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カマキリ

ユメの話

作者: MAGA

あなたができないのなら――わたしがやるわ

Fase1


気がつくと俺は――


暗いトンネルの入り口に立っていた。

ここは――

俺の頬を、トンネルの中のひんやりとした風が撫でていく。

とても――静かだ。


じゃり、と足音がしたので振り向くと、鎌を手にした伊庭(いば)がこちらへ向かってきていた。


此処(ここ)すか、桜木(さくらぎ)さん。

伊庭は――なんだかヘラヘラと笑いながらそう言った。

死んだ魚のような眼でトンネルを見ながら――

鎌の持ち手を親指と人差し指だけでつまんで、ぶらぶらと揺らしながら――

ゆっくりとこちらに近づいてくる。


おぉ、此処――だよたぶん。

でもよ伊庭、此処は――まだいいんだ、まだ――時期じゃねえんだ。

何言ってんすか桜木さぁん、ちゃちゃっとやっちゃいましょうよ、ね、僕がやりゃあすぐにカタが付きますよ。

なにも問題ないでしょ、なぁんにも。

伊庭は、相変わらずヘラヘラと笑いながら近づいてくる。

否、笑っているというより――


笑顔を貼り付けているように見えた。


伊庭、お前――

俺は何故か身構えた。

伊庭は、此奴(こいつ)は――こんな奴じゃあない。


何を愚図愚図(ぐずぐず)してるの、さっさと片付けましょう。


声のした方を振り向くと、リボルバーを手にした少女がトンネルの闇から(にじ)み出すように出てきた。


老久保(おいくぼ)さんじゃねえか、あんたも此処に――否、なんで此処に。


老久保さんは相変わらず怒ったような眼で俺を見つめている。

だが――

その眼に、わずかだが(あざけ)るような光が宿っていた。


さあ、早くやっちゃいましょうよ、伊庭くんができないなら、私がやってあげるわ。

あんまり遅くなると、凛子(りんこ)さんが心配するでしょ。


いや、あいつなら家にいるはずだぜ、それかまたどうせ、ふらふら外に――


そこまで言って気づく。


なんで――老久保さんが凛子のこと知ってんだ。

話したことなんかなかったはずだ。

いつも怒ってんだから。

お前――


僕が斬りますよ。


すぐ後ろで低い声がして、俺は慌てて身を(ひるがえ)した。

足下の砂利が派手に飛び散る。


鎌を持った伊庭は――ヘラヘラと笑ったふりをしていた。


お前――伊庭じゃねえだろ。


何言ってんすか桜木さん、僕ですよ、伊庭ですよ。

何回も――斬ってきたでしょ。


あんたのために。


俺のために――


そうだ、確かにそうだ。

俺のためだ。

俺が、俺が――


くすくすと老久保が(わら)いはじめた。

ひどい人ね、伊庭くんに斬らせるなんて。

それもこれも、全部あなたのせい。

あなたが――()えるだけの役立たずのせい。

そのせいであたしは――


お前――お前ら、一体誰だ。


老久保さんの(かお)が、ぐにゃりと歪んだように視えた。


あたし達は、ずっと此処に――


歪んだ貌が、別の貌を()してゆく。


紗那(さな)――


呼吸が苦しい。

息をいくら吸っても――胸が詰まったままだ。

紗那、どうして――


紗那の姿をしたソレは、ゆっくりとリボルバーを蟀谷(こめかみ)に当てた。


あなたができないのなら――わたしがやるわ。


待て、紗那

待ってくれ

俺が行くから

俺がやるから

もうすぐだから

あと少しだから

だから紗那、待って、待ってくれ――


紗那が嗤っているのか泣いているのか判らない

俺は――泣いているのか

紗那に向かってどんなに手を伸ばしても、何故か届かない

リボルバーの引き金に指がかかる

待てったら

頼むよ

待ってくれ



待たないよ



俺の耳元で、伊庭の姿をしたモノが(ささや)いた

これがあんたの――



()()()()()()()()()()



俺の叫び声が聞こえた



ちょっと、ねえ!

大丈夫?


体を揺らされる感覚と聞き慣れた声で目を覚ますと――


凛子が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

鳶色(とびいろ)の瞳に、俺が映っている。

俺は何も言わずに――凛子を抱きしめた。


ちょ、ちょっと、どしたのよ急に。

また夢見たの?

いつものあの夢?

初夢がそんなんだと、この先思いやられるわよ――


相変わらずよく(しゃべ)る女だ。

だが――俺はそれに救われている。

凛子に――


あれ――


俺は凛子から身を離すと、その顔をまじまじと見つめた。


な、何よ、今度は何?


凛子、お前――煙草(たばこ)止めたんじゃなかったっけ。


ああ、それ――


凛子はヘラヘラと笑って、悪びれもせずに言った。

一日一本ってルールに変えたの。


それ駄目なパターンじゃねえか。

俺が溜息を()きながら呆れたように言うと、凛子はカーテンを開けながら、やはり笑顔のまま言った。


大丈夫よ、今年はきっと――



うまく行くわ。



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