第十四話「連鎖する爆音、桜の閃光」
ドンッ!!
号砲が鳴り響いた瞬間、達磨の足元で爆発が起きた。
「――一速!!」
達磨が地面を「蹴った」のではない。スニーカーの底を、術式を乗せた衝撃で地面に「叩き込んだ」のだ。
ピンク色の電子桜が火花のように散り、氷室が凍らせた地面がバキィッ! と音を立てて砕け散る。
『――一撃目:命中。連鎖受付開始』
通常の走法では、接地時間は「ロス」とされる。しかし、達磨にとっては接地こそが「加速のチャンス」だ。
二歩目。
「二速!!」
踏み込むたびに、達磨の背中から桜のノイズがブーストのように噴出する。
一歩ごとに速度が倍加していく異常な光景に、九条院が叫んだ。
「……バカな! 加速の計算式も組まずに、ただの踏み込みだけで速度を上げているというのか!? 慣性を無視しているぞ!」
三歩目、四歩目。
達磨の動きはもはや「走り」ではなく、地面を連続で爆破しながら進む「弾丸」だった。
「――三速!! 繋げろ、リズムを……ッ!」
『――連鎖条件達成。演算クロックを極限まで引き上げます。これより「全事象への干渉」を許可』
達磨の視界から、色が消えた。
聞こえるのは、自分の鼓動と、床を叩く打撃音だけ。
ゴールテープまでの距離が、加速し続ける彼にとってはあまりに短すぎた。
「おらぁぁぁ!!」
空気の壁を、肉体という名の質量が強引にブチ抜く。
ピンク色の光の線がグラウンドを横切り、計測終了の電子音が鳴り響いた。
『計測終了:ランクF、宇津志 達磨。記録――7秒12』
「な……!?」
氷室の顔から、初めて余裕が消え失せた。
九条院は、掲示板に表示された「7.12」という、人類の、そして編術師の常識を数十年先取りしたような数字に、持っていた端末を落とした。
だが、達磨に喜んでいる余裕はなかった。
『――警告:連鎖終了。術式使用後の揺り戻し(バックラッシュ)を開始します』
『物理固定フリーズ:残り時間 3.00秒』
「……あ、やべ。……っ!」
ゴールラインを時速200キロ近い速度で駆け抜けた瞬間、達磨の全身が鉄クズのように固まった。
指一本、髪の毛一筋さえも動かせない「完全な静止」。
しかし、彼が持っていた凄まじい「慣性」までは止まってくれない。
「……ッ(あ、これ詰んだわ)」
カチコチに固まったまま、達磨の体は地面を弾み、まるで石ころのようにゴロゴロと転がっていった。
ドカッ、バキッ、ズザザザザーッ!!
顔面から地面を滑り、大量の砂煙を上げながら、達磨は九条院の足元でピタリと止まった。
静まり返るグラウンド。
砂煙が晴れると、そこには「満身創痍で顔面から地面に突っ込んだまま、彫像のように固まっている」達磨の姿があった。
「……ぷっ、……ははははは!」
阿久津が腹を抱えて笑い出した。
「記録は7秒12……歴代最高記録だが、……っ、あー、ゴール後の姿は歴代で一番無様だな! 宇津志!」
九条院は、足元で固まっている達磨を呆然と見下ろし、それから震える声で呟いた。
「……7秒……12……。論理を捨てて……地面を殴り倒して、この数字か……」
氷室は、凍りついたままの指先を見つめ、屈辱と、正体不明の「恐怖」に唇を噛んだ。
これが、Fランク。
世界の理を、自分のステップだけで書き換えてしまう「計算外の怪物」が、学園に爪痕を残した瞬間だった。




