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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
夏休みの前座
16/17

一人よりもみんなで

水泳の授業を終えた澪は、心地よい疲れに体を預ける。

教室に戻れば、エアコンの涼しさと差し込む日差しがまぶたを重くする。気づけば机に頭をのせ、静かな居眠りに落ちていた。

家に帰れば、姉から「最近、女の子らしくなってきたね」と何気ない言葉。その一言に、胸の奥で小さく灯る嬉しさを隠せない。澪の日常は、少しずつ変わり始めていた。

 蝉の声が窓の外に混じるようになり、校舎の窓から差し込む陽射しは、六月までよりもいっそう強く、白くぎらついていた。そんな日のホームルームの終わり際。担任の先生が教壇からプリントを片手に、いつもの調子で言った。

「来週から期末テストだぞー。部活あるやつも、しっかり時間取って勉強しとけよ。赤点取ったら補習だからな」


 その一言に、教室中から「はぁ……」とため息がこぼれる。どこも同じなんだろうけど、テストの前ってどうしてこんなに空気が重くなるんだろう。


「……やだなぁ」


「数学とかほんと無理」


そんな声があちこちから聞こえる。私も正直、気が重い。


 帰りの支度をみさきと話しながらしていると、ひなたと詩乃(しの)が窓際で話をしているのが見えた。やがて二人がこちらにやってきた。


「ねぇ、みんなで勉強会しない?一人でやるより絶対マシだし」


その言葉に、みさきも「いいね、それ」と顔を見合わせた。


私たち四人は放課後の教室に残り勉強会の作戦を立てた。



「いつにする?」

スマホのカレンダーを見ながら詩乃が聞く


「あたし的には、テスト前の土曜日か日曜日がいいかなぁ」


「じゃあさ、日曜日にしない?前日の最終チェック的な」


「私もそれでいいと思う」


「じゃあ日曜日ね、場所はどうする?」


「うちはアパートだから、たくさん集まるのはちょっと難しいかも…」とみさきは頭をかきながら申し訳なさそうにしている。

「私はリビングにお姉ちゃん居るかも」

(みお)が小さく言うと、みさきが目を丸くして


「え、澪ちゃんお姉ちゃんいるの?」


「そうだったんだ、知らなかった!」

ひなたも少し身を乗り出し、声を弾ませる。


澪は少し頬を赤くして

「うん、大学生で…いつもリビングに居るから…勉強会の時はちょっと気になるかも」


ひなたは少し考え込み、「うちは兄弟いないけど…私の部屋に四人はちょっと入らないかも」

と、苦笑いするように伝える


その言葉に、澪は心の奥でなぜかほっとした。すると詩乃がすぐに

「じゃあ、うちにする?その日なら多分家誰もいないし、リビング使えば大丈夫だよ」と明るく提案する。


「じゃあ決定!」とみさきも賛成し、四人の間で自然に場所が決まった。







 日曜日のお昼、空は一片の雲もなく澄み渡っていた。容赦なく降り注ぐ陽射しが、地面を白く照り返す。立っているだけで汗が滲むほどの暑さだった。


(お姉ちゃんが日傘貸してくれて助かったかも…)


澪は真っ白な傘をさしながら詩乃の家に向かった。



「ここかな」


 目の前には、グレーに塗装された立派な二階建ての一軒家。ベルの少し上には「MIURA」と書かれていた。


澪は少し緊張しながら、深呼吸をひとつ。「よし…」と自分を励まし、チャイムを鳴らす。間もなく、玄関の向こうから「はいはーい!」と明るい声が響き、玄関が開く。


「やだ、ほんとそれはないって!」


「これがいいって、みさきが言ったんでしょ!」


奥からわいわい騒ぐ声が聞こえる中、迎えに出てきたのは詩乃で、開口一番ため息をつく。


「澪ちゃんいらっしゃい。もう気づいてるかもだけど……助けて」


「お邪魔します…ごめんねちょっと遅くなって」

澪は小さく笑い会釈する。リビングにはすでにひなたとみさきがおり、二人ともこちらを見て微笑む。澪はそっとリビングに足を踏み入れる。緊張はあるけれど、こうして皆が待っていてくれるのを感じ、少しずつ肩の力が抜けていくのを自覚する。


「澪ちゃんこれどう思う?」

みさきがお菓子の袋を見せながら聞いてきた


「このお菓子が好きかってこと?」


「そう!ひなたが買ってきたんだけどさ〜…抹茶味ってどーー」


「みさきがこのグミ美味しいから買ってきてって言ったからさ、買ってきたんだよ?」


「え、でも抹茶味買う?普通グレープとかみかん買うくない?」


「だって新商品って書いてたんだもん…食べたことないかなって。澪ちゃんはいいと思うよね?」

ひなたはニコニコしながら問う。


「い、いやぁ…私は抹茶嫌いじゃないけど……グミって合うのかな…」

澪は苦笑いしながら答える。


「ほらぁ澪ちゃんもそう言ってるし」


「じゃあ美味しくても二人にはあげないからね」

ひなたは頬をぷくぅ〜っと膨らませグミを取り返す。


「はいはいお菓子は後でねテスト勉強やるんでしょ」

詩乃が自分の部屋から教科書や問題集を持ってきて、机の上にドサッと広げた。


「え〜」ひなたとみさきは渋々座った。澪もひなたの隣に座る。

 



「ねぇねぇ澪ちゃん、ここからどうやるの?」

ひなたが数学の問題を指差しながら澪に尋ねる。


「あぁ…ここはね、こうやって式を整理すればいいんだよ」


澪は自然にひなたのノートへ身を寄せる。気づけば肩が触れそうなほど近く、ひなたの優しい匂いがふわりとした。


(……なんで、こんなに鼓動が速いんだ。勉強を教えてるだけなのに)


ペン先を指し示しながらも、心臓の音ばかりが耳に響いていた。


「……あれ?澪ちゃん、耳赤いよ?」ひなたが不思議そうに笑う。


「い、いや?……そんなことないと思うけど」

慌てて視線を逸らす澪。少し嬉しそうなひなた。


(照れ隠しなんて、かわいいなぁ澪ちゃん……)


澪とひなたが肩を寄せ合ってノートを覗き込む。澪の頬が赤く染まるのを、机の反対側から詩乃とみさきが見ていた。


「……あの二人、なんか最近距離近くない?」みさきが小声で呟く。

「まぁ、ひなたは澪ちゃん好きだよね」


みさきはニヤニヤが止まらないのか、口元を押さえて、楽しそうに目を輝かせる。


「ちょっと…なによ」

ひなたは見られてるのに気づいたのか、慌てて制した。


「いや?ごゆっくり」

みさきは笑いが止まらなかった。


「はいはい、勉強するよ」

詩乃が場を濁し、再び四人は勉強を始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想などいただけると、とても励みになります!

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