螺旋階段と酔う男
※食事中の方はご注意下さい
知的でクールな俺が見破った隠し扉を抜けると、そこには下へと続く階段があった。真っ暗かと思いきや、壁にはカンテラのような光が灯っていてその先もよく見えるようになっている。そして階段は螺旋のような形状をしていて、降りるだけで酔いそうな構造をしていた。
「うげぇー!よりによって螺旋階段かよ!俺ってば、こういうの酔っちゃう系なんだよね!」
誰も聞いていないのに案の定、馬鹿が騒ぎ出した。勿論、いちいち構っていられないので馬鹿を無視して階段を降りる。自称スパイもそれに習って降り始めた。
「おい!無視すんなや!………って、待って!置いてかないで!」
暫く喚いていたキースであったが、何の反応もせずに無言で階段を降りていく俺たちの姿を見て本当に置いて行かれると思ったのか、キースは必死になって着いて来やがった。
うざい事この上ないが、これで暫く大人しくてしくれるといいんだが………いや、それはないか。
まぁ、あんな馬鹿はさておき、レアメタルさえここで手に入ればこんな茶番に付き合うのもこれで最後だろう。そんな事を思っていると、自称スパイが俺に話しかけてきた。
「こんな所に来てから言うのも何だけど、君達ってレアメタルで何をしようとしてるんだい?」
「はぁ?本当にこんな所に来てから言う台詞じゃないだろ。何言ってんだってんだよ」
自称スパイのTPOを弁えない質問に呆れる。周りは敵だらけだってーのに、こいつは何なんだ。
そんな事を思っていたら、何故か青い顔をしたキースが食いついてきやがった。
「ジェラルド。別に減るもんじゃないし話してやれよ………
っていうか、螺旋階段のせいでやっぱり吐きそう………気を紛らわしたいから早く何か言ってくれ、うぷ」
「おい!吐くな!止めろ!
吐くのを止めるっつーなら、話してやるから今すぐ口を抑えるのは止めろ!!」
口元を抑えながら涙目のキースを宥めつつ、俺は自称スパイに今までの経緯を話す。
「あー、何から話したもんか分からんが、俺たちはキーロフの村から来たんだ。
色々あって領主の息子の依頼で紫峰山にあるレアメタルを手に入れる事になったんで次の日村から出発したんだが………キースのクソ野郎のせいで道に迷った挙句、着いた先がゾンビ村でな。ひでー目に遭ったよ」
「………何というか、初っ端から凄い体験をしたんだね………」
自称スパイが同情してくる。あの時はまったく酷い目に遭ったもんだ。
「そうだよ、まったくとんでもねー目に遭っちまってよ。
まぁ、それはさておき何やかんやあったが紫峰山に着いた。だけど、一日中ゾンビ村に居たせいで疲れが取れなくてな。最初に宿探しをしたんだが、祭りだか何だかのせいでどこも取れなかった。で、途方に暮れてたら死霊の館のオーナーに絡まれてな。それであんなクソみたいな宿に泊まることになったんだ」
「いや、あの館って“栄光の鷹”っていう名前じゃ「どうでもいいから話を続けるぞ」
自称スパイの話をぶった切る。あんなゾンビが出てきそうな廃館の名前なんて死霊の館で十分だ。
「冒険者ギルドにちょっとしたツテがあって、依頼の分のレアメタルは入手出来る事になったんだが(俺にとって入手する事は確定事項だ。出来なかったらギルドの3馬鹿トリオをSランク権限でクビにしてやる!)俺の職業は鍛冶師でな。レアメタルを手に入れて鍛冶をしてやろうって思って、この近くにあるレアメタル採掘場に行って直接手に入れられないか行ってみることになったんだよ。まぁ、そんな経緯があってアンタに出会ったんだよ」
しかも落盤事故のオマケまで付いてきたしな。
「いやはや、あの時は普通に死ぬかと思ったよ。天井が崩れてきた時は土砂に埋まる事を覚悟したね」
「まったくだよ、ったく、このクソキースのせいで面倒な目に遭ったんだ。反省しろよな!!」
そう言って、全然会話に入ってこないキースの背中をいつもの調子でドンと叩いた。
「おぶっ!!!
おろろろろろろろろろろろ~~~!!」
「ぎゃああああああ!!キタネェェェェェェ!!服に!服に掛かったぁぁぁぁぁ!!」
「おわあぁぁぁぁ!ちょ、えっ!待って!止めて止めて!落ち着いて!!」
未だに吐き続けるキース、吐瀉物が少し服に掛かって焦る俺、あたふたと焦るばかりでクソの役にも立っていない自称スパイ。
三者三様のカオスな展開を迎えることになった。
――――3分後―――――
「………マジ、信じられねぇ………気持ち悪いって先に言っておいたのに、いきなり背中押しやがって………三歩歩いたら忘れるとか、鳥頭かお前は………っ!おぷぅっ!」
「いやいや、悪かった悪かった!っていうか“クリーン”の魔法覚えておいて良かったよ。これが無かったら、耐え切れなかったかもしれん」
「いやいや、服の心配よりキース君の心配をしようよ………」
3分経って、色々落ち着いた俺たちは何とか螺旋階段を降り切る事に成功した。
階段を降り切ると目の前には観音開きの大きな扉があり、いかにも何かあります、という存在感を放っている。
「何とか降りきったな」
「………まだちょっと気持ちわりぃ………」
「キース君………あまり無理しない方が………」
最後まで締まらない俺たちはキースの回復を待って目の前の扉を開けるのであった。
H28年6月27日 主人公のジェラルドがやりたくもない剣の修行を長年続けてきた理由が弱くご都合主義すぎるとご指摘頂いたので、3話目の内容を大幅に変更致しました。