表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
聖夜を彩る序章
46/46

広大な海の中で

 蒼波水族館に入った二人を、青い光に満ちた静かな空間が迎える。

 イラストの絵が描かれたチケットを手に、軽口を交わしながら館内へ向かう。

 最初のエリアでは、ひなたが子どものように水槽を見て回り、澪はその後ろを追いかける。

 楽しそうにはしゃぐひなたの姿に、澪の口元も自然と緩んでいた。

 やがて二人は、水槽の中に顔を出せる不思議なドーム型の展示を見つける。

 水の中に浮かぶようなひなたの顔と魚たちを眺めながら、澪はその光景に小さく笑った。

 ひなたがドーム型の水槽から顔を引っ込めると、二人はまたゆっくりと順路を進んだ。


小さな水槽の並ぶエリアを抜けると、通路の雰囲気が少し変わる。


明るい光が次に進むべき道を照らしている。


その光の先には、ゆるやかにカーブしたガラス張りのトンネルが続いていた。


「わ……」

ひなたが小さく声を漏らす。


ガラスの向こうを泳ぐ魚も、さっきのエリアにいた魚よりも、ひとまわり、ふたまわりと大きかった。


トンネルの中を進むと頭の上を、大きな影が横切る。その姿は、水面にゆっくりと揺れて、トンネルの中の床や壁にゆらゆらと影を落として行った。


下から見上げるその光景は、まるで本当に海の底を歩いているみたいだった。


「すご……」

(みお)は思わず足を止めかける。


でも、トンネルの中は思っていたより人が多く、ゆっくり進んでいて、流れに乗るように歩くしかなかった。


すると、ひなたが自然に澪の手を握り「はぐれたら困るし」と、言って少し笑う。


澪も何も言わず、その手を握り返した。


二人は人の波に乗りながら、横に並んで歩く。ガラスの向こうでは、大きな魚がゆっくりと旋回し、その影が、トンネルの中の青い光に溶けていく。


ひなたの方を見ると、魚の群れが横を通り過ぎた。


その瞬間、ひなたが小さく澪の手を引く。

「澪ちゃん、見て」


指差した先で、銀色の魚達が光を反射してきらきらと輝いた。


横に並んだ二つの影が、青い床に並んで揺れている。



 トンネルを抜けると、視界がふっと開けた。


目の前に広がったのは、今までとは比べものにならないほど大きな大きな水槽だった。


天井にまで届くガラスが壁一面にある。その向こうはまるで、広大な青い海がそのまま切り取られているみたいだ。


ゆっくりと大きな魚が泳ぎ、その後ろを小さな魚の群れが流れるようについていく。


水面に光が揺れて、広い空間に淡い影のカーテンを作り出していた。


「見てみて澪ちゃん!すごい大きいよ」

ひなたは澪の手を引くようにガラスの側まで駆け寄った。


「……おっきいね」

澪は思わずつぶやく。


そのまま海に吸い込まれるように、一歩、一歩と前に出て、ガラスのすぐ近くまで歩いていった。


ひなたもその隣に並んだ。


「見て、あの魚」

ひなたが指をさす先には大きな魚が二匹、追いかけるように泳いでいる。


ガラス越しでもわかるくらい、堂々とした泳ぎだった。


「私達みたいだね」

澪はそう答えながら、少しだけ視線をずらす。


目に入ったのは、水槽ではなくてーー


その前に立つひなたの横顔だった。


青い光が、ひなたを照らして、まるで水の中に溶けているみたいに、やわらかく見える。


ひなたはガラスに手を近づけて、泳ぐ魚を追うように視線を動かしていた。


楽しそう。


そんな横顔を見て、澪は優しく微笑む。


さっきまでの、ひなたのはしゃぐ声に揺れていた空気とは違う。ここは静かで、青くて、ゆっくり時間が流れているみたいだった。


水槽の中で、大きな魚が方向を変える。


その影が、ガラス越しに二人の前を通り過ぎた。


ひなたが小さく声を上げる。

「き、綺麗だね」


その言葉は、水槽に向けたものだったのかもしれない。

それでも、澪は少しだけ胸の奥があたたかくなるのを感じた。


隣にいるひなたが、同じ景色を見ている。それだけで、この時間が楽しく思える。


魚の群れが、光を反射してきらりと揺れる。


その青い光の中で、二人は静かに水槽を見上げていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想などいただけると、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ