第十八話「論理の導火線、崩壊の連鎖」
「……数さえあればいいというその発想。反吐が出るな、蛇穴」
ミチルの増殖体がコースを埋め尽くし、後続が立ち往生する中、十文字魁が静かに眼鏡のブリッジを押し上げた。彼は走る速度を一切変えず、むしろ歩くような悠然とした動作で、目の前に立ちふさがる「ミチルの壁」へと手を伸ばした。
「……術式展開:『論理爆弾』」
彼が壁の一点に指先で触れた瞬間、そこから回路のような光の筋が、ミチルたちの足場となっているブロック全体へ、網目状に一気に広がった。
十文字の理論:構造の急所への干渉
彼はブロックを力で壊すのではない。構造を記述しているコードの「一箇所」を書き換え、全体が自重で崩壊するように仕向けるのだ。
「……三、二、一。――終了タスク・キル」
ドォォォォォン!!
凄まじい爆発音と共に、ミチルが足場にしていた巨大なブロックが、内側から弾けるように粉砕された。
足場を失った数十人のミチルたちが「きゃあぁぁっ!?」と悲鳴を上げながら落下し、データノイズとなって消えていく。
「なっ……! 何すんのよ、十文字!!」
「道が塞がっていたから、掃除しただけだ。……無駄なコード(コピー)を走らせるな。重くなる」
十文字は、爆炎とノイズが舞う中を、まるで計算通りと言わぬばかりの最短距離で突き進む。
彼が指を鳴らすたび、行く手を阻むブロックが、あるいはミチルの増殖体が、一点の無駄もなく次々と爆散し、彼のための「一本道」が形成されていく。
「……これが『定数系』の効率だ。不変の法則に従い、不要な変数を排除する」
まさに移動する破壊兵器。
ミチルが作った「混沌」を、十文字が「破壊」によって塗り替えていく。
その光景を見ていた達磨は、呆れたように口笛を吹いた。
「うわぁ……。あの爆弾眼鏡、容赦ねーな。女子をまとめて爆破するとか、普通に引くわ」
「宇津志、感心している場合か! このままでは我々の通る道が完全になくなるぞ!」
九条院が『雷霆編纂』で飛来する瓦礫を撃ち落としながら叫ぶ。
ミチルの増殖と、十文字の爆破。
コースはもはや、二人のエリートによる「陣取り合戦」のような惨状と化していた。
だが、阿久津はニヤニヤしながら、スタートラインで未だに動かない達磨を挑発するように見やった。
「……おい、宇津志(二酸化炭素)。エリート様たちが必死にパズル(爆破)を楽しんでるぞ。お前、このまま観客席で指くわえて見てるつもりか?」
「……まさか」
達磨は軽く首を左右に振り、バキバキと音を鳴らした。
「道が塞がってて、爆弾まで飛んでくる。……最高じゃん。こういう『ノイズだらけの曲』の方が、踊りがいがあるってもんだろ?」
達磨の足元から、これまでで最も濃いピンク色の電子桜が、猛烈な旋風となって吹き荒れた。




