17 小説「祖父のプレゼント」
「動くなー!おとなしくしてろ!」
飛行機内でマシンガンを手に男が叫び始めた。
「マジか?」
祖父が手配してくれた飛行機のチケットは不幸のチケットだったのか?
余命3ヶ月の祖父は、孫の私に会いたいから来てくれと、飛行機のチケットと手紙を送ってきたのだ。
その飛行機でハイジャックが起きるとは。
「この飛行機はある場所に突っ込む!」
ハイジャック犯が大きな声で叫んだ。
「おい!お前!」
私はハイジャック犯に運悪く指名され、人質になった。
「あと1時間後に全員あの世行きだ。お前!最後に何か望みがあるなら言ってみろ!」
私は祖父から送られてきた手紙を読みたいと懇願した。
「飛行機内で読むように」と注意書きされていたのだ。
まだ、手紙はこれから読むつもりだった。
どうせなら、手紙を読んでから死にたい。
「なら、みんなに聞こえるように読めよ!」
「はい」
私は手紙を読みながら、驚きのあまり、放心状態になった。
祖父がハイジャックを起こした張本人で、もうすぐ自分は死ぬから、寂しいから、私も一緒に死んでおくれと書かれていた。
この飛行機は祖父の住む家に墜落するとも書かれていた。
祖父は一人で死ぬのが怖いから、私も一緒に道連れにしたいと考えていたようだ。
私はいつも電話で祖父に「なるべく早く死にたい!長生きしたくない」と愚痴をこぼしていた。
この苦しい世界が嫌だったからだ。
だから、祖父はこんなことを考えたのだろう。
しかし、やり方があまりに強引だ。
罪のない他の乗客も道連れになんて絶対にダメだ!!
「お前の祖父は俺たちのボスだ」
ハイジャック犯はどうやら祖父の部下らしい。
じいちゃん。なんてことを!
飛行機は突然、急降下し始めた。
「もし、まだ飛行機は墜落せずに済み、この先の人生を生きていけるとしたら、生きたいか?」
「はい!生きたい!生きていたい!!まだ、私は生きていたい!!ウウウ……死にたくないです……」
私は涙を流しながら、絶望し、地面に膝をついた。
その瞬間、飛行機は急上昇し始めた。
「パンパカパーン!ドッキリ大成功!」
場内アナウンスが繰り返し何度も響き渡る。
「え?」
私は泣きながら、周りを見渡した。
乗客たちやハイジャック犯がみんな笑って私を見つめてる。
ハイジャック犯が拍手しだした。
「全てドッキリですよ。乗客もみんなあなたの祖父に雇われたドッキリ仕掛け人です!! 」
「今の『生きていたい!』ってセリフを忘れないように録画しておきました!本心から出たあなたの心の叫びです。録画した映像は、このビデオカメラに記録されてます。どうぞ、受け取ってください」
私はビデオカメラを渡された。
いつの間に撮影していたのか。
全く気づかなかった。
何、何なんだ?どういうことだ?祖父が全て仕掛けたドッキリだったのか?
「あなたの祖父はあなたが希死念慮に苦しんでいるのを深く心配していました。なので、そのあなたから出た『生きていたい!』という本当の叫びを忘れないようにと、このようなドッキリハイジャックを仕掛けたのです」
「嘘だろ?祖父にそんなことできるわけない。余命3ヶ月なんだよ?」
「貯金と生前に受け取れる生命保険をほとんど使い果たしたらしいです。あなたに、自分が死ぬ前にできる最大のサプライズプレゼントだと言ってました」
こうして、僕は祖父の元に無事に着いて、祖父を半分責め、半分感謝し、お礼を言った。
祖父が残してくれた、私の叫び「生きていたい!死にたくない!! 」という姿を映したビデオを毎日、見て
「生きたい」と日々、実感できるようになったからだ。
ありがとう。
これからもあの時の本心の叫びを忘れないように生きていくよ。