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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
夏休みの前座
17/17

大事なのはメリハリ

期末試験が近づく今日、四人で勉強会を開くことになった。行き先は詩乃の家、いつもより少し特別な場所。

真夏の陽差しが照りつける中、白い日傘をさして歩いた。着くとすでにみんながいて、家の中は賑やかだ。こんな調子で勉強会はうまくいくのだろうか――

 二時間ほどが過ぎただろうか。時計の針は三時を指していた。


「疲れたぁ〜」

ひなたが机に突っ伏す。それに釣られるように、みさきも同じように倒れ込む。


「……お菓子タイムにしない?」


「私も賛成」

(みお)は後ろに手をつき、背筋をぐっと伸ばした。小さく骨が鳴って、思わず笑みがこぼれる。


「そうだね、ちょっと休憩しよっか。お茶持ってくるね」詩乃(しの)が立ち上がると、その背を追うようにみさきも「手伝うよ」と笑って後に続いた。


残った部屋はひなたと澪だけ。


「澪ちゃんは好きなお菓子ある? 今日ね、色々買ってきたんだ」

そう言いながら、ひなたは袋から次々とお菓子を取り出して机に並べていく。小袋のお煎餅に、カラフルなグミ、パーティーサイズのチョコ。さっきまで勉強道具で埋め尽くされていた机の上は、いつの間にか甘い香りと鮮やかな色で埋め尽くされていた。


「結構買ってきたね……」

澪は机いっぱいに並んだ袋菓子を見て、目を丸くする。


「この中なら……これかな」

そう言って手を伸ばしたのは、パンダの絵が描かれたチョコ。


「それ美味しいよね、わかる〜」

ひなたがうれしそうに頷く。その明るい笑顔に、澪もつられて口元をほころばせた。ちょうどその時。


「お待たせ〜」

みさきが丸いお盆に麦茶のグラスを並べて戻ってきた。氷がからんと揺れて、涼やかな音を立てる。


「ありがとう」

二人は同時に礼を言い、キンと冷えた麦茶を喉へ流し込んだ。ひと息つくだけで、体の熱がすっと引いていくようだ。


「ひなた、これ絶対買いすぎでしょ。食べきれるわけないじゃん」

詩乃が呆れ顔でみさきの後ろから現れる。


「まぁまぁ。今日、家を借りてるお礼だと思って? それに残ったら詩乃にあげるからさ。弟くんたちお菓子食べるでしょ?」

ひなたは悪戯っぽく笑いながら、袋をもうひとつ開ける。


「……それは、まぁありがたいけど」

詩乃はため息をつきつつも、ほんのり口元が緩んでいた。



「詩乃ちゃんって、弟いるの?」

澪はお菓子を口に運びながら、ふと尋ねた。


「うん。中三の双子がね」

詩乃は麦茶を一口飲み、当たり前のように答える。


「確か、二人ともサッカーやってるんだっけ?」

みさきが口を挟むと、詩乃は軽く頷いた。


「サッカーか……懐かしいな」

澪は思わず、遠い記憶を追うように呟いてしまった。


「えっ、澪ちゃんサッカーやってたの?」

ひなたがぱっと顔を上げ、目を輝かせる。あまりに無邪気な笑顔に、澪の胸がドクンと跳ねた。


「あ……いや、ちょっとね。小さい頃に友達と遊んでただけで」

慌てて笑ってごまかす。自分の声がわずかに上ずっているのがわかる。


(危なかった……完全に気を抜いてた。最近、この身体にも慣れてきて、つい意識を忘れそうになる……)




 お菓子をつまみながら他愛もない話をしていると、不意にひなたが声を潜めた。

「ねぇ、澪ちゃんってさ……彼氏いたことある?」


「え?」

澪は手に持っていたチョコを落としそうになり、間抜けな声を漏らす。あまりに唐突な問いに、頭の中が真っ白になった。


「いやぁ、最近澪ちゃん人気だよ?特に男子から」

ひなたは冗談めかした笑みを浮かべる。だがその瞳の奥には、ほんの一瞬、掻き消すような影がよぎっていた。


「う、うそ。そんなことないよ」

慌てて首を振る澪。けれど心の奥に、いくつかの光景が浮かび上がる。席替えで隣になった男子がやたら話しかけてきたり、休み時間によく声をかけられるようになったり……。(まさか……あれって、そういうことだったの?)気づいた途端、頬にじんわりと熱が広がった。


「ほら、やっぱり。そうやって赤くなるの、可愛いんだってば」

ひなたはおどけるように笑いながら、胸の奥でざらついた感情がじくじくと広がるのを必死に隠していた。


「まぁ確かに澪ちゃんってさ、クール系かと思えば意外と天然で……可愛いとこあるよね」

みさきがポテトチップを頬張りながら軽い調子で続ける。


「……それ、からかわれてるだけでしょ」

澪は視線を逸らしながら呟く。だが耳まで赤いのを、誰もが気づいていた。


「告白とかされてないの?」

詩乃が興味を持つように聞いてきた。



「……実はこの前、メールで告白されたんだ」澪がぽつりと打ち明けると、テーブルの上の空気が一瞬止まった。

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