〈現在〉⑵
生徒会もサッカー部も休みの今日は、週に一度の「放課後デートをする日」。これも周りの目を欺くための作戦だ。
「今日はどこへ行こうか?」
「そうねぇ……」
二人は手をつなぎ、校舎から出る。そこへ
「「ちょっと待ったー!」」
見覚えのある後輩の男女が飛び出し、行く手を阻んだ。
「伊豆くん、どうしたの?」
「美国さんも。今日はマネージャーの会議があるはずだろう?」
男子は、生徒会役員の伊豆孝之。女子は、サッカー部マネージャーの美国麻央。それぞれ由衣と涼に告白し、フラれていた。
「そんなことより、先輩方に確認したいことがあるんです!」
孝之と麻央はビシッと、二人の顔を指さした。
「先輩たち……本当は付き合ってませんよね?」
(ぎくっ)
(ぎくっ)
つないでいる手に力がこもる。平静を装い、笑顔を保った。
(どうして?! 私達の演技は、完璧だったはず!)
(とにかく、この場を切り抜けないと!)
「な、何を言っているの? 私達はこの通り、超ラブラブなのよ?」
「ほら、見ろ! 恋人つなぎだぞ! 恋人じゃないのに、恋人つなぎをする男女はいないだろ?」
恋人つなぎした手を見せつける。が、後輩達はなおも疑いの目を向けた。
「なんというか……ベタ、なんですよねぇ。お互いの呼び方とか、手作りのお弁当を食べさせ合ったりするとか。人目につく中庭で食べるのも、わざとらしいし」
(べ、ベタ……!)
「付き合い始めたのも、突然でしたよね。出身中学もクラスも違うのに、どうやって知り合ったんですか? 私、先輩のことずっと見てましたけど、お二人が話しているところなんて一度も見たことありませんよ?」
(それはそう!)
「どうせモテるのが嫌で、付き合ってるフリをしているんじゃないですか?」
((名探偵!!!))
「そ、そんなに疑うなら、ついて来るか? これから二人でデートなんだよ」
「涼きゅん?!」
「いいんですか?」
後輩たちはしてやったり、と笑みをこぼす。ハメられたと気づいたときには、もう遅かった。
「ぜひ、お供させてください。もし、付き合っているのが嘘だったら……告白の返事、考え直してくださいよ?」
「それと、嘘の理由で告白を断ったって、学校中に言いふらしますから」
(ひぇっ)
(後輩、怖っ!)
♦︎
『撮るよー! 笑ってー……はい、チーズ!』
パシャッ
由衣と涼は手でハートを作り、はじけんばかりの笑顔でカメラに映る。一方、孝之と麻央はまるで背後霊のように二人の後ろに立ち、無表情でピースした。
プリ機から写真が出てくる。付き合って以来、最もシュールなプリが撮れてしまった。
「いる?」
「一枚だけ。縦に切って、美国さんと分けます」
「そのために、私の後ろに立ってたんだ……」
デートを始めて、三時間。孝之と麻央はどこまでもついてきた。
クレープ屋の行列にも、映画館にも、プリ機の中にも。さりげなく撒こうとしても、いつのまにか追いつかれている。これでは、せっかくのデートが楽しめない。
(前向きに考えよう。二人に俺たちが付き合っているって納得させるには、いつも以上にイチャつくしかない)
(ってことは……いつもより積極的にいっても、野田くんにバレない?)
「……」
「……」
由衣と涼は顔を見合わせる。さまざまな妄想が脳内を駆け巡り、ハッと視線をそらした。
「じゃ、じゃあ、気晴らしにゲーセンでも行こうか!(棒)」
「そ、そうね! 帰りに、明日のお弁当のおかずも買いましょう!(棒)」
二人は腕を組み、スキップしながらゲーセンへと向かった。
……その後の二人のイチャイチャ度はすさまじかった。
クレーンゲームでバックハグ、ジュースを回し飲み、堂々と手作り弁当を作れる喜びが暴走し、スーパーで爆買い。ファンなら発狂していただろう。実際、二人を焚きつけた孝之と麻央は、呆然と荷物持ちをするしかなかった。
本人達はというと、
(柴咲さん、演技上手いなぁ。普通のカップルみたいだ)
(野田くん、演技上手ね。本当に付き合ってるみたい)
イチャイチャデートを楽しみつつ、相方の演技力に関心していた。