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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
聖夜を彩る序章
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楽しかった今日が

 巨大水槽を後にした二人は、明るいエリアへ進みペンギンたちと出会う。

 よちよち歩く姿や水に飛び込む様子に、ひなたは無邪気にはしゃいでいた。

 賑やかな空気の中、案内を見つけた二人はイルカショーの存在に気づく。

 開始まであとわずかと知り、迷わず観客席へと向かった。

 少し後ろの席に座り、水面を見つめながら始まりを待つ静かな時間。

 やがてアナウンスが響き、二人の視線の先でイルカの影が水中を走った。

 水面が、わずかに揺れた気がした。


プールの脇から飼育員がバケツを持ちながら現れた。


「皆さん本日はご来場ありがとうございます。ただ今より蒼波(あおなみ)水族館のイルカショーをはじめます。皆さん盛大な拍手で迎えてください!」

飼育員は鋭く、空気を切るような笛の音を鳴らす。


次の瞬間ーー


ばしゃん、と水が跳ね上がる。


「わっ!」

ひなたが思わず声を上げる。


白いしぶきが高く弧を描いて、プールの上に散った。その中から、灰色の影が勢いよく飛び出した。


イルカだ。


しなやかな体が空中で弧を描き、照明を受けてキラリと輝く。


飼育員が腕を振り、もう一度、笛の音を鳴らすと、応えるように、水の中の影が動く。


二頭、三頭と続けて飛び上がる。


「すご……!」

ひなたが前のめりになる。


空中で体をひねり、揃って水面に戻る。


ばしゃん、ばしゃん、と連なる音。


水しぶきが照明に照らされて、細かい粒になって舞った。


まるで光が弾けているみたいだった。


「すごい…」


(みお)とひなたの視線は、水面を鮮やかに泳ぎ飛び跳ねるイルカに夢中だった。


飼育員が大きく手を広げ、その合図に合わせて、影が一斉に動く。


次の瞬間、同時に飛び出した。


一直線に並んで、高く。

息を合わせるように、同じ軌道を描く。


その動きは、あまりにも綺麗で一瞬、時間が止まったみたいに見えた。






 最後のジャンプが終わると、大きな水音がゆっくりと収まっていった。


しぶきの粒が、遅れて水面に落ちていく。


ほんの一瞬の静けさのあと、観客席から拍手が広がった。


ぱちぱちと、重なっていく音。


ひなたと澪もすぐに手を叩く。


「すごかったね……!」

さっきまでより少しだけ落ち着いた声だった。


澪は「うん」と小さく頷く。

それ以上の言葉は、うまく出てこなかった。


プールの水面には、まだ波が残り照明の光を受けて、細かく揺れていた。



やがて、場内にショーの終了を告げる声が流れ始めた。



「……行こっか」

ひなたが立ち上がる。その後ろ姿はなんだか名残惜しそうに見えた。


澪もその後に続き、出口の方へ一緒に歩いていき、さっきまでの賑わいが、少しずつ遠ざかっていく。




そのあとは、館内をゆっくりと回った。


 途中で立ち寄ったカフェでは、窓越しに見える水槽を眺めながら軽く休憩をして、

ひなたは甘い飲み物を嬉しそうに飲んでいた。


「これ、あったかい……」

そう言って、両手でカップを包み込む。


その仕草に、澪は少しだけ目を細める。

 

 お土産売り場では、色とりどりのグッズが並んでいた。


ぬいぐるみやキーホルダー、小さなガラス細工。


照明に照らされて、どれも少しだけきらきらして見える。


「見てこれ」

ひなたが足を止めたのは、キーホルダーの棚の前だった。


手に取ったのは、青とピンクのイルカのキーホルダー。


「これさ、ほら」

ひなたがキーホルダーを手に取り、向かい合わせにすると、二匹のイルカの形が重なってーー。


ちょうどハートの形になった。


「……あ」

思わず、澪も小さく声を漏らす。


「可愛くない?」

ひなたが、少しだけ得意げに笑う。


「……うん、かわいい」

澪は視線を逸らしながら答える。


「せっかくだし、お揃いにしない?」

ひなたが当然のように言う。


「二つで一つ、みたいな感じだし」

さらっと言われたその一言に、澪の心臓が少しだけ跳ねた。


「……別にいいけど」

軽く言いながらも、視線はキーホルダーから離れない。


「え、ほんと?」

ひなたがぐっと顔を近づける。


その距離に、澪が少しだけ目を逸らす。

「……うん」


「やった、じゃあこれにしよ!」

そのまま、ひなたが澪の手を軽く引いた。


ひなたはそのまま二つを手に持ったまま、レジの方へ歩き出す。



 会計を済ませて、売り場を出たところで、「ねえ澪ちゃん」と、ひなたがくるりと振り返った。


「一緒に写真撮ろ」


「……うん、いいよ」

澪はひなたに寄り添い少し屈む。


「そうだ!せっかくなんだしこれと一緒に撮ろ」

ひなたはそう言って、さっき買ったピンクのイルカのキーホルダーを取り出す。


「ほら、澪ちゃんも」

ひなたに促されて、澪も自分の分を取り出す。


青とピンクのイルカは向かい合わせになる。


少しだけ指先が触れる距離で、二つを合わせる。

「もうちょっと寄せて」


「こう?」


「うん、そのままそのまま」

楽しそうに言いながら、スマホを構える。


カシャ、と軽い音が鳴った。


画面の中に、小さなハートと二人の笑顔。その奥に、ぼんやりと水族館の光が映り込んでいる。


「いい感じ!」

ひなたが満足そうに笑う。


「あとで送るね」


「ありがとう」

そう言いながら、澪はもう一度だけキーホルダーに目を落とす。さっきよりも少しだけ、その形がはっきり見えた気がした。


ひなたはそれを大事そうにしまうと、「よし、じゃあ行こっか」と軽く言った。


澪はキーホルダーをポケットにしまった。その中で、指先はしばらく離れてくれなかった。

 


 

 出口へ続く通路を進むと、ガラスの向こうに外の光が見えてくる。


水族館の外へ一歩踏み出した。

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