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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
向日葵への出航
23/26

鮮やかな海に彩りを

ついに向日葵島に到着した澪たち四人。

夏の陽射しの中、島で始まる非日常の時間。

ひなたと同じ部屋になった澪は、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

海へ向かう道、きらめく波、そして水着に包まれた初めての夏。

日焼け止めを塗り合う小さな距離に、二人の鼓動が重なる。

――眩しい夏の光が、ふたりの関係を少しずつ変えていく。

「よーし!泳ぐぞー!」

みさきの明るい声が大空を響かせる。


 砂浜に素足を踏み入れると、熱を帯びた砂がじんわりと伝わってくる。目の前に広がるのは、エメラルドグリーンの鮮やかな海。浅瀬は透き通っていて、波が寄せるたびに白い砂がきらめきながら舞い上がり、すぐにまた澄んでいく。


「わぁ……きれい」

(みお)は思わず声をこぼした。


遠くへ行くほど色が深まり、空の青と溶け合って境目が曖昧になる。


「すごーい!超キレイじゃん!」

勢いよく駆け出したみさきが、ばしゃんと水しぶきをあげて飛び込む。


「ちょ、ちょっと待って……!」

詩乃(しの)が小走りで追いかける。


 澪は足先を水に浸けてみた。海は冷たさの中に、太陽のぬくもりが混じっていて、波がさらうたびに足首が砂に埋もれていく。塩の香りが風に運ばれ、全身が海に迎え入れられるようだった。


隣でひなたがにやりと笑い、ばしゃっと澪の足元へ水を蹴りあげてきた。


「ひ、ひなた!」


「えへへ、行こ行こ!置いてかれちゃうよ〜」

からかわれつつも、その笑顔に釣られて澪も水をかけ返す。二人のじゃれ合いは、波音に紛れて小さな宝石のように煌めいた。



 思い切って胸のあたりまで浸かる深さまで歩くと、夏らしい解放感に心が躍る。


波の合間に足を伸ばして遊んでいると、ふいにみさきが声をあげた。


「ねえねえ!魚いる、魚!」


指をさす先をのぞき込むと、透き通った水の下に小さな群れが銀色や、黄色の体が光を反射して、きらめいていた。


「すごい、きれい」

澪は思わず息を呑んだ。


「海が澄んでるからよく見えるね」

詩乃が隣に来て一緒に覗く。


「ほら、あっちの岩場の下、赤いの見える?」


「わ、ほんとだ! あれサンゴ礁?」

ひなたが澪の肩に軽く手を置き、覗き込むようにして笑った。


「ねえ、澪ちゃん。一緒に潜って近くで見てみない?」


「え、えっと……」

水面に映るひなたの笑顔が眩しくて、澪は言葉に詰まる。


「じゃあ誰が長く潜れるか」

と、空気を読まないみさきが勢いよく潜り込んだ。


「もう……ほんと元気ね」

詩乃が呆れたように笑う。


澪は水面に漂うきらめきを見つめる。


ーー夏の海はただ遊ぶだけじゃなく、こんなにも美しいものを見せてくれるんだ。そして、隣で笑うひなたの横顔までいっそう輝いて見えるのだった。




――海の美しさと、隣の彼女の眩しさ。その両方に、澪の心はすっかり掴まれていた。







 四人で泳いだり笑い合ったり、時間を忘れるほど遊んだ。


やがて太陽が真上に差しかかり、みさきが大きな声をあげた。


「お腹すいたー!ご飯行かない?」


全員賛成して、近くにある海の家へ。



 海の家の前に立つと、美味しそうな匂いが潮風に混じって漂ってくる。立て看板を覗き込んだひなたが、ぱっと振り返った。


「ねえ、何食べる?」


指でメニューを順に追っていく。


「うーん……」

詩乃が少し顎に手を添えて考える。


「何個か買って、みんなで分け合う感じにする?」


「それいいね。せっかくだし色々食べたいし」

澪は自然と頷いていた。


「わたしかき氷食べたい!」

勢いよく声を上げたのはみさき。目がきらきらしていて、まるで子供みたいだ。


「わたしも!」

ひなたも即答する。にこにこと笑っていて、二人並ぶと本当の姉妹のように見え、澪は思わず小さく笑ってしまった。


「……デザート以外も欲しくない?お腹も空いてるし」


「そうだね」

詩乃が看板を指差す。


「フランクフルトとか、焼きそばも美味しそうだよね」


「焼きそばいいね!あとポテトも!」

みさきが次々と食べたいものを挙げていく。


「じゃあ、全部買っちゃおうよ!ほら、並びたさに行こ?」

ひなたがはしゃいだ声をあげて、澪の腕を軽く引っ張った。


(……このテンション、ついていけるかな。でも――楽しい)


潮風の中で、澪の胸の奥もふわりと熱を帯びていた。

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