〈一ヶ月前〉
「ハァ、今日も告白されちゃった。生徒会の仕事で忙しいのに」
柴咲由衣は階段を下りながら、ため息をついた。ほとんどの生徒が下校し、閑散とした校内に由衣の足音だけが響く。
由衣はこの学校の生徒会長である。美人で、成績優秀で、人望が厚く、誰からも頼られている。
当然、モテる。
生徒や先生から相談を持ちかけられることがよくあるが、それと同じくらい告白される。男女問わず。
毎回律儀に告白されに行っては、丁重に断り、生徒会の仕事に戻る日々。帰りはいつも、最終下校時刻ギリギリだった。
「いっそ、誰かと付き合っちゃおうかしら?」
♦︎
「ハァ、今日もラブレターがこんなに。早く帰って自主練したいのに、靴が取れないじゃないか」
野田涼は大量のラブレターの中からスニーカーを引き抜き、ため息をついた。ほとんどの生徒は下校し、涼のクラスで靴が残っているのは彼だけだった。
涼はサッカー部の爽やかイケメンエースで、やはりモテる。練習や試合の際には、大勢のファンが詰めかけた。今日も涼といっしょに帰ろうと、校門の前で出待ちしているだろう。
床には大量のラブレターの他、手作りとおぼしきお菓子や、高価なプレゼントが散乱していた。
「いっそ、誰かと付き合っちゃおうか?」
♦︎
由衣は一階に下りる。「ないない」と笑った。
「付き合ったら、毎日デートとかメールとかしなくちゃいけないんでしょ? そんなヒマないって」
涼も「ないない」と笑った。
「どの子を選んだって、ケンカになるに決まってる。女の子があきらめてくれる女の子って、どんな子だろう?」
ふいに、二人の目があった。
「ん?」
「ん?」
その瞬間……"恋"が始まった。