夏の終わりを秋を告げる
四人は「また明日ね」と声を交わし、それぞれの部屋で静かな夜を迎えた。
澪とひなたは、花火にかき消されたあの瞬間を思い出しながら、言葉にできなかった思いを胸に眠りにつく。
翌朝、ぎこちなさを残しつつも、二人は笑顔で旅館を後にし、お土産選びに心を弾ませた。
眩しい海を離れるフェリーの上で、ひなたが「また来たいね」と呟き、澪はそっと頷く。
楽しかった日々は潮風とともに胸に残り、遠ざかる島が夏の終わりを静かに告げていた。
家に戻った澪の前に宿題の現実が押し寄せても、耳の奥ではまだ波の音が続いていた。
朝の空気は、真夏のときより少しだけ柔らかくなっていた。蝉の声も減って、代わりに風の音が少し強くなった気がする。鞄の紐を握りながら、久しぶりの通学路を歩く。
「……三週間、か」
小さくつぶやく。
あの旅行の日から、もうそんなに経った。ひなたや詩乃、みさきとは連絡を取っていたけれど――会うのは、あの日以来だ。
駅のホームで立ち止まると、少し胸が高鳴った。夏休みが終わる寂しさと、久しぶりに会える嬉しさが入り混じるように。
電車が到着の音とともにホームへ入ってきた。人のざわめきが近づく。車両に入り、いつもの場所に目を向けると――ひなたと詩乃が並んで立っていた。
「あ……」
思わず声が漏れた。二人もこちらに気づいたようで、ひなたがぱっと顔を上げて笑った。
「おはよう、澪ちゃん!」
「久しぶりだねー。旅行ぶりだね」
「うん……三週間ぶり、かな」
「なんか変な感じだね」
そんな会話をしながら、三人は向かい合い、肩を並べた。
「宿題、どうだった?」
詩乃の問いに、ひなたが小さく手を挙げる。
「ぎりぎり。昨日の夜、徹夜で終わらせた!もう眠くて……今立ってるの奇跡かも」
「だから早めにしなって言ったのに」
澪はまたいつもの日常が戻ってきたようでほっとしていた。
校門を抜け階段を上がり廊下を渡る。何度も通ったこのルートもなんだか懐かしく感じた。教室にはいると見慣れた顔ばかり。
「おーい、みさき〜」
ひなたが声をかけると、みさきが振り向いた。
「あっ、みんな!久しぶりー!」
「今日早いね」
「あー、今日ダンス部の朝練あってさ。もうすぐ大会があるからって、もう地獄」
「朝から元気だね」
「そっちも今日は早いんじゃない?」
「そうかなぁ」
そんな他愛もない話を交わしているうちに、教室のざわめきや笑い声がいつもの調子を取り戻していく。
澪はふと窓の外を見上げた。空はまだ少し夏の青を残していて――それでも、風の匂いは秋に変わりはじめていた。
チャイムが鳴ると、ざわめいていた教室が徐々に静まっていく。ドアが開き、担任の高橋先生が軽やかな足取りで入ってくる。
「おはよう。みんな夏休み楽しめたかー」
笑いながらそう言うと、教室の空気が一気に緩んだ。
「さて、夏休みも終わって、気持ちを切り替えていこうか。とはいえ――」
先生は黒板にチョークで『体育祭』と大きく書いた。
「みんな知ってると思うけど、体育祭。」
クラスの何人かが「ですよねー」と笑う。
「もう二週間後には本番だ。」
周りの反応を見ながら、澪は小さく息をのむ。――体育祭、もうそんな時期なんだ。夏休みが終わったばかりだというのに。
「で、早速今日の放課後に出たい種目のアンケート取るから、何に出たいかこれをみて考えといてな」
そういい高橋先生は、種目が書かれた紙を黒板の隣にある掲示板に張り付けた。
100m走やリレー、二人三脚、玉入れなど様々なものが書いてある。
(どれにしようかな…できればみんなとできるのがいいな)
昼休み。窓際の席を四つくっつけて、四人はお弁当を広げていた。窓からは初秋の風が入り、カーテンがふわりと揺れる。
クラスのあちこちから賑わいの声が聞こえてくる。
ひなたがパンを片手に「で、みんな決めた?」と聞くと、みさきがすかさず口を開いた。
「あたしは借り物競走! 絶対面白いって。去年めっちゃ盛り上がってたんだよ〜」
「いいね、似合ってる」
詩乃が笑って言うと、みさきは「でしょ?」と得意げに胸を張った。
「私は……玉入れかな」
「去年も玉入れしてなかった?」
とひなた。
「あんまり動かなくていいからね」
「詩乃ちゃんらしいね」
と澪が頷くと、詩乃は少し安心したように笑った。
「澪ちゃんは?」
「うーん……まだ迷ってる。どうせなら誰かと出たいなって」
「じゃあさーー私と出よう!」
ひなたが身を乗り出す。目がきらきらしていて、冗談ではないのがすぐわかった。
「二人三脚、どう?」
「えっ、二人三脚?」
「うん!澪と息合わせたら絶対速いって!あと……なんか楽しそうだし」
照れくさそうに笑うひなたを見て、澪もつい笑ってしまう。
「うん、いいよ。じゃあ一緒に頑張ろ」
「よっしゃ!」
とひなたが小さくガッツポーズをする。みさきがそれを見て、「青春だねぇ〜」とわざとらしくため息をつく。ひなたは「違うってば!」と慌てて否定した。
そんなやりとりに、昼休みの騒がしさが重なっていく。久しぶりの四人、久しぶりの学校。夏の終わりと秋の始まりが、少しずつ混ざり合うような時間だった。
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