第二十話「逆転のヘッドスピン?」
「フィニッシュだぁぁぁ!!」
空中の瓦礫をステップで踏み抜き、ピンク色の流星となった達磨が、ゴールゲートをマッハに近い速度で通過した。
『計測終了:ランクF、宇津志 達磨。記録――18秒45(※障害物競走歴代最高記録)』
しかし、栄光の記録が表示されたのと同時に、無慈悲なシステムボイスが脳内に響き渡る。
『――連鎖終了。物理固定を開始します。……カウント:3.00秒』
「……あ、詰んだ(二回目)」
カチッ、という音と共に、達磨の全身が空中で「逆さまの状態」のまま完全硬直した。
重力と慣性は、固まった達磨を容赦なく地面へと叩きつける。
ドォォォォォン!!
凄まじい砂煙。
グラウンドのど真ん中に、達磨は頭から垂直に突き刺さった。足だけが天に向かってピンと伸びているその姿は、まるで現代アートか、あるいは不吉な墓標のようだった。
「……う、宇津志ぃぃ!!」
九条院が悲鳴のような声を上げて駆け寄る。
「死んだ……流石に今の衝撃は、脳の論理回路ごと粉砕されたはずよ……」
氷室も顔を青くして立ち尽くす。
だが、三秒が経過した瞬間。
「ぷはっ! 砂が、砂が口に……!」
突き刺さったまま、達磨の足がバタバタと動き出した。彼は首の力だけで地面から自分を引き抜くと、髪についた土を払いながら、目を輝かせてとんでもないことを言い出した。
「……おい、今、俺、閃いちゃったぞ。これだ、これだよ!」
「……は?」
心配して損をしたという顔の九条院を無視して、達磨は興奮気味に続ける。
「今の衝撃と、この突き刺さった時の『フリーズ』! これを逆に利用して、頭を起点にした新しいダンスムーブを編み出したら……これ、YouTubeで一気にバズるんじゃね!? 世界中のダンスファンが度肝を抜くぞ。BTSとかTWICEとか余裕で超えて、世界一のダンサーになれるわ!」
「…………」
グラウンドに、今日一番の沈黙が流れた。
歴代最高記録を出し、死にかけておいて、第一声が「アイドル超え」の野望。
「……馬鹿だ」
十文字魁が、ゴミを見るような目で呟いた。
「……救いようのない、計算違いの馬鹿だわ」
氷室がこめかみを押さえて俯く。
「っ、貴様ぁぁ! この国立術式編纂学校を、バズり動画の撮影スタジオか何かだと思っているのか! 術式をそんな低俗な目的のために――」
九条院が顔を真っ赤にして説教を始めようとしたその時、背後から阿久津の、腹の底から絞り出すような笑い声が聞こえてきた。
「ひーっ……くくく! いいぜ宇津志! BTS超えか、面白いじゃねえか! お前、それ動画撮る時は俺をカメラマンに指名しろよ!」
「おっ、話がわかるじゃねーか!阿久津先生! ギャラは再生数に応じて相談な!」
阿久津と達磨が親指を立て合う中、エリートたちのプライドはもはや原型を留めていなかった。




