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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
向日葵への出航
26/28

束の間の休息

ホテルに戻った四人は浴衣へ着替え、旅館の木の香りに包まれながら温泉へ向かった。

脱衣所で少し緊張しつつも、ひなたに背中を流してもらった澪は、胸の奥のざわつきを隠しきれない。

夕焼けを映す露天風呂では、海と向日葵島の稜線が黄金色に輝き、四人はその景色に思わず息をのんだ。

湯上がりの牛乳を飲みながら、火照った体を冷ますひとときは、どこか特別で温かい時間だった。

やがて空腹を抱えた四人は再び並んで歩き、夕食へと向かっていった。

 レストランの扉を開けると、目の前に広がったのは大きなホールだった。壁一面はガラス張りになっていて、窓の向こうには夜の海と街明かりがちらちらと瞬いている。柔らかな照明に照らされた空間は、少し背筋を伸ばしたくなるような、大人びた雰囲気を纏っていた。


「わぁ……すごいね」

(みお)が思わず息をこぼすと


「なんか高級感あるね」

と、ひなたも目を輝かせる。


 ブュッフェ台には色とりどりの料理が並んでいて、香ばしい匂いが食欲を刺激する。みさきがすでにトレーを持ち「とりあえず見て回ろ!」と元気に先頭を切った。


「一緒に行こっか」

詩乃が続き、四人は肩を並べながら料理を選んでいく。


フライドチキンやサラダ、色鮮やかなパスタ。デザートコーナーにはケーキやフルーツも並んでいて、自然とトレーの上が賑やかになっていった。



 各々が好きなものを好きなだけ詰め込み、テーブルに戻った。料理を見せ合いながら食事を始めると、いつのまにかテーブルの上には小さな笑いが咲いていた。




 夕食を終えた四人は自然と、澪とひなたの部屋に集まった。窓の外には波の音がかすかに響き、カーテンの隙間からは向日葵島の夜景がのぞく。


「はいっ、じゃーん!」

ひなたがバッグから取り出したのは、一組のトランプだった。


「やっぱこういう夜はこれでしょ!」


「さすがひな!わかってる〜」

みさきが手を叩き笑う。


「抜かりないね」

詩乃が呆れたように言うと、ひなたは得意げに胸を張った。


 ベッドの上に広げたカードを囲んで、最初はババ抜き。次に神経衰弱。笑い声が何度も弾け、負けたみさきが変顔をさせられては、詩乃がスマホで写真を撮る。

「やめてってばー!詩乃それ送らないでよ!」


「思い出として保存するだけ」


「絶対信用できないやつ〜!」


そんな他愛もないやりとりに、澪は小さく笑った。


こうして誰かと夜を過ごすのは、いつ以来だろう。 波の音と笑い声が混ざりあって、時間の流れがゆるやかになる。



 時計の針が十時を指した頃、明日に備えて早く休もうと、詩乃とみさきは立ち上がった。「じゃあ、また明日ね」名残惜しげな笑みを交わして、二人は静かに部屋を後にした。


ひなたは勢いよくベッドに倒れ込み、両手を広げて大の字になる。


「楽しかったね。……こういうの、ずっとできたらいいのにな」


「そうだね。でもまだ二日もあるよ?」


「そうだね。明日もいっぱい遊ぼうね、澪ちゃん」


「うん」


 その笑顔が眩しすぎて、言葉が続かなかった。明日が来るのが待ち遠しくなりながら灯りを落とすと、窓の外の海がぼんやりと光って見えた。夜風がカーテンを揺らし、誰かの寝息が微かに重なる。


澪は目を閉じながら思う――この時間が、終わらなければいいのに、と。

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