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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
風に乗せた一歩
33/40

いつもとは違うあなた

 体育祭当日、校庭は赤と白のハチマキに彩られ、いつもとは違う熱気に包まれていた。

 開会式では、怜が選手宣誓を務め、その堂々とした姿が澪の胸に残る。

 百メートル走や玉入れでは、クラスメイトたちの奮闘に声援と笑顔があふれた。

 やがて迎えた二人三脚の競技。澪とひなたは、結ばれた足でスタートの合図とともに息を合わせて走り出し、練習以上の一体感でゴールを駆け抜けた。

 歓声の中、並んで笑う二人の姿が、体育祭の一日を鮮やかに彩っていた。

 午前の競技が終わると、昼休みのアナウンスが流れた。シートを広げる生徒や家族のざわめきが、風に混ざって響く。お弁当の匂い、笑い声。(みお)はテントの下で腰を下ろし、スマホに目を移した。

 

「あれ?みさきは?」


「午後の部の最初にダンス部の演技があるからって」


詩乃(しの)が説明しながら周囲を見回し指を刺す。その先には先生や他の部員と合流し、ステージ脇へ走っていくみさきの姿が見えた。


「じゃあ私、家族のところ行ってくるね。また後で」

詩乃は軽く手を振って離れていく。



 自然とその場に残ったひなたと澪。


「澪ちゃんはお昼、どうするの?」


「お姉ちゃんが来てるんだ。二人で食べようって言ってて」


「そっか。……もしよかったら、一緒に食べてもいい?」

ひなたは少し遠慮がちに言う。


「うん!お姉ちゃんも大丈夫だと思う、聞いてみるね」

澪は心なしか嬉しそうにスマホを取り出し、姉の(はるか)にメッセージを送る。


すると返事はすぐに来た。『もちろん。今どこにいるか教えて』


「よかった、いいよだって!」「やった!」

ひなたの笑顔が太陽のようにぱっと明るくなったと同時に、なんだか胸の奥があたたかくなる。



 ひなたと並んで歩きながら、周囲に視線を走らせる。人が多すぎて、遥の姿がなかなか見つからない。互いにメッセージを送り合いながら、徐々に合流地点へ移動していく。


(んー、どこにいるんだろう)


遥を探しているそのときだった。


視界の端に、フェンスの近くで一人座っている(れい)の姿を見つけた。

木陰の端。周囲の賑わいから外れた場所で、黙々とコンビニのパンを食べている。誰とも話していない。 


その姿は、体育祭の喧騒とは別世界にいるみたいだった。


(あれ?……一人なんだ)


何故か胸の奥が、ちくりと痛むような感じがした。


呼びかけようとしたけれど、隣を見るとひなたがいる。呼びかけるには、タイミングが違いすぎるそう思い、私は息をのんで、視線だけをそっと外した。


「澪ちゃんどうかした?」

ひなたは心配そうに澪の顔を見上げる。


「ううん、なんでもないよ。お姉ちゃんどこ居るんだろ」

澪はひなたのほうへ向き直り、歩き出した。



 数分後、ようやく白い日傘を探している、見覚えのある背の高い影を見つけた。


「あ、お姉ちゃん!」

手を振ると、遥がこちらに気づいて大きく振り返す。


「やっと見つけた〜。人多すぎるって」

遥はサングラスを外して服に挟む。


「ごめんね、あっちこっち移動しちゃって」


「大丈夫、大丈夫。えっと…ひなたちゃん?」


「は、はい!初めまして!白石ひなたです!」

ひなたが緊張した様子で頭を下げる。そんなひなたに遥は、にこっと笑ってひなたに手を伸ばした。


「澪と仲良くしてくれてありがとうね」


「そ、そんな!澪ちゃんと居ると楽しいので…!」


なんだかぎこちない感じだが、空気が柔らかくなる。


でも澪は胸の奥に、先ほどの怜の姿が引っかかっていた。


「二人とも、ちょっと先に食べてて。私、トイレ行ってくる」

澪は軽く手を振ってその場を離れた。



 しかし、澪はトイレへ向かうふりをして、グラウンドの端へ足を向ける。


怜はまだ同じ場所にいた。


私に気づくと、眉を寄せて少し驚いたような顔をする。


「……澪ちゃん?珍しいね、そっちから来るなんて」


「さっきは声かけられなくて、ごめん。ひなたが一緒だったから」


「ああ……なるほど」

怜は小さく笑って、残りのパンを包み直す。


「家族、来てないの?」


「うん。まぁ、そういう家だし」

怜は無表情に言ったけど、そこにほんの少し影があった。


(……やっぱり)


私は思わず口を開いた。

「ねぇ、よかったらーー」


言いかけた言葉を止めた。ひなたの顔が脳裏に浮かぶ。二人の間に流れる空気を思い出して、言葉が喉でつかえた。


(……いま誘っても、きっと複雑になる)


そう思い、ポケットから小さなパウチゼリーを取り出した。


 朝、お姉ちゃんが「これ持ってみんなで食べな」ってくれたもの。


「よかったら、これ食べて」


「え?」


「それだけじゃ足りないでしょ。……ね?」

澪は誘えなかった心残りを消すように、できる限りの笑顔で渡した。


怜は一瞬言葉をなくしたように、澪を見つめる。それから受け取ると、ゆっくりと指を握った。


「お前って……変わってるな」

その声はかすかに震えていて、表情がいつもより幼く見えた。

「そうかな?」


「じゃ、またね」


「ああ……黒瀬(くろせ)


「ん?」

澪は怜の方に振り返る。

「ありがとな」




 戻ると、ひなたと遥が並んで座り、すごく楽しそうに話していた。


「ごめん遅くなって」


「あ、澪ちゃん!聞いてよ、澪ちゃんのお姉ちゃんねーー」「澪、ひなたちゃん、すっごく可愛いって」


二人が同じタイミングで話し始めて、思わず笑ってしまう。


二人は私の話題で盛り上がっていたらしく、すっかり意気投合している。姉とひなたの距離が、一気に縮まっていた。


(……よかった)


さっき見た怜の姿が胸に少し残りながらも、私は二人の間に座り、昼の特別な空気に包まれていった。

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