第十七話「増殖する正解、埋め尽くされる迷宮」
「スタート!!」
阿久津の合図と共に、最前列にいた蛇穴ミチルが動いた。彼女は走るのではない。その場で指を高速でスナップさせた。
「――術式展開:『無限増殖(コピー&ペースト)』。……範囲指定、このフィールドの全座標!」
シュパパパパパッ!! と、耳を刺すような高速の複写音がグラウンドに鳴り響く。
一瞬でミチルの姿が、十人、五十人、百人と増殖し、グラウンドを埋め尽くした。
「……え、待て待て、多すぎだろ!」
達磨が思わず仰け反る。
増殖したミチルたちは、阿吽の呼吸で立体障害物の「壁」へと取り付いた。
一人が土台になり、その肩を別のミチルが踏み、さらにその上を別のミチルが駆け上がる。
ミチルの攻略法:人間梯子ならぬ「増殖梯子」
本来、浮かぶ立方体は、複雑な暗号を解かなければ足場として認識できない。しかし、ミチルは「解く」ことを放棄した。
増殖した自分自身を物理的な「杭」や「足場」として空間に固定し、文字通り自分の死体……ならぬ「自分のコピー」を積み上げて、最短距離の階段を作り上げたのだ。
「あはは! パズルなんてバカ正直に解いてるから遅いのよ。数が足りないなら、増やせばいいじゃない!」
空中に浮かぶブロックの隙間を、数百人のミチルが濁流のように流れていく。
一人がブロックの防衛システム(電撃や排除プログラム)に触れて消滅しても、後ろから新しいコピーが即座にペーストされ、道を繋ぐ。
「……っ、相変わらず悪趣味な術式ね」
氷室が冷たく呟きながらも、自身の『絶対零度』で着実にブロックを凍結・粉砕して進む。
「フン、所詮は反復コードの羅列。美しさのカケラもない」
九条院もまた、『雷霆編纂』でブロックの暗号を瞬時に書き換え、光の速度で迷宮を突破していく。
しかし、現時点でのトップは、圧倒的な物量で「迷宮そのものを物理的に塗りつぶしている」ミチルだった。
「ほらほら、Fランクのバグ君! 足元に気をつけないと、私のコピーに踏み潰されちゃうわよ!」
上空から、無数のミチルたちが達磨を見下ろして一斉に嘲笑する。
コースはすでに、数えきれないほどの「蛇穴ミチル」によって占拠され、後続の生徒たちが通る隙間さえなくなろうとしていた。
「……数こそが正義。」




