第二十三話「孤高のエリートと、動けないセンター」
「ぐ、ぐぬぬ……! まだだ、まだ俺のソロパートは……終わっちゃいねえ……!」
達磨は首を不自然な角度に固めたまま、脂汗を流して立ち上がろうとする。足元はふらつき、瞳は激痛で潤んでいるが、その奥にはまだ「踊る」ことを諦めない執念の光が宿っていた。
だが、その前に二人の影が立ちはだかる。
「……宇津志、もういいわ」
氷室が冷たく、しかしどこか突き放すような決意を込めて言った。彼女の周囲では、すでに無数の氷の刃が浮遊し、敵を迎え撃つ準備を終えている。
「あ……? 氷室、お前……」
「勘違いしないで。あなたの怪我を心配しているわけじゃない。……ただ、これ以上あなたのような『ノリ』だけの男に、私たちのステージを汚されたくないだけ」
「左様だ、宇津志」
九条院もまた、背中越しに冷徹な声をかける。彼の全身を巡る青い電位は、これまでにないほど鋭く、激しく爆ぜていた。
「私たちはエリートだ。周囲の全生徒、そして教官たちが見ている前で、貴様という『不純物』を抱えながらも完璧に任務を遂行してみせる。……それが、私たちが積み上げてきた『正解』の証明だ」
九条院はゆっくりと振り返り、情けなく首を曲げている達磨を、一瞥する。
「……今の貴様は、バックダンサーにすらなれん。大人しくそこで、我々の背中を拝んでいるがいい」
「――行くわよ、九条院」
「ああ、全てを焼き尽くす」
二人のエリートが同時に地を蹴った。
雷光が敵の群れを貫き、直後に絶対零度の波動が残党を粉砕する。
達磨が口を挟む隙など一切ない、洗練された「暴力的なまでに美しい論理」の共演。
それを見ていた他の生徒たちからは、感嘆の声が漏れる。
「すごい……あの二人の連携、急造チームとは思えない……」
「やっぱり、Fランクが混ざっていても、A級の二人がいれば無敵なんだ」
だが、その称賛を、特等席(朝礼台)で聞いている阿久津だけは違った。
彼は、三人の表情を眺め、不敵に口角を上げた。
(……いいぜ。九条院、氷室。お前らは宇津志への屈辱を晴らすために、かつてないほど術式を研ぎ澄ませている。そして宇津志、お前はその二人の輝きを見て、死ぬほど『センター』に戻りたがってる……)
阿久津は新しい煙草に火をつけ、紫煙越しにニヤリと笑う。
(お互いに嫌い合って、反発し合って、その刺激が全員の『限界』を押し上げてやがる。……全く、どっちが未定義者なんだか分からねえな)
「おい、宇津志! 首が痛くて泣いてる暇があるなら、その『W九条院』の度肝を抜くようなステップ、見せてみろよ。……お前のステージ、奪われたままでいいのか?」
阿久津の挑発的な声が、スピーカーを通じて達磨の耳に突き刺さった。
「……っ、言われ……なくてもよ……!」
達磨は激痛に顔を歪めながら、折れそうな首に力を込めた。
目の前で繰り広げられる「エリートの独壇場」。それを「カッコいい」と感じてしまう自分への苛立ちと、それを上書きしたいという衝動。
達磨の足元から、これまでで最も禍々しく、そして鮮やかなピンク色のノイズが、地を這うように広がり始めた。




