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マクア枢機卿と四つ巴の足音―第三者視点―

「ふむ………これで良かろう」


 教会の地下に位置するマクア枢機卿の地下施設で当の所有者マクアはとある報告を受け、その処理についての書類を書き終えた所であった。彼がどういった事に対処したのかというと“ジェラルド・マクラレン”なるくだんのS級冒険者がマクアの息が掛かったギルド職員に難癖を付け、レアメタルを要求した件についてだった。

 S級冒険者といえば、冒険者ギルドの手先であると同時に相当の実力者………と言えば聞こえは良いが、実際は人間を辞めている実力を持った化け物であり、魔術師であれば空から隕石を降らし、剣士であれば一撃で大地を切り裂くようなとんでもない連中の事である。

 一度攻撃すれば簡単に地形が変わってしまうという出鱈目な存在なのだ。

 当たり前だがそんな出鱈目な実力者は多くは居ない。だが、その多くは未開の地の一つとして名高いアキレウス砂漠に集まっているとされている。の地は力無き者は1分として生きる事が適わぬ地獄と言われ、魔物同士ですら弱肉強食に淘汰されるという。しかし魔物の強さに見合った希少な素材を手に入れる事が出来る上に戦闘狂にとってはいつまでも戦っていられる天国のような地であるという事で、錬金素材等を求める魔術師やスリルを求めるバトルジャンキーが集う地となっているのだ。 


 そんな出鱈目な存在であるS級冒険者が末端で何も知らされていないとはいえ、完成間近の自身の最重要プロジェクトを担う自身の子飼いにちょっかいをかけてきたというのだ。

 長年自身が追い求めていた悲願を、何かの拍子にでも邪魔されたら目も当てられないと危機感を募らせたマクアは、少しでもそのリスクを減らそうと希少なレアメタルの手配をわざわざジェラルドの為に行ったのだ。一重にS級冒険者(歩く戦略兵器)は早く帰ってくれという願いを込めて。


「どういった理由でS級冒険者(化け物)が来たのか分からんが、我が悲願はもう間もなく達成される……このような重要な時にそのような輩に邪魔される訳にはいかんのだ」


 そう言って指示を出した相手に枢機卿であるマクアのサインが入った書類を渡す。渡された相手は長い金髪をフード付の法衣(神官服)に隠した女だった。その姿はキースが見たというシスターに酷似していた。


「申し訳ございません。私が『シスターグリム・リーパー』が管理する実験場の一つにの化け物を誘導したばかりに、このような事態になってしまったのです」


 深々と頭を下げるシスターを手で制し、マクアはため息を吐く。


「もうその話は良い。過ぎたことに捕らわれてこの崇高なる歩みを止めてはならん。何故かは知らんが奴はレアメタルを欲しているようだ………アレは希少な物だが、人為的に災害を起こせるような人外の輩に邪魔される訳にはいかん。好きなだけ持って行かせるようにしてさっさと帰らせるのだ」


「では、そのように………永遠の信仰を神に―――」

 セクト教の簡易礼法を機にシスターはこの場を去った。

 その姿を見届けたマクアは、大詰めを迎えた自身のプロジェクトを推し進める。

 神へと至る道と題されたその計画は教会で禁忌とされる死体や魂魄を操る死霊術を始め、各地に伝わる呪術などの禁術を混合して混ぜ合わせて使用される文字通り呪われた計画だ。ひとえにそれは自身が神―――すなわち不老不死となる事が目的である。更に人を不完全に蘇らせる(ゾンビ化)という禁術にも手を出しており、枢機卿という身でありながら神をも恐れぬ所業を平然と行ってきている。

 そんな見るに耐えない欲に塗れた計画が今宵、完成しようとしていた。



 だが、そんなマクアにも予想できなかった事があった。



 いや、むしろ誰にも予想出来なかった事が“既に起き始めていた”のだ。


 それはレアメタルを与えることで追い返そうとしていたくだんの冒険者が夜中に教会に侵入した挙句、歴史的に価値がある遺物や構造物を破壊しながらこちらに向かっている途中であったり――


 さらに、自身が放ったスパイとその愉快な仲間たちが、教会内にある歴史的遺物を平気で破壊しまくっていることを新たに突きとめたアルメリアの王子と付き添いの敏腕スパイが泡を食いながらその後を追っていたり――


 とどめに、その脱走した王子の居場所をとうとう突き止めた危機管理チームの面々が紫峰山へと向かっていたりしていたのだ。


 特に護衛任務失敗で面子を潰されたアンドレイ・ペトロフ将軍以下スペシャルフォース精鋭部隊と復讐に燃えるチャーリー・ベラチーニ一等書記官の士気は周りがドン引くレベルで高く、全員目を血走らせながらの行軍を行っていた。


 こうして『マクア枢機卿 VS ジェラルドと愉快な仲間達 VS 脱走王子と敏腕スパイ VS 王国連合大隊』という無駄に壮大な四つ巴が展開されることとなってしまったのである。

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