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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
風に乗せた一歩
30/40

夏の終わりを秋を告げる

 四人は「また明日ね」と声を交わし、それぞれの部屋で静かな夜を迎えた。

 澪とひなたは、花火にかき消されたあの瞬間を思い出しながら、言葉にできなかった思いを胸に眠りにつく。

 翌朝、ぎこちなさを残しつつも、二人は笑顔で旅館を後にし、お土産選びに心を弾ませた。

 眩しい海を離れるフェリーの上で、ひなたが「また来たいね」と呟き、澪はそっと頷く。

 楽しかった日々は潮風とともに胸に残り、遠ざかる島が夏の終わりを静かに告げていた。

 家に戻った澪の前に宿題の現実が押し寄せても、耳の奥ではまだ波の音が続いていた。

 朝の空気は、真夏のときより少しだけ柔らかくなっていた。蝉の声も減って、代わりに風の音が少し強くなった気がする。鞄の紐を握りながら、久しぶりの通学路を歩く。


「……三週間、か」

小さくつぶやく。


あの旅行の日から、もうそんなに経った。ひなたや詩乃(しの)、みさきとは連絡を取っていたけれど――会うのは、あの日以来だ。


 駅のホームで立ち止まると、少し胸が高鳴った。夏休みが終わる寂しさと、久しぶりに会える嬉しさが入り混じるように。




 電車が到着の音とともにホームへ入ってきた。人のざわめきが近づく。車両に入り、いつもの場所に目を向けると――ひなたと詩乃が並んで立っていた。


「あ……」


思わず声が漏れた。二人もこちらに気づいたようで、ひなたがぱっと顔を上げて笑った。



「おはよう、(みお)ちゃん!」


「久しぶりだねー。旅行ぶりだね」


「うん……三週間ぶり、かな」


「なんか変な感じだね」

そんな会話をしながら、三人は向かい合い、肩を並べた。


「宿題、どうだった?」

詩乃の問いに、ひなたが小さく手を挙げる。


「ぎりぎり。昨日の夜、徹夜で終わらせた!もう眠くて……今立ってるの奇跡かも」


「だから早めにしなって言ったのに」


澪はまたいつもの日常が戻ってきたようでほっとしていた。



 校門を抜け階段を上がり廊下を渡る。何度も通ったこのルートもなんだか懐かしく感じた。教室にはいると見慣れた顔ばかり。


「おーい、みさき〜」

ひなたが声をかけると、みさきが振り向いた。


「あっ、みんな!久しぶりー!」


「今日早いね」


「あー、今日ダンス部の朝練あってさ。もうすぐ大会があるからって、もう地獄」


「朝から元気だね」


「そっちも今日は早いんじゃない?」


「そうかなぁ」


そんな他愛もない話を交わしているうちに、教室のざわめきや笑い声がいつもの調子を取り戻していく。


澪はふと窓の外を見上げた。空はまだ少し夏の青を残していて――それでも、風の匂いは秋に変わりはじめていた。




 チャイムが鳴ると、ざわめいていた教室が徐々に静まっていく。ドアが開き、担任の高橋先生が軽やかな足取りで入ってくる。


「おはよう。みんな夏休み楽しめたかー」

笑いながらそう言うと、教室の空気が一気に緩んだ。


「さて、夏休みも終わって、気持ちを切り替えていこうか。とはいえ――」

先生は黒板にチョークで『体育祭』と大きく書いた。


「みんな知ってると思うけど、体育祭。」


クラスの何人かが「ですよねー」と笑う。


「もう二週間後には本番だ。」


周りの反応を見ながら、澪は小さく息をのむ。――体育祭、もうそんな時期なんだ。夏休みが終わったばかりだというのに。


「で、早速今日の放課後に出たい種目のアンケート取るから、何に出たいかこれをみて考えといてな」

そういい高橋先生は、種目が書かれた紙を黒板の隣にある掲示板に張り付けた。


100m走やリレー、二人三脚、玉入れなど様々なものが書いてある。


(どれにしようかな…できればみんなとできるのがいいな)





 昼休み。窓際の席を四つくっつけて、四人はお弁当を広げていた。窓からは初秋の風が入り、カーテンがふわりと揺れる。


クラスのあちこちから賑わいの声が聞こえてくる。


 ひなたがパンを片手に「で、みんな決めた?」と聞くと、みさきがすかさず口を開いた。


「あたしは借り物競走! 絶対面白いって。去年めっちゃ盛り上がってたんだよ〜」


「いいね、似合ってる」

詩乃が笑って言うと、みさきは「でしょ?」と得意げに胸を張った。


「私は……玉入れかな」


「去年も玉入れしてなかった?」

とひなた。


「あんまり動かなくていいからね」


「詩乃ちゃんらしいね」

と澪が頷くと、詩乃は少し安心したように笑った。


「澪ちゃんは?」


「うーん……まだ迷ってる。どうせなら誰かと出たいなって」


「じゃあさーー私と出よう!」

ひなたが身を乗り出す。目がきらきらしていて、冗談ではないのがすぐわかった。


「二人三脚、どう?」


「えっ、二人三脚?」


「うん!澪と息合わせたら絶対速いって!あと……なんか楽しそうだし」

照れくさそうに笑うひなたを見て、澪もつい笑ってしまう。


「うん、いいよ。じゃあ一緒に頑張ろ」


「よっしゃ!」

とひなたが小さくガッツポーズをする。みさきがそれを見て、「青春だねぇ〜」とわざとらしくため息をつく。ひなたは「違うってば!」と慌てて否定した。


そんなやりとりに、昼休みの騒がしさが重なっていく。久しぶりの四人、久しぶりの学校。夏の終わりと秋の始まりが、少しずつ混ざり合うような時間だった。

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