〈現在〉⑶
「今日は楽しかったわね、涼きゅん!」
「そうだな、由衣きゅん! また来ようぜ!」
由衣と涼はるんるんで店を後にする。
イチャイチャした甲斐あって、帰る頃には後輩ズも二人が付き合っていると納得していた。
「先輩たち、本当に付き合っていたんですね。途中、何度も逃げたくなりましたよ」
「疑ってすみませんでした。まさか、ここまでバカ……ラブラブなカップルだったなんて」
「そうなの、そうなの!」
「分かってもらえて良かったよ!」
「じゃ、最後に二人でキスしてもらえますか?」
その二文字に、由衣と涼の笑顔が固まった。
「え?」
「き、キス?」
「ほっぺじゃダメですよ? ちゃんと、マウストゥマウスでお願いします」
「チュー(ネズミの顔真似)」
さすがに動揺した。
二人はキスをしたことがない。「さすがにそれは本命と」と、人前では顔を重ねたり、腕や鞄で隠したりして、キスしているように見せかけてきた。
動揺を隠せない二人に、孝之と麻央は「やはり偽ップルか」と期待した。
(さすがに、キスはしていなかったか。僕は間接キスなんかで誤魔化されないぞ!)
(本当に付き合っているなら、キスなんて簡単にできるはず……でしょう? 先輩)
由衣と涼は動揺していた……本当にキスをしてもいいのかと。
(いいの?! 野田くんとキスしても?! ありがとう、二人ともー! 明日、なんか奢ってあげる!)
(よっしゃ! 柴咲さんとキスできる! フリとはいえ、さすがにガチでキスしたいとは言えなかったんだよなぁー!)
「んもー、しょうがないわね! 伊豆くんと美国さんにだけ、特別に見せてあげるのよ?」
「え?」
「そうだぞ? 二人が頼むから、仕方なくやるんだからな! あー、恥ずかしいなぁー!」
「え? え?」
由衣と涼は言い訳を口にしつつ、唇を重ねる。先ほど食べたクレープの甘い香りがした。
予想外の展開に、言い出しっぺの孝之と麻央のほうが耳まで真っ赤になった。
「分かりました! 分かりましたから!」
「末永くお幸せに! 荷物はお宅まで運んでおきまーす!」
孝之と麻央は荷物を抱え、その場から逃げ出す。
二人がいなくなったのを確かめ、由衣と涼は唇を離した。本心を隠そうとして、自然と口数が増える。
「だましやすい後輩で助かったー! まさか、キスまでさせられるとは思わなかったけどな!」
「ね。あ、ファーストキスだったら、ごめんなさいね?」
「いやいや! さすがに高校生にもなって、ファーストキスはありえないだろー!」
(……私は初めてだったけどね)
(……俺は初めてだったんだけどな)
「……ねぇ、練習のためにもう一回やってもいい?」
「お、おぉ。いいよ」
♦︎
人通りがないのをいいことに、キスの「練習」を続ける二人。
その様子を、後輩ズが電柱の裏からのぞき見ていた。逃げたフリをして、電柱の裏に隠れていたのだ。
「あれはガチだわ」
「うん、ガチ。あれで付き合ってなかったら意味分かんない。諦めよう」