鮮やかな海に彩りを
ついに向日葵島に到着した澪たち四人。
夏の陽射しの中、島で始まる非日常の時間。
ひなたと同じ部屋になった澪は、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
海へ向かう道、きらめく波、そして水着に包まれた初めての夏。
日焼け止めを塗り合う小さな距離に、二人の鼓動が重なる。
――眩しい夏の光が、ふたりの関係を少しずつ変えていく。
「よーし!泳ぐぞー!」
みさきの明るい声が大空を響かせる。
砂浜に素足を踏み入れると、熱を帯びた砂がじんわりと伝わってくる。目の前に広がるのは、エメラルドグリーンの鮮やかな海。浅瀬は透き通っていて、波が寄せるたびに白い砂がきらめきながら舞い上がり、すぐにまた澄んでいく。
「わぁ……きれい」
澪は思わず声をこぼした。
遠くへ行くほど色が深まり、空の青と溶け合って境目が曖昧になる。
「すごーい!超キレイじゃん!」
勢いよく駆け出したみさきが、ばしゃんと水しぶきをあげて飛び込む。
「ちょ、ちょっと待って……!」
詩乃が小走りで追いかける。
澪は足先を水に浸けてみた。海は冷たさの中に、太陽のぬくもりが混じっていて、波がさらうたびに足首が砂に埋もれていく。塩の香りが風に運ばれ、全身が海に迎え入れられるようだった。
隣でひなたがにやりと笑い、ばしゃっと澪の足元へ水を蹴りあげてきた。
「ひ、ひなた!」
「えへへ、行こ行こ!置いてかれちゃうよ〜」
からかわれつつも、その笑顔に釣られて澪も水をかけ返す。二人のじゃれ合いは、波音に紛れて小さな宝石のように煌めいた。
思い切って胸のあたりまで浸かる深さまで歩くと、夏らしい解放感に心が躍る。
波の合間に足を伸ばして遊んでいると、ふいにみさきが声をあげた。
「ねえねえ!魚いる、魚!」
指をさす先をのぞき込むと、透き通った水の下に小さな群れが銀色や、黄色の体が光を反射して、きらめいていた。
「すごい、きれい」
澪は思わず息を呑んだ。
「海が澄んでるからよく見えるね」
詩乃が隣に来て一緒に覗く。
「ほら、あっちの岩場の下、赤いの見える?」
「わ、ほんとだ! あれサンゴ礁?」
ひなたが澪の肩に軽く手を置き、覗き込むようにして笑った。
「ねえ、澪ちゃん。一緒に潜って近くで見てみない?」
「え、えっと……」
水面に映るひなたの笑顔が眩しくて、澪は言葉に詰まる。
「じゃあ誰が長く潜れるか」
と、空気を読まないみさきが勢いよく潜り込んだ。
「もう……ほんと元気ね」
詩乃が呆れたように笑う。
澪は水面に漂うきらめきを見つめる。
ーー夏の海はただ遊ぶだけじゃなく、こんなにも美しいものを見せてくれるんだ。そして、隣で笑うひなたの横顔までいっそう輝いて見えるのだった。
――海の美しさと、隣の彼女の眩しさ。その両方に、澪の心はすっかり掴まれていた。
四人で泳いだり笑い合ったり、時間を忘れるほど遊んだ。
やがて太陽が真上に差しかかり、みさきが大きな声をあげた。
「お腹すいたー!ご飯行かない?」
全員賛成して、近くにある海の家へ。
海の家の前に立つと、美味しそうな匂いが潮風に混じって漂ってくる。立て看板を覗き込んだひなたが、ぱっと振り返った。
「ねえ、何食べる?」
指でメニューを順に追っていく。
「うーん……」
詩乃が少し顎に手を添えて考える。
「何個か買って、みんなで分け合う感じにする?」
「それいいね。せっかくだし色々食べたいし」
澪は自然と頷いていた。
「わたしかき氷食べたい!」
勢いよく声を上げたのはみさき。目がきらきらしていて、まるで子供みたいだ。
「わたしも!」
ひなたも即答する。にこにこと笑っていて、二人並ぶと本当の姉妹のように見え、澪は思わず小さく笑ってしまった。
「……デザート以外も欲しくない?お腹も空いてるし」
「そうだね」
詩乃が看板を指差す。
「フランクフルトとか、焼きそばも美味しそうだよね」
「焼きそばいいね!あとポテトも!」
みさきが次々と食べたいものを挙げていく。
「じゃあ、全部買っちゃおうよ!ほら、並びたさに行こ?」
ひなたがはしゃいだ声をあげて、澪の腕を軽く引っ張った。
(……このテンション、ついていけるかな。でも――楽しい)
潮風の中で、澪の胸の奥もふわりと熱を帯びていた。
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