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この恋は百合の皮をかぶっている  作者: しろうさぎ。
鏡の向こうの始まり
11/17

自分らしさを探して

休日、四人は学校前に集合した。にぎやかに話しながら、リリィモールの新しいカフェへ向かう。

そこで、ひなたはスムージーを手に取り、澪に勧めた。澪は断る理由を見つけれず、一口貰うことに。

赤くなる澪に、ひなたは照れた笑顔を浮かべる。

二人の間に、ほんの少しだけ甘い距離感が生まれた。

「よし、じゃあ(みお)ちゃんコーデ大作戦スタート!」

みさきが声を上げ服屋を目指す四人。


「まずはここ!ここは澪ちゃんに絶対見てほしいって思った!」

みさきが足を止めたのは、全面ガラス張りの、白と木目を基調にしたセレクトショップだった。店先にはドライフラワーのスワッグやアンティーク調の看板が並び、外からでも柔らかな照明と落ち着いた音楽が漂ってくる。


「わぁ……おしゃれ……」

澪は思わず声を漏らす。都会でもこんなに雰囲気のあるお店はそう多くない気がした。


「でしょ? 服も小物も可愛いんだよ」

みさきが胸を張る横で、ひなたはすでに店内に足を踏み入れていて、入り口近くの方から


「これ見て!」

と声を上げる。ひなたが手にしていたのは、袖にレースがあしらわれた黒のニット。


「澪ちゃん、こういうの似合いそう」


「え、私?」


思わず受け取ると、柔らかい手触りが指先をくすぐる。鏡に当ててみると、ひなたが

「うん、間違いない」

とニヤリ。


みさきは

「いいね」

と頷く。


「……こういうのもあるんだ」

澪は新たな発見をする。


ひなたはにっと笑って

「どうかな?他も見てみよっか」


と、背中を押す。澪はその笑顔に心押され、店内の奥まで進んで行った。





「はい、お待たせ〜!」

店を出たみさきは、右腕を振りご機嫌にでてきた。


手首を見ると、小さな白いビーズとゴールドチャームのブレスレットが光っている。


「これ買ったんだ。ついでにタグ切ってもらったの」


ひなたが笑顔で手首をのぞき込み、澪も

「似合ってるね」と微笑む。


詩乃(しの)も静かに頷き

「みさきはこういうのほんと好きだよね」

と言った。


みさきは少し照れながらも、手首を軽く揺らしてブレスレットのチャームを光らせた。




「次は、どこ行く?」

ひなたが歩きながら聞く、すると詩乃が


「この先に、ひなたが好きそうな店あったはず」

と呟く。


「あ、そこ行きたい!」

ひなたが指さした先には、パステルカラーの看板とレースのカーテンが目を引く可愛らしいショップがあった。


 店内はふんわりした色のブラウスやレースのスカートがずらっと並び、まるでお菓子の国みたいだった。


(……いや、可愛いとは思うけど。思うけど――これは自分にはハードルが高すぎる)


澪は視線のやり場に困りながらひなたたちについて行く。


「ほらこれ、着てみてよ!」


ひなたが両手で抱えてきたのは、袖口に小さなリボンがあしらわれた真っ白なブラウスと、可愛らしいピンクのふんわりスカート。


「……丈、短くない?」

手に取った澪は、ひざ上どころか太もも半分までの丈に眉をひそめる。


「大丈夫だって!これ、キュロットが中にあるから」


「……キュロット?」


ひなたはくすっと笑いながら首を傾げる。

「澪ちゃん履いたことない?見た目はスカートだけど、中がズボンみたいになってるやつ。だから動きやすいし、座っても大丈夫だし楽だよ?」


(…なるほど、こんなのもあるんだ、でも見た目は完全にスカートだし…動きやすいって言われても、恥ずかしいのは変わらないし……)


澪が考え込んでいると、ひなたはにこにこしながら押し付けるように、試着室へ誘う。


「じゃあ、ちょっとだけ試してみよ!」

にこにこしながら背中を押され、試着室へ押し込まれた。



上着を脱ぎ、服を着替えるたびに布の擦れる音がやけに響く。


(なんか恥ずかしい)


外でひなたが少し息を呑んだような気配があった。


「だ、大丈夫? サイズ合ってる?」

その声がほんのわずかに上ずっていて、私の胸も妙に高鳴る。


「うん、大丈夫だよ」


着替え終えて、大きな鏡に映る自分を見て深呼吸をする。恐る恐るカーテンを開けると――澪の姿に、ひなたの目が輝く。


「ほら! めっちゃ似合ってる!」


「……落ち着かない。動くと裾が……」

澪はぎこちなく両手でスカートの裾を押さえ、視線を逸らした。その仕草に、ひなたは思わず顔をほころばせた。


「ふふっ……その押さえ方、可愛い。ほんと、澪ちゃんって照れると仕草まで可愛いんだから」


そこへみさきたちがやって来て、にこやかにひとこと。

「おお、似合ってるじゃん。ふんわりしてかわいい〜」


詩乃は少し離れて、冷静に観察しながらも微笑む。

「うん、可愛いと思うよ」


「…は、恥ずかしいからもう着替える!」

そういい澪はシャーっとカーテンを閉め、試着室に隠れた。


ひなたは少し残念そうに肩を落とす。

「えー、もう……?」


(せっかくかわいい澪ちゃん見れたのに、もう少し見たかったな……)


「…ごめん、ひなた。」

澪は小声で返した


ひなたは試着室のカーテン越しに、楽しそうに笑った。

「大丈夫だよ!かわいい服着た澪ちゃん見れただけで嬉しいな。次はもっとかわいいの着ようね!」

ひなたはすでに調子を戻していたようだった。




 店を出た瞬間、澪はほっと小さく息をついた。


(……やっと可愛いから解放された)


「次、どうする?」

とみさきが周囲を見回す。


詩乃が通りの向こうを指さした。

「あそこ、落ち着いた感じでよさそう」


黒を基調にした外観の、こぢんまりとしたお店


「いいじゃん。入ってみよ」


ひなたが軽やかに先を歩き、澪たちも続く。店内は静かで、柔らかい照明に照らされたラックが並んでいる。色味はベージュやネイビー、グレーなど、落ち着いたものが多い。


ふと、澪の視線に一着の服が止まった。

淡いブルーのブラウスと、柔らかいベージュのワイドパンツ。派手さはないけれど、涼しげで女性らしい色合い。


(さっきのは恥ずかしかったけど……こういうのなら)


そっと手に取り、鏡の前に立つと、ひなたが横から覗き込んだ。


「お、いいじゃん澪ちゃん。やっぱり大人っぽいのが似合うね。試着してみたら?」


「うん、そうする」


澪は少し楽しみそうに試着室に向かった。


 試着室で袖を通し、鏡の前に立つ。肩から胸元へと自然に流れるラインと、足元までゆるやかに落ちるパンツ。思っていたよりも、自分に似合っている気がした。


カーテンを開けた瞬間、ひなたが

「わぁ…!すごく澪ちゃんっぽい」


みさきも笑みを浮かべて言う。

「おー、いいじゃん。爽やかで大人っぽい」


詩乃も短くうなずいた。

「似合ってる」


澪は小さく笑みを浮かべた。



レジで会計を済ませ、紙袋を受け取る。外に出ると、夏の風が軽くカーディガンを揺らした。





――それから少し時間が経った。三人と一緒に、もう数件服屋を回り。あれこれ見て、試着し合って笑い合って――そして、今日最後の店を後にした。


「ふぅ……今日はいっぱい見たね」

みさきが大きく伸びをしながら笑う。


「ね!久しぶりの買い物で楽しかった〜」


「私も、笑い疲れて満足した」


澪も紙袋を握り直し、小さくうなずいた。

「うん……楽しかった」


こうして、ショッピングはあっという間に終わりを迎えた。

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