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日常と世界の狭間の中で  作者: 水白ウミウ
第1章 世界の隅の静かな家
4/5

03 世界関知

いつもと同じ日常が今日も明日もやってる来るとは限らない、昨日と同じ様に見えたとしても。

「世界が変わるきっかけは大きな出来事だと思うかもしれない、でもほんの些細な事。昨日は無かった道ばたの石ころで大きく変わる世界もある」

 

 音もなく匂いもなく前触れも無くそれは唐突に目の前に現れる.


 

 それは書斎のまでの一件からの3日後のお昼、二人分の食事を作り終えて大きな長テーブルの両端に皿を並べ始めた時だった。突如としてネオンサインが光り輝くような色鮮やかな人口的な光を放つのは彼女の腕輪にはめ込まれた石。それは魔石とも言われる魔力が込められる石という。

 

「新しい世界の境界が生まれようとしている、行くわ、行こう悠人!!」

「い、今からですか!? でもコレ……」

 

 両手に熱々のトマトのスープが入った皿を見下ろしながら突然の事に戸惑う自分、一方でサレリアは椅子から飛び上がるように立ち上がり襖の向こうを指さす。その表情は食事を静かに待つ彼女の姿とは一変し、喜びと活気に満ちたある意味で幼い少女の姿だった。

 魔石が教えてくれるその瞬間を彼女はいつも心の底から待ちわびていたのだと。

 

「分かりました、行きましょう今すぐに」

 

 世界と世界が隣り合った時に生まれる、世界の揺らぎとも波動とも言われる現象を捉え感知する魔石は波打つように発光の強さを変える。

 

「うん! そうなの、世界と世界は本来交わらない、反発し合うの。だから早くいかなと――」

「説明してる暇はないですよね? 話は移動しながら聞きます!!」

「ありがとう悠人」

 

 出会った時に強く握ってくれたサレリアの様に、白く柔らかい肌と温もりを感じながら今度は自分が彼女の手首を強く握りしめて駆け出す。居間を抜け、廊下を走り、靴を履く時間も惜しみながら外へ飛び出す。そして再び彼女が指を指し示した先を見上げる。立ち並ぶ大きな庭石の上、ここへ来た時と同じ隧道と呼ばれる暗闇の世界を繋ぐ道の入り口。

 

「まずはあそこを通って君のよく知る世界へ。そこからは……行けば分かるよ、君の出番だからね」

 

 そう言うと僕の頭を2回、指の腹でポンポンと優しく叩く。世界と世界の境界を見定める力、それが彼女が求める僕の力でありそれが僕が一番彼女の為に役に立てる事。誰かに必要とされる気持ちを感じたのは久々で師匠と過ごした時が最後だったから。それでもどんな世界が待っているのか分からない恐怖感は僅かにあった。

 

「準備はいいかい悠人?」

 

「準備は……いいですけど、あの高さの入り口に」

 

 その言葉は彼女にとって愚問であり、なんら障害の1つにもならない些細な事象。次の瞬間には足下から浮かび上がる箒に跨がり、箒の柄の先端から僅かに空いたスペースに座らせられ息つく間もなく浮上し彼女は言った。


「振り落とされないでね悠人」


 その発言に返答の余地もなく垂直に浮上、隧道と水平の位置に静止、突き刺さる矢のごとく一直線に穴に向かって飛び出した。

 

「ううップ……僕、あんまり……乗り物はとくじや……うう」

「どんな世界があるかっ、楽しみねッ! 悠人」

 

 背中に感じるやわらかな圧迫から意識を必死に逸らすのも精一杯の自分に対し、背後で表情は分からないが隧道の暗闇を突き進む彼女はきっと最高にワクワクして零れる喜びをしているに違いなかった。僕の言葉は届かないけれど、なんとか一刻でも早く世界と世界の境界に着いてくれることを願い箒の柄を強く握りしめるのだった。



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