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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
鏡の向こうの始まり
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偉大なる姉

色々あった一日を振り返る。様々な感情を得て少しずつ前に進むそんな感覚を感じた。

夕暮れが差し込む食卓で、家族とともに過ごすひととき。


今日、ひなたたちとの約束が胸に浮かび、少しだけ胸が高鳴る。この一日が、きっと特別なものになる予感を抱きながら、澪は新しい一歩を踏み出すのだった。

 薄明かりが差し込む部屋で、ジリジリと耳に刺さる嫌な音に、(みお)は無意識に目を覚ました。音を止め、腕をゆっくりと頭の上まで上げて、まるで猫が伸びをするみたいに、まだ眠そうなままに小さく伸びをした。ベッドを離れ、タンスの前へと向かう。

今日、どんな服を着ていけばいいかと悩みながら。



しかし、タンスを開けると、そこに並ぶのは見慣れた男の頃の服ばかりだった。どれもサイズが合わない物だったり、運動用や部屋着用など、どれも今の自分にはしっくりこない。胸がざわつき、焦りがじわじわと押し寄せる。約束の時間は刻々と迫っている。


「どうしよう…」

と呟き、勇気を振り絞って姉・(はるか)の部屋へと向かった。


 遥の部屋のドアをそっとノックをした。けれど返事は無く、中からは静かな寝息が聞こえる。朝に弱い遥は、まだ夢の中のようだった。仕方なくドアを少し開け


「お姉ちゃん…?」

小さな声で呼びかける澪。返事はない。ため息をつき、もう一度だけと名前を呼ぶことにした。


すると、眠そうなままの遥が不機嫌そうに声を出す。


「…なに?朝からうるさいなぁ」

遥は目をこすりながら体を起こす。澪は少し気まずくなりながらも、勇気を振り絞って切り出した。


「えっと…相談があるんだけど…」


遥は薄目を開けたまま

「なに?」

声はまだぼんやりしている。


「服のことで…今日、友達と買い物に行くんだけど、今持ってるのは男の頃のばかりで…」

恥ずかしそうに言う澪に、遥はぱっと目を見開き、飛び起きた。


モデルの仕事をしている遥にとって、可愛い妹に服をいろいろ着せ替えたり、一緒にメイクを楽しんだりするのは夢みたいなことだった。

『ついに来たか!』という感じで眠気も吹き飛んだようで、笑顔が一気に輝いた。


「さぁ、入って入って!」

遥はふわりと笑みを浮かべながら、澪の手を軽く引いた。


「私の服貸してあげるからさ」

まだ少し緊張している澪を見て、遥は優しく声をかけ、扉を開けた。柔らかな光が差し込む部屋の中には、色とりどりの服や小物が整然と並べられている。




「これいいんじゃない?」

「こっちも似合いそう!」

「かわいい〜なんでも似合うじゃん!」

遥は宝物を見つけたように、次々と服を取り出しながら目を輝かせる。

一方の澪は、戸惑いと恥ずかしさで顔が熱くなった。


(こんな可愛い服、私に似合うかな……)


鏡の前でそっと服を合わせてみるけれど、ぎこちなくてぎこちなくて。それでも、姉の笑顔と励ましに背中を押され、ほんの少しだけ新しい自分を受け入れてみようと思った。




かれこれ1時間ほど、遥は服を次々と手に取り、澪に似合うものを探していた。




そしてクローゼットの中から、一着の服を取り出した。


「うーんやっぱり澪は、これが一番似合うと思う」


そう言って差し出したのは、シンプルで控えめな白いワンピースだった。レースやフリルは最小限で、清潔感と上品さが漂うデザイン。


「薄手のカーディガンもあるよ。ベージュか淡いピンク、どっちがいいかな?」

遥の声に澪は少し戸惑いながらも、大きな鏡に映る自分の姿を眺めた。


「…これなら、私でも着こなせるかも」

姉の笑顔が心強く、どこか新しい自分に期待している気持ちが胸の奥で芽生えた。



 澪が恐る恐る着ようとすると、遥が軽く手を添えて


「初めてだとわかんないよね」

といいサポートしてくれた。


遥は澪の前にワンピースを広げて、ひとつひとつ丁寧に説明を始めた。


「こうやって肩のラインをちょっと調整すると、すっきり見えるんだよね」


「上にはこのピンクのカーディガンが似合うかな」


「靴はパンプスかバレエシューズが合うかな。持ってるからサイズが合えば貸してあげるよ」

さらには、細めのベルトやシンプルなアクセサリーも用意してくれた。澪は少し恥ずかしそうにしながらも、姉の言葉を受け、少しずつ新しい自分になるのを感じていた。



 服の着替えを終えて鏡の前で自分の姿を確認する澪に、遥がにっこり笑顔で言った。

「やっぱりいい感じ!じゃぁ…次はメイクで顔ももっと華やかにしようか!」


澪は不安そうに

「メイクは…今日はいいよ…ちょっと恥ずかしいし、さ」


それを聞いた遥は、くすっと笑って、澪の後ろから腕を回し逃げれないようにした。


「ダメダメ、逃がさないから。せっかくだし、ちょっとだけでいいからさ、やってみようよ!ね?」

澪は諦めたかのような表情で相槌をする。


「よし、じゃあ始めるよ!」

遥はワクワクした表情でメイク道具の箱を開け、ひとつひとつ丁寧に取り出しながら楽しそうに準備を進めていく。


「ファンデーションはこれ、リップはこれがいいかな」

手際よく道具を揃えながら、澪の顔を見てニコッと微笑んだ。


「澪ちゃんがも〜〜〜と可愛く見えるように、私がちゃんとプロデュースしてあげるからね〜」

遥は楽しそうに小さく笑いながら、メイクを始める。


「な、何それ…やめてよ、恥ずかしいよ」

澪は顔を赤らめて、照れ隠しに俯いた。




 遥は最後の仕上げに軽くフェイスパウダーをはたきながら、にっこりと笑った。


「よし、完成!どう?」

鏡の前で澪が自分の顔をじっと見つめる。いつもより柔らかく、どこか華やかな自分の姿に、思わず息を飲んだ。


「……こんなに変わるんだ」

澪の目に、驚きと少しの嬉しさが光る。


「お姉ちゃん、すごいねありがとう」


遥は誇らしげに胸を張りながら、軽く肩をすくめて笑った。

「また今度ゆっくり教えてあげるね」


メイクの余韻が残る部屋で、遥がふと澪の肩に手を置いた。


「ねえ、鞄もいるんじゃない?買い物に行くんだし」

そう言いながら、遥は部屋の隅から小さめの白いショルダーバッグを選び取り出した。シンプルだけど、どこか上品で使いやすそうなデザインだ。


「こういうのがあると便利だよ。女の子の必需品も入るしね」

遥は鞄の中から小さなポーチを取り出し、澪に手渡す。


「まずこれがリップクリーム。乾燥しやすいから必ず持っててね。あと、このミニサイズのハンドクリームもあるといいよ。手を洗ったあととかに使うの」

そう言いながら、鞄に丁寧にしまっていく。


「それから、小さな鏡とティッシュ。急にメイク直したくなる時があるからね」


「このリップは軽く塗り直すだけで顔の印象がパッと明るくなるの。あんまり厚く塗りすぎないで、ポンポンって軽くね。あと……」

そんな風に、遥は簡単な化粧直しのコツとした方がいいタイミングなどを優しく教えてくれた。



 身支度を終えて程よく時間になった。遥は玄関先で、白のバレエシューズを渡した


「これ、サイズ合うかな?」

澪は恐る恐る足を入れてみると、ほどよくフィットした。


「うん、すごく履きやすいよ」


「よかった。今度一緒に買い物に行こうね。自分の服とか靴は絶対あった方が良いし、自分で選ぶのも楽しいからね」


遥の言葉に澪は小さく頷きながら、少し緊張がほぐれたのを感じた。


澪は玄関のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。


「行ってきます」

遥が微笑みながら背中を押すように言う。


「楽しんでおいで」

澪は深呼吸をひとつして、軽やかに外へ踏み出した。

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