第二十四話「不動のセンター、思考のセッション」
「……っ、クソ、マジかよ……」
目の前では、九条院の雷光が空を裂き、氷室の凍気が大地を支配している。
二人の攻撃は完璧だ。隙がない。
だが、達磨の目には、その「完璧さ」ゆえの不協和音が見えていた。
(……九条院の雷は速い。けど、氷室が作った氷の壁に反射して、軌道が微妙にズレてやがる。氷室も氷室だ。九条院の熱量を嫌って、無意識に自分のエリアを狭めてる……)
エリート二人は「お互いに干渉しない」ことで協調している。それは一見美しいが、ダンスで言えば「お互いのステップを避けて、バラバラに踊っている」だけだ。
(二人の術式はすげえ。けど、あれじゃあ「ユニット」じゃねえ。ただのソロのぶつかり合いだ。……で、俺はどうする?)
達磨は自分の体を内観する。
首は依然として固定されたまま。横を向くことすらできない。視界は正面の、わずか数メートル先を捉えるのが精一杯だ。
(首が死んでる。……視界が動かせない。……だったら、無理に回そうとするんじゃなくて、『体の方を視界に合わせる』しかねーか……?)
達磨はゆっくりと腰を落とし、自分の足元に意識を集中させた。
(今、あの二人は俺を「置物」だと思って、俺の周りを防衛ラインにしてる。……ってことは、俺はこのステージの『動かない軸』だ。……軸が動かなくて、周りが勝手に動いてるなら……)
達磨の脳内に、ある有名なブレイクダンスの技――ではなく、もっと根本的な「物理法則」が浮かぶ。
(……独楽だ。……軸が一点で固定されてれば、その回転は一番安定する。……九条院の雷も、氷室の氷も、俺が『中心』でかき回して繋げりゃ、もっとヤバい「曲」になるんじゃねえのか?)
首が動かないなら、全身を一つの「ネジ」として地面に打ち込めばいい。
達磨の足元のピンク色のノイズが、拡散するのをやめ、一点に収束し始めた。
「……おい、W九条院。……いい加減、バックダンサーらしく俺に華を持たせろよ」
「……あ?」
敵をなぎ倒していた九条院が、背後の異変に気づいて振り返る。
「宇津志……? 貴様、その首のままで何を……」
「……この曲の『サビ』を、今から俺が作ってやるって言ってんだよ!」
達磨が、残った全ての意識を術式『桜花連鎖乱舞』の「一点集中」へと注ぎ込む。
それは「走る」ための加速ではなく、「その場で回り続ける」ための異常なエネルギー変換だった。




