達磨は首を固定したまま、右足の親指一点を「軸」にして、猛烈な勢いで回転を開始した。
「――一速、二速……三速!! ――新技、『桜花独楽』だぁ!!」
ガガガガガッ!!
凄まじい火花が散る。
首が動かないことで、皮肉にも達磨の回転軸は「寸分狂わぬ垂直」に固定された。
その超高速回転が生み出す強力な吸引力が、周囲に散らばっていた九条院の「雷霆」と、氷室の「絶対零度」を無理やり中心へと引き寄せていく。
「な……私の術式が、吸い寄せられる!? 演算が……宇津志の回転に同期させられているだと!?」
九条院が叫ぶ。
「……っ、嘘でしょう。私の氷が、彼の旋風の中で砕かれ……ダイヤモンドダストとして『加速』の素材にされている……!」
氷室もまた、自分の制御を離れて「踊りだした」自らの術式を見て、戦慄した。
達磨の周囲は今や、ピンクの桜、青い雷光、そして白い氷の結晶が混ざり合った、この世のものとは思えないほど美しく凶悪な「属性の嵐」と化していた。
「おらおらおらぁ! これが俺の、特製ステージライトだ!!」
達磨が回転したまま、その遠心力を「打撃」として周囲の未定義者へ放出した。
巻き込まれた敵は、雷で焼かれ、氷で砕かれ、最後は達磨の桜の衝撃波で跡形もなく消し飛ばされる。
「ひーっははは! 見ろよ、あの無茶苦茶なコンパイル! 『雷』と『氷』を、ただの『装飾』として使いやがったぞ!」
阿久津が腹を抱えて大爆笑し、モニターを叩く。
「……あいつ、首が曲がったまま、一番効率的な『固定砲台』になりやがった。……エリート二人の術式を、文字通り『演出』に使いこなしてやがる……!」
九条院と氷室は、自分たちの最強の術式が、達磨のダンスを彩る「豪華な背景」に成り下がっている屈辱に震えながらも、その圧倒的な「正解」から目を離すことができなかった。




