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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
夏休みの前座
18/26

あなたの理想を教えて

一旦勉強をやめてお菓子タイムをすることに。笑いながら色んな話をしているうちに、いつのまにか恋バナが始まり、澪がぽつりと言った。「……実はこの前、メールで告白されたんだ」その一言で、テーブルの上の空気が一瞬止まったように感じた。小さな胸のざわめきが動き始めた。

「えっ!?誰に!?」

ひなたが食い気味に声を上げる。驚いた自分に気づいたのか、慌てて両手で口を押さえた。その頬はほんのり赤い。


「え、えっと……同じクラスの男子だよ」

(みお)は困ったように笑いながら答える。すると、みさきが身を乗り出した。


「へぇ〜、名前は?」


「名前は……ちょっと無し」

澪はわざとらしく肩をすくめて笑ってみせる。その軽さに場は和んだが――


「ふ、ふーん……そっか」

ひなたは唇を噛みしめ、無理に笑顔を作った。胸の奥では、ざらついた何かがじわじわと広がっていく。


「ちなみに、なんて返したの?もしかして……付き合ってたり?」

にやりと笑いながら探りを入れるみさき。


「つ、付き合ってる!?してないしてない!」

澪は慌てて大きな声を出してしまい、三人は一瞬笑いに包まれる。耳の先が赤く染まったのを、澪は誤魔化すようにうつむいた。


「断ったよ。そんなふうに見たことなかったし……」


「そっかぁ。じゃあ何がダメだったの?顔?性格?」

畳みかけるように問うみさき。ひなたは横で笑っているけれど、その目は笑っていない。


「なんだろ……」

澪は髪をいじりながら小さく息をついた。


「そもそも恋愛対象って感じじゃないっていうか……あんまり、付き合いたいとも思ってない……かも」


「そもそも澪ちゃんは付き合いたいとか思う?」

詩乃(しの)は穏やかに問いかける。


「うーん…どうだろ、わからないかな。なんか付き合ってる自分が想像できない」

澪は首を傾げながら答えた。


「なるほどなるほど。よかったね、ひな?」

みさきは何かを察してひなたにパスした。


「――えっ!?な、なんで私に振るのよ」

ひなたは肩をすくめ、大げさに笑ってみせる。けれど声はほんのわずかに裏返っていた。


「ひな、澪ちゃんのこと好きでしょ」

みさきは見透かしたかのようにからかう


「ま、まあ…澪は――友達として好きだよ?」

口元には軽い冗談めいた調子を乗せ、声も明るく張る。言葉は簡単で、誰もがその意味をそのまま受け取った。


「確かに彼氏が出来て、遊ぶ機会が減ったらやだけど…澪ちゃんが幸せになるならいいかなぁ…みたいな?」


ひなたは笑顔を保とうと、少しだけ大きく笑ってみせる。指先でカップの縁をつまみ、視線をわざと外す。頬の裏で熱がぐっと盛り上がるのをどうにか押し込めながら、必死に胸の鼓動を抑えた。言葉は無邪気に響くが、終わるころには声がかすれていて、ひなたの手はほんの少し震えていた。周りの誰も、その震えには気づかない。



「じゃあ、3人はそういった経験はない?」

澪は自分が言ったのだから3人から聞き出そうとした。


みさきが待ってましたと言わんばかりに笑う。

「私はね、何回か付き合ったことあるよ。ただ期間は短いかな」


「私は……一回だけ告白されたことが」

詩乃は落ち着いた声で答えた。


「中学の卒業の日に告白されたけど、断ったの。相手も悪い人じゃなかったんだけどね」


「じゃあ、ひなたは?」

澪が視線を向けると、ひなたは一瞬言葉を探すように黙り込んだ。


「え、えっと……私も何回かは告白されたけど……全部断ったかな」

笑って答えたものの、どこかぎこちない。


「ひなたってかわいいからモテそうだよね。……でも、なんで断ったの?」

澪の無意識の言葉に、ひなたの胸の奥が一瞬にして熱を帯びた。


(え、今澪ちゃんに「かわいい」って言われた……?)


頬がじんわりと赤くなり、口角が自然と上がるのを感じ、悟られないよう堪えた。


「え、えっと……あんまり恋愛に興味ないっていうか。ほんとに好きな人と付き合いたいみたいな?」軽く言葉を流すように答えたけれど、心の中では澪の一言を何度も反芻していた。


「ひなたって、意外とロマンチストなところあるよね」

詩乃がふっと笑いながら言った。


「そうそう。じゃあさ、ひなの好きなタイプってどんなの?」

みさきが興味津々に身を乗り出す。


「え、私?」

ひなたは一瞬だけ視線を泳がせた。ほんのわずかに澪をちらりと見て、すぐに目を逸らす。


「うーん……一緒にいて楽しくて、自然体でいられる人、かな。あとは……ちゃんと自分を見てくれる人」


(なんだろ……今の、少しだけ私に言ってるみたいに聞こえた)

ただの言葉なのに、澪には不思議に聞こえた。


「へぇ……そういう人が、ひなたの理想なんだ」澪はぽつりと呟いた。なぜか胸の奥がきゅっとする。


「まぁまぁ、そういうこと!」

ひなたは慌てたように明るく笑い、場を和ませるようにお菓子をつまんだ。笑い声が広がり、ひとしきり盛り上がったところで、恋バナは自然に幕を閉じた。けれど澪とひなたの胸には、互いの言葉が静かに残り続けていた。

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