第十話「エリートの矜持と、異端の称賛」
九条院が優雅に、しかしどこか誇らしげにスタートラインから戻ってくる。
周囲の生徒たちが畏怖の眼差しを向ける中、達磨だけは、まるで面白い見世物でも見た後のように、目を輝かせて拍手を送った。
「うっわ、マジかよ! 九条院、お前すっげーな!」
「……なっ!?」
九条院が身構える。皮肉か、あるいは負け惜しみが飛んでくると思っていた彼は、達磨のあまりに直球な反応に、出鼻をくじかれたような顔をした。
「今の脚のバチバチ、雷だろ? マジでカッコいいじゃん。普通にアニメとかの主人公みたいだったわ!」
「ア、アニメ……!? 貴様、我が『雷霆編纂』をそのような娯楽と同列に……」
「いや、褒めてんだって。やっぱりエリート様は伊達じゃねーな。あの速さ、俺の追試の解答スピードより百倍は速かったぞ。……いや、比べるのも失礼か!」
達磨はガシガシと頭を掻き、本気で感心した様子で九条院の脚部(もう消えかかっているが、術式の残光が残る場所)を覗き込んだ。
「あんな風に光りながら走れるなら、夜道とかライトいらなくて便利そうだしな。羨ましいわ」
「……っ。便利、だと……? この術式を組むために、私がどれほどの理論構築と演算練習を積み上げてきたと思っている! ライト代わりなどという低俗な発想、万死に値するぞ!」
九条院は顔を真っ赤にして憤慨するが、その怒りにはいつもの「見下すような冷たさ」が欠けていた。
真っ向から「カッコいい」と肯定されてしまったせいで、毒気を抜かれたのだ。
「ま、いいじゃん。カッコいいのは事実なんだし。……よっしゃ、俺も負けてらんねーな」
達磨は軽く足首を回し、九条院の横を通り過ぎる。
九条院は、去りゆく達磨の背中を、複雑な表情で見送るしかなかった。
「……フン、言うだけならタダだ。口を動かす暇があるなら、その無様なジャージを脱いで、少しはマシな数式でも組んだらどうだ。……野良犬」
吐き捨てるように言った九条院だったが、その手は、自分の髪を整える際に少しだけ震えていた。




